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シリウスさんの部屋に戻ったら、扉がノックされて、ふんわり金髪の美女さんが入って来た。
「アンフィちゃん。お風呂に行きましょう?」
「あ、はい」
あたしはクロ―ゼットから布袋を取り出す。
「そうそう。パジャマも作ったから、お風呂を出たら、それを着ましょうね」
「はい」
美女さんはあたしを抱き上げる。
「では、シリウス殿。アンフィちゃんをお預かりします」
「……頼む」
「行ってきます」
あたしがシリウスさんに言うと、シリウスさんは頷いてくれた。
それを見ながら部屋を出た。
美女さんは、歩きながら思い出したように声をあげた。
「いけない。わたし、自己紹介してなかったわね。わたしは整備省のエレクトラよ。主に衣服の制作をしているのよ」
「よろしくお願いします」
「アンフィちゃんに沢山可愛い服作ってあげるわね」
いえ。程々でお願いします。
あたしは服装にあまり頓着しなかったので。
お風呂に着くと、エレクトラさんは布袋からあたしが前に着ていたワンピースと下着を取り出した。
「お洗濯しちゃいましょう」
脱衣場の端に、洗濯機らしき物が置いてあった。
電気とかなさそうなのにどうやって使うんだろう?って思ってたら、魔力で動く物でした。
魔法使いじゃなくても、この世界の人達は魔力を持ってるので、その魔力をスイッチにして、洗濯機に内蔵されている魔法を働かせるらしい。
服や下着を洗濯機に入れて、エレクトラさんはその場で大胆に脱ぎ出す。
「今着てる服も洗っちゃいましょう」
言われて、あたしも服と下着を脱ぐ。
洗濯機に服や下着を入れて、蓋を閉じて、上部にある石に触れた。
すると、ゴォンゴォンと動き出す。
「さ、今のうちにお風呂に入りましょう」
エレクトラさんもボンキュッボンでした。
羨ましくはないですよ?
だって、あたしはナイスバディなお姉様を見てる方が好きですから。
あたしは髪をタオルで上げて濡れないようにしてから、洗い場に入る。
そして自分で体を洗う。
シャワーも石に触れることでお湯が出る。
泡を落として、湯船に入る。
見ると、数人の女性がお風呂に入っている。
皆さん、ナイスバディです。
目の保養。
充分温まってから出て、脱衣場でバスタオルで体を拭く。
エレクトラさんが下着とパジャマを出してくれた。
パジャマの色は淡いピンク。
「洗濯終わってるかしら?」
エレクトラさんが洗濯機の蓋を開ける。
中から服や下着を取り出した。
乾いた状態です。
え?!これ、乾燥機能も付いてるの?!
この世界の技術がわからない。
エレクトラさんはあたしの頭のタオルを取り、髪を櫛でとかしてくれた。
「さ、終わりよ。部屋に戻りましょう」
洗濯した衣類を布袋に入れてあたしが靴を履くと、エレクトラさんはあたしを抱き上げた。
そのままお風呂場を出て、廊下を歩く。
「明日から女性省員がアンフィちゃんをお風呂に連れて行くからね」
「はい。ありがとうございます」
女性省員さんが何人いるのか知りませんが。
あたしが覚えられるといいですね。
エレクトラさんは廊下の途中で止まり、箱のような物の前に立つ。
服のポケットからお金らしき物を出して、箱の穴に入れた。
箱にはボタンのように石が十個位並んでいて、石の上には文字が書かれている。
これはもしかして、自動販売機ですか?!
エレクトラさんは「オレンジ」と書かれたところの石に触る。
すると、箱の下部に紙コップが落ちてきて、オレンジジュースが紙コップに注がれる。
やはり自動販売機でしたか。
エレクトラさんは紙コップをあたしに渡してきた。
「はい、アンフィちゃん。水分をちゃんと取らないと、ダメよ?」
「ありがとうございます」
笑ってお礼を言うと、エレクトラさんも微笑んでくれた。
渡されたオレンジジュースを飲みながら、考える。
さっきの文字、読めたね、何故か。
前の世界にはない文字なんだけど、読めたよ。
なんだろう?
異世界転生の特典?チート能力?
つーか、チートならもっと色々出来るはずだけど、あたしにはそんな能力無さそう。
魔力を封じられてるって、シェアトさんが言ってたっけ。
その封印が解けたら、チートかしら?
………ま、夢を見るのはやめておこう。
変に期待しても、そうじゃなかった時へこむしね。
シリウスさんの部屋に戻って来て、エレクトラさんとは別れた。
別れ際に、明日の服を渡されたりして。
「ただいまです」
声を掛けると、椅子に座って本を読んでいたシリウスさんが顔を上げた。
「おかえり」
たったそのひと言が、何故かすごく嬉しい。
あたしは自分のスペースに行き、クロ―ゼットに服を掛けて、クロ―ゼット内の抽斗収納部分に下着類を入れる。
シリウスさんが、机の上に置いた紙コップに気づき、少し眉を寄せた。
「エレクトラさんに買ってもらいました」
「そうか」
シリウスさんは何か考えているようだ。
机の上の時計を見れば、二十二時を過ぎたところ。
この時計は二十四時間表示なんだけど、この世界の時計は全部そうなのかな?
「シリウスさん、あたし、もう寝ます。お休みなさい」
「ああ、お休み」
あたしがベッドに入ったのを見て、シリウスさんは部屋の灯りを落としてくれた。
今日一日がすごく長く感じた。
衣食住は保証されたし、なんとか生きていけそう。
前向きに頑張ってみよう。
子供になっちゃってるけどね。
読んで頂き、ありがとうございました。