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目が覚めたら、知らない場所だった。
不思議に思い辺りを見回し、やっと思い出した。
そうだ。自分は、違う自分になっているんだ、と。
起き上がると、物音に気づいたらしい部屋の主の足音が聞こえる。
「アンフィ、起きたのか?」
声を掛けつつカーテンを開けて、シリウスさんが顔を覗かせる。
「はい。えと、おはようございます?」
疑問形になったのは、今が夜だから。
あたしは起き上がりつつ、物が増えていることに気づいた。
机の上にはランプの様な小型の灯りと、置き時計、カレンダーらしき物が増えている。
横の棚にも本が並べられていて、観葉植物が置かれていた。
あたしの視線に気づいたシリウスさんが、微妙に苦笑いになる。
「シェアト殿が置いて行ったんだ」
「そうですか」
シェアトさんに後でお礼を言わないと。
「夕飯の時間だが、どうする?」
「ご飯っ」
おっと、ヨダレが出そうですよ。
寝て起きたらお腹が空いてるって、どんだけ本能で生きてるんだ、あたしの体。
ベッドから降りると、シリウスさんが手をつないで引いて歩いてくれた。
食堂は中央棟の一階にあるとのこと。
そういえば、あたしはほとんど道を覚えていないけど、ここで生活するからには構造とか覚えなきゃなぁ。
まあ、方向音痴ではないので、そのうち覚えるでしょう。
シリウスさんと歩いていると、廊下にいる人達の視線が突き刺さる。
あ、そっか。子供って珍しいんだよね。
でも、そこまでガン見しなくてもいいのに。
「ああ、シリウス省長」
背後からの声に振り返ると、ムルジムさんが居た。
そういえば王様に会った後にいなくなっちゃったけど、やっぱりお仕事だったんですかね?
あたしを拾ったのもお仕事中だったしね。
「ムルジム。帰ってたのか」
「ええ。ツヴァイ村の方は大丈夫ですよ。やはり、あのグリズリーが報告にあった個体だったようです」
「そうか」
二人のやりとりを見上げていたら、ムルジムさんがしゃがんであたしの視線に合わせてくれた。
「そういえば、名乗ってなかったな。俺は警備省副長のムルジム。警備省ってのは、城の内外の警備が主な仕事だ」
あ、やっぱり兵士さんなお仕事なのですね。
「アンフィです。よろしくお願いします」
頭を下げたら、その頭を撫でられた。
「省長、これから食事ですか?」
「そうだ」
「じゃあ、ご一緒してもよろしいですか?」
「構わん」
………シリウスさんって、口下手なのですかね?
まあ、そこも素敵です。
人間、多少の欠点は当たり前ですよ。
あたしはオタクなことが残念な部分だと言われていました。
オタクは経済も潤すんだぞっ。
と反論したら、可哀想な人を見る目で見られた事も懐かしい思い出ですね。
「ところで、アンフィに合わせて歩いていたら、食堂に着く前に、アンフィが疲れませんかね?」
ムルジムさんの言葉と共に、あたしはひょいとムルジムさんに抱き上げられていました。
シリウスさんがちょっと怖い顔してます。
そして何故かムルジムさんは笑ってます。
「いやぁ、省長のそんな顔、初めて見ましたね。おっと、俺が敵認定される前に返しますよ」
あたしはムルジムさんの腕から、シリウスさんの腕に渡される。
荷物扱いですね。
二人はまた歩き出す。
やはり歩幅が違うせいか、あっという間に食堂に着いた。
食堂には沢山の人がいる。
みんなそれぞれ制服らしき物を着てる。
そんなみんなの視線があたしに集まってる。
うん。わかってる。
子供が珍しいんでしょ?
シリウスさんは真っ直ぐカウンターへ行く。
カウンターの向こうには青年が二人。
この二人が配膳をやってるのね。
「サダクビア殿」
シリウスさんが厨房の中に声を掛けると、爽やかイケメンなサダクビアさんがやって来た。
「おう、来たか。アンフィの分は別に用意してあるぞ」
サダクビアさんが話してる間に、配膳の青年はシリウスさんとムルジムさんの分のご飯をトレーに用意してた。
素早いですね。プロですね。
サダクビアさんが厨房から出て来る。
片手にトレー。片手に子供椅子。
懐かしい!
レストランとかにある、あの子供椅子!
あ、あたしが座る椅子ですよね。
三人は(あたしはシリウスさんに抱えられたままですよ)空いている席へ移動し、まずトレーをテーブルに置く。
で、椅子をひとつ子供椅子と交換する。
「ほら、アンフィの席だぞ」
「ありがとうございます」
サダクビアさんに示されて、あたしは椅子によじ上る。
座ってみると、ちょうど良い高さでした。
シリウスさんがあたしの前にトレーを引いてくれた。
シリウスさんはあたしの隣、ムルジムさんはあたしの向かいに座る。
「さ、食べろ」
「はい。いただきます」
夕飯は炒飯とピラフの間の様なものと、サラダとジュース。
サラダはシンプルな塩と油のドレッシングに、柑橘類の果汁がプラスされてて、さっぱりと美味しい。
炒飯は、細かく刻んで入ってるベーコンがいい具合です。
ジュースは桃ジュースでした。
「ごちそうさまでした」
食べ終わって隣を見ると、シリウスさん達も食べ終わっていた。
早ぇな、食べるの。
結構な量あったけどね、大人一人分のご飯。
大人達のは、あたしのメニューに鶏唐揚げと魚のフライが付いてて、ジュースの代わりに野菜スープでした。
鶏唐揚げ食べたかったなぁ。
そういえば、この国の主食は米ですかね?
麺類も食べたいです。
あたしは麺>米>パン、だったからなぁ。
基本、どれも好きだけどね。
あたしは椅子を降り、運ぼうと持ち上げたところで、ひょいとシリウスさんに奪われた。
「重いから、俺が運ぶ」
優しいですね、シリウスさん。
ムルジムさんはあたしの分のトレーを持ってくれてます。
持とうと手を伸ばしたら、首を横に振られました。
ちくしょう。
わかったよ。あたしの目標は、上腕に力こぶをつくれるようになるまで筋肉を付ける、に決めたぞ。
後日、それを話したら何故か皆さんに止められたけど。
読んで頂き、ありがとうございました。