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お城の一角に、浴場がありました。
なんていうか、銭湯?
男湯、女湯と分かれていて、扉がふたつ並んでます。
扉を開けると仕切りがあって、その向こうが棚の並んでいる脱衣場。
その奥にまた仕切りがあって、その向こうが風呂場。
洗い場と浴槽があって、ほんとに銭湯のようですよ。
脱衣場でシェアトさんがあたしを下ろしてくれて、言われて服を脱ぎました。
ワンピースを脱ぐと、その下にはスリップのようなものとパンツ。
パンティではなく、パンツ。
……子供だからいいか。
真っ裸になったあたしを、バスタオル一枚体に巻いたシェアトさんが洗い場に連れて行く。
洗い場にはシャワーがあって、ボディソープやシャンプーの容器も置いてある。
なんでも揃ってるんですね。
シェアトさんがまずあたしの髪を洗う。
「え」とか「あ」とか言ってる間に髪を洗い終わり、髪をタオルでまとめて上げられる。
次に体を洗われた。
……あたし、自分で出来ますが。
シェアトさんが楽しそうなので、やらせときましょう。
泡を全て流すと、バスタオルで体を拭かれました。
「今は洗うだけね?夜にはちゃんと入りましょう」
あ、そうですね。まだ昼間だし。
脱衣場に戻ると、シェアトさんが魔法で髪を乾かしてくれた。
熱と風がどうとか言ってました。
魔法を使えない人は自然乾燥かと思ったら、ドライヤーに似た道具があるらしい。
布袋を開けて、用意してもらった下着を着る。
これもしっかりパンツですよ、ええ。
それとキャミソール。
服は首まである襟に、前の部分に可愛い花のボタンが並んだ、ノースリーブのベージュ色のワンピース。
腰の部分に大きなリボンが付いてます。
服は可愛いですね。
あたしが着て似合うかは別ですがね。
シェアトさんも手早く服を着ると、あたしの荷物である布袋を持って、あたしを抱き上げる。
「うふふ。可愛いわね」
シェアトさんがにっこり笑う。
シェアトさんの服は、魔法使いっぽいフード付きのロングマントです。
ベルベットの様な手触りで、色は真紅ですよ。
マントの下はロングドレスの様な服で、横にスリットが入ってます。
綺麗なおみ足です。
マントを留めているのは胸の上にあるブローチ。
白いペガサスが彫られています。
「シェアトさんは、魔法使いですか?」
試しに訊いてみた。
「ええ、そうよ。厳密に言えば、魔導師ね」
シェアトさんは頷く。
そして、説明してくれた。
この世界では、大体の人が生れた時から魔力を持っているらしい。
でもそれには差があって、魔力があっても魔法を使えない人が多いらしい。
その中で、簡単な魔法を使える人を魔法使いと呼び、ある程度上級の魔法を使える人を魔術師、それより更に上を魔導師と呼ぶ、らしい。
「そういえば、ちゃんと自己紹介していなかったわね。わたくしは、エトナ国魔術省長を務めている、シェアトよ」
「はい。よろしくお願いします」
あたしが頭を下げると、シェアトさんは微笑んだ。
「記憶がないのですもの、わからない事はなんでも聞いていいのよ。……そうね。後でちゃんと教師をつけるようにアルシャイン宰相に言っておくわ」
それは有難い。
この世界の事、あたしは何も知らないから。
「えと、今は何月何日ですか?」
「今日は新緑月の三日よ。新緑月は一年の初めから数えて三つ目の月よ」
名前からして、春ですかね。
廊下をシェアトさんに抱っこされたまま進む。
それにしても広いですね。
まあ、城なら当たり前か。
ってか、城にみんな住んでるの?
城に住むのは王族だけじゃないの?
何回か廊下を曲がって、大分シンプルな造りの場所に入った。
「こっちが城勤めの者達の居住区よ。城下に家を持つ者もいるけど、大体ここに住んでるわ。ちなみに、所属する省別に棟と階が分かれているの。シリウスは警備省だから、東棟よ」
「シェアトさんのお部屋はどこですか?」
「わたくしは南棟よ。いつでも遊びにいらっしゃい」
東棟と思われる建物に入り、シェアトさんは階段を登って三階までやって来た。
「この東棟の三階までが警備省の居住場所。その上の五階までが医務省の居住場所よ」
ふむふむ。兵士さんとお医者さんが同じ棟なのね。
怪我したらすぐ治してもらえそうだね。
三階の奥の方にシリウスさんの部屋はありました。
ちょうど樽体型のオジサマ――アルデバランさんが工具箱らしき物を持って出て来た。
「お、ちょうど良かったな。アンフィの家具は粗方揃えたから、今日からここで寝られるぞ」
「そう。ご苦労様」
「ありがとうございます」
あたしはアルデバランさんに頭を下げる。
アルデバランさんはベージュ色のツナギを着ています。
もろ、工事現場のおじさんです。
ツナギ――作業着の背中には、茶色の牛の図が刺繍されてます。
………すみません。少しだけ暴走族を思い出しました。
シェアトさんが扉をノックして開ける。
部屋は、入ってすぐの右側に簡易キッチンがあり、左側にはトイレがありました。
次の部屋が居間兼寝室らしく、手前に小さなテーブルと椅子があり、仕切りがあって、その向こうにベッドがある。
壁にはクローゼット。
左側がシリウスさんのスペースらしく、大きなベッドとサイドテーブルがありました。
右側には天井からカーテンが引かれていて、シェアトさんがあたしを下ろして、そのカーテンをシャッと開ける。
あたし用と思われる小さなベッドと勉強机と椅子。棚とクローゼットがあった。
全体的に薄いピンクだ。
えーと……シリウスさん的に良かったのかしら?
見た限り、シリウスさんの部屋って物がない。
飾りとか一切無い。
「男の部屋って殺風景ね。アンフィが可哀想だわ」
「あっと……えと、大丈夫です。全然」
あたしはシリウスさんに向かって頭を下げる。
「ありがとうございます」
「……いや」
シリウスさんは軽く首を振る。
「必要な物があったら言ってくれ」
そこへ、扉がノックされて、ふんわり金髪美女が入って来た。
「靴が出来たわよ。履いてみて。大きさは大丈夫かしら?」
美女さんが持って来た、布製の靴を履く。
爪先をトントンとやり、足踏みしてみる。
「ぴったりです。ありがとうございます」
「ふふっ。とりあえずだから、後でもっと可愛い靴を作るわね」
美女さんはさっさと出て行った。
シェアトさんは部屋を見回して頷く。
「小物が必要ね。灯りと、時計と、暦と……」
ぶつぶつ呟くと、シェアトさんはあたしの頭を撫でる。
「アンフィはお昼寝の時間よ。わたくしは小物を揃えてくるから。シリウス、貴方今日は非番よね?」
「ああ」
「じゃあ、アンフィについててあげなさい」
そう言うとシェアトさんは出て行った。
あたしは布袋をクローゼットに入れた。
「もう寝ろ」
あたしの側に来たシリウスさんが、あたしをベッドに座らせる。
あたしは素直に靴を脱いで、ベッドに横になった。
ひとつ言いたいのですが、お昼寝って必要ですか?
だけど、疲れていたのか、すぐに眠ってしまったのだった。
読んで頂き、ありがとうございました。
ここまでがプロローグみたいなものです。
本当は一話でまとめたかったのですが、無理でした。
次からキャラ増えます。