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お久しぶりです。
生きてます。
朝目が覚めて、近くの机の上の時計とカレンダーを確かめる。
今は、朝の七時――たぶん10分頃。
二十四時間の文字盤では、細かい分が分からない。
何故十二時間にしなかったのか。
今日は新緑月の七日。
まだこのお城に来て五日目なのに、だいぶ慣れたみたい。
ベッドから起き上がり、軽く伸びをする。
クローゼットからタオルを出し、洗面所へ向かう。
カーテンを少し開けて出ると、珍しくまだシリウスさんは寝ていた。
お疲れなのね。
あたしはなるべく音を立てないように動いた。
洗面所で顔を洗い、櫛で髪をすく。
軽く口を漱ぎ、鏡に映る美少女に視線を逸らす。
相変わらず、見慣れねーな。
どうにも杏莉だった時の顔の記憶が強くて、今のこのアンフィの容姿に馴染めない。
ま、いっか。
洗面所を出て静に歩くと、シリウスさんに会った。
おおう。もう起きたのですか。
「お早うございます」
「お早う」
シリウスさんはあたしと入れ違うように洗面所に入った。
済みません、あたしが先に使って。
自分のスペースに戻り、カーテンを引くと、クローゼットから服を出して着る。
昨夜、エレクトラさんが届けてくれた服。
薄い水色のワンピースは半袖だけど、上に同色の七分袖の上着を着る。上着の首元には紺色の小さいリボン。
ワンピースは腰の辺りで少し細くなり、膝の辺りまでふわりと自然に広がる形。スカートの裾には白いレース。
足首までの白い靴下。
靴は紺色のローファーの様なもの。
相変わらず可愛い服だ。
しかも、色はあたし好み。
あたしは赤やピンクより、青や緑が好き。
可愛い物は好きだけど、見ているだけで良かったのだ。
身に着けようとは思わなかったし、欲しいとも思わなかった。
ま、今は用意してもらっている身なので、着るけどね。
カーテンを端まで開けると、シリウスさんも身支度を済ませていた。
早いですね。
食堂へ行くので、借りていた蓋付きのお皿を持って行く。
朝の食堂は昼の食堂よりは空いていて、夜の食堂よりは忙しい。
食事の配膳を待つ列にシリウスさんと並ぶと、何故か周りの人達が微笑んで挨拶してくる。
ん?突然どうした?オバサン困っちゃうな。
取り敢えず挨拶を返すと、シリウスさんがあたしを壁の方へ移した。
何故?
シリウスさんを見上げると、シリウスさんは困った様な顔で眉を寄せていた。
シリウスさんと一緒だし、挨拶くらいはいいよね?
あれ?駄目だったっけ?
カウンターに近づくと、三つ編みの双子のお姉さんの一人が居た。
向こうもあたしに気づき、笑顔になる。
「アンフィちゃん、お早うっ」
「お早うございます。あの、これお借りしていたので、お返しします。ありがとうございました」
あたしはギリギリ顔が乗る高さのカウンターに、お皿を乗せる。
「あら、わざわざありがとう」
お姉さんはにっこり笑ってお皿を受け取った。
その間に食事を用意してくれていて――相変わらず手早い――あたしとシリウスさんはトレーを受け取る。
空いている席に座り、食事を始める。
今日の朝食はちらし寿司だ。
それと、オムレツにベーコン、オレンジジュース。
これ、ちらし寿司じやなくトーストだったら、完璧なイングリッシュブレックファストだったのに。
取り敢えずうまうまと食べて、「ごちそうさまでした」と手を合わせ、椅子を下りる。
自分が使ったトレーを片づける為に手に取ると、頭上から声が降る。
「アンフィ!」
そして抱き締められる。
びっくりしたけど、知ってる人なのでそのまま挨拶をした。
「シェアトさん、お早うございます」
「お早う、アンフィ」
にっこり笑った後、シェアトさんはあたしの体を見回す。
「怪我はしてないわよね?」
「え?」
「だって昨日…………」
言いかけて、シェアトさんは口を閉ざす。
「まあ、いいわ。シリウス、今日の予定は?」
「新人の馬術訓練ですが」
「貴方のじゃないわよ。アンフィの予定よ」
「アンフィも連れて行きます」
「そ。ならいいわ」
シェアトさんはあたしの頭を撫でる。
「今日の様子を見てアンフィが大丈夫なようなら、明日からお勉強再開するわ。いい?アンフィ」
「はい」
頷いて了承の意を示す。
シェアトさんと別れて、食堂を出た。
シリウスさんについて歩いて行くと、獣舎の方へ向かっていることに気づいた。
馬術訓練だって言ってたしね。
獣舎の前には、広く柵で区切られた場所に色々な動物がいた。
シリウスさんは馬がいる柵の方へ近づいて行く。
柵の外側には新人さん達とアルドラさんと、リギルさんが居た。
「やぁ、シリウス、アンフィ。お早う」
