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1話目でブックマークをつけてくださった方、大変ありがとうございます。
完結まで頑張ります。
ムルジムさんに強制的に連れて来られたのは、確かに城でした。
立派な門があって、門から中に入ると広ーい庭があった。
その向こうには大きな建物がある。
ぽけーっとしてる間に馬から降りて、ムルジムさんは馬を側にいた人に預けると、あたしを抱き上げたまま歩き出した。
建物の中に入り(正面入り口すごい豪華!)、広い廊下を進んで、奥の大きな扉の前へ来る。
扉の横には男の人が二人立っていて、静かに扉を開けた。
扉の向こうは広ーい部屋。
扉の所から真っ赤な絨毯が真っ直ぐ伸びている。
部屋の奥は一段高くなっていて、正面にすっごく豪華な椅子がひとつ置いてある。
その椅子には一人の男性が座っていた。
段の手前、絨毯の両脇には十人位の人達が立っている。
あれ?ここって、よく王様に会う部屋じゃないの?
もしかして、あの椅子に座っている人は、王様じゃない?
それでもって、両脇にいる人達は、お偉いさんじゃない?
ムルジムさんはあたしに構わず、というよりは、あたしが驚いて固まってる事に気づかず、ずんずんと歩いて行き、やや椅子に座っている人の顔が見えるかなー?って所で止まった。
そっとあたしを下ろし、ムルジムさんは片膝をつく。
「警備省副長ムルジム、只今戻りました」
…へーぇ。警備しょう…省?そんな役職でしたか。
警察みたいなものですかね。
椅子に座った青年は、ややウェーブがかかった肩より下の長さの金髪で、青い瞳の白人イケメンだ。
格好いいと美形の中間、みたいなイケメン。
「――その子が、報告にあった子供かな?」
「はい」
いつの間に報告がいったのでしょうね?
誰かが先にお城に報告に来たのかな?
ってか、この金髪白人イケメンは、王様ですよね?
あたしのことじっくり見てらっしゃいますが。
「一体、何処の子供でしょうか?」
王様――と勝手に位置付けとく――のすぐ近くにいる、淡い茶髪をひとつに束ねた青い瞳の青年が言う。
この人も白人イケメン。
いや、ここに並んでいる人達、ほとんど白人系の顔してるけど。
淡い茶髪の青年の正面にいる、短い金髪の緑の瞳の青年が、やや眉を寄せる。
この人は男くさいイケメン。
「報告はなかったが。ここ五十年近く、この国で子供は産まれていないはずだ。そうだろ?アルビレオ」
話をふられた青年が頷く。
この人は腰まである長い茶髪をひとつに束ねていて、灰色の瞳の優しそうなイケメン。
「ここエトナ国はもとより、ティル・ナ・ノグ大陸では、五十七年無いです」
へーぇ。エトナ国っていうのか、この国。
しかも、ティル・ナ・ノグ大陸。
ティル・ナ・ノグといえば、ケルト神話。
あたしは広範囲なオタクなのだよ。
漫画やアニメ、ゲームはもちろん好きだったし、そこからRPGとかに出てくる神話とかも調べた。
特にファンタジーが好きだったからだけど。
っていうか、五十年近く子供が産まれてないって、この人達は一体何歳ですか?!
確実に五十歳以上ってことだよね?!
「この身長ですと、三十歳位ですかな?」
短いロマンスグレーが素敵なオジサマが、あたしを見て言う。
すみません。
オジサマ(渋く格好良いオジサマよ!)と美少年が大好きです。
しかもオジサマ、あたしの中身の年齢、近いところを言い当ててます。
ええ!アラサーですもの!!
「名は?」
王様が訊いてくる。
ってか、あたしですか?あたしに訊いてますか?
あたしが黙って王様を見ていると、王様は軽く頷いた。
「君の名は?」
昔そんなドラマがあったらしいですね。
じゃない。
あたし、名乗っていいのだろうか?
この身体は、福田杏莉じゃないし。
「……わからない、です」
一応丁寧語くらいは使っておこう。
「親の名は?」
「……わかりません」
「年は?」
「…………」
訊くな!!
女性に年齢を訊くな!!
「何処から来た?」
「わかりません」
「…………」
あれ?やばい?
やっぱりどれにも答えられないって、不審人物以外の何者でもないよね。
あたしが困って俯くと、王様は軽く息を吐いた。
溜め息ですか?!
あたしがダメな子だからですか?!
「別に、責めている訳ではない。君の身元がわからないのなら