「リギル殿、お早うございます」
「お早うございます」
「今日は馬術訓練だというので、大人しくて従順な子達を入れておいたよ」
「ありがとうございます」
アルドラさんがタイミングを見て声を掛けてくる。
「シリウス省長、お早うございます。新人省員二十名、全員揃ってます」
「わかった。アルドラ、アンフィを頼む」
「はい」
シリウスさんは新人さん達の方へ行ってしまった。
近づいて来たアルドラさんに挨拶をする。
「お早うございます、アルドラさん」
「お早う、アンフィちゃん。今日はどうする?」
「お馬さんに触りたいですっ」
ビシッと手をあげて言うと、アルドラさんは笑って頷いた。
「あっちに子馬の柵があるから、行こうか」
「はい」
うふふー。念願のお馬さん。
アルドラさんに連れられて行った先に、子馬が沢山居た。
黒から茶色から白まで、色々な色の子馬達。
「入って大丈夫ですかね?」
「リギル省長の許可は取ってあるけど、馬を驚かせないように静にね」
「はい」
あたしはゆっくり柵をくぐって中に入った。
子馬さんの何頭かがあたしに気づき、顔を向けたりしてくる。
一番近くに居た栗色の毛の子馬に近づいてみた。
子馬は警戒しないで、あたしを近寄らせてくれる。
そっと手を伸ばしたら、子馬の方から顔を寄せてきた。
嬉しくなって子馬の顔を抱きしめる。
えへへー。お馬さんに触れたわ。
にまにま笑っていたら、突然子馬達が顔を伏せた。
急にあたしの頭の上で鼻息がした。
見上げると、白い大きな馬の顔があった。
「あれ?」
こんな大きな馬、この柵の中にいたっけ?
つーかよく見たら、額の辺りから角っぽい物が一本、生えてますよ?
これは、ファンタジーでよく登場するユニコーンですか?!
あたしが大好きな某ゲームの小説版では、エロ角馬とか呼ばれてましたけどね。
だって、伝説上だと処女しか触れられない生物らしいし。
「ユニコーン?」
「ユニコーン‼?」
あたしの声とアルドラさんの声が重なった。
ユニコーンがあたしの顔に鼻先を当ててくる。
なんと‼あたしに触れと言ってるの?!
「ユニちゃん」
「アンフィちゃん!こっちおいで!」
「えー?」
「そのユニコーンは近衛省副長の騎獣だから!」
んん?デネボラさんの騎獣なの?
〈――娘、お前から主の匂いがする〉
「ほえ?」
今、頭の中に声が響いた。
誰?
もしかして、目の前のユニコーン?
「きみが、話してるの?」
〈そうだ〉
「ユニちゃん?」
〈我が名はヴァイスだ〉
「ほー」
「アンフィちゃん!」
〈あの男はうるさいな〉
「ごめんなさい」
〈娘を責めてはいない。ふむ。あの男を突き殺せば良いか〉
―――………今、さらっと怖い事を言いましたよ‼幻獣が‼
「駄目」
〈駄目?〉
「駄目」
あたしは大きく頷いた。
〈ふむ。娘が言うのなら、止めておこう〉
あたしはユニコーンを撫でてから、アルドラさんの近くへ戻った。
「アルドラさん、うるさいって。ユニちゃんが」
「なっ………」
アルドラさん絶句しちゃった。
しかし、思ったより素早い動きであたしを抱き上げると、走ってリギルさんの近くへ行った。
アルドラさん、足速いですね。
「おや?アルドラ、どうしたんだい?」
リギルさんがのんびり訊いてくる。
「ユニコーンが獣舎から出ちゃってますよ!」
「おやおや。困ったねえ」
そう言ってリギルさんは歩いて行った。
そこへシリウスさんが近づいて来て、アルドラさんの腕からあたしを抱き取る。
「何があった?」
「ユニちゃんに会いましたっ。可愛かったです」
「……………アルドラ?」
「ひー!俺のせいじゃないですよっ!」
あれ?
普通に報告しただけなのに、どうしてシリウスさんはアルドラさんを睨んでるの?
「ユニコーンといえば、デネボラの騎獣か」
「そうだと思います」
「というより、ユニコーンを騎獣にする酔狂な奴はデネボラくらいだ」
まぁ、確かに。
ユニコーンに乗ってるって「わたしは処女です」って言って歩く様なものだものね。
シリウスさんが降ろしてくれたので、新人さん達の方を見ると、皆さん大体落馬していた。
大丈夫かな?
馬に乗れなかったら、まずいんじゃない?
シリウスさんも振り向き、溜め息をつく。
「午後は体力だな」
わぉ。あの恐怖の体力作りですか。
頑張ってください、皆さん。
あたしは遠くから生温かく見守らせて頂きます。
「アンフィ、昼飯にするか」
「はーい」
「アルドラ、後の指示は任せる。飯を食ったら、午後は体力作りだから、訓練場に集合だと伝えておけ」
「はい」
シリウスさんが歩き出したので、あたしはアルドラさんに手を振って、シリウスさんについて行った。
読んで頂き、ありがとうございました。
動くピクピクニンジンに夢中です。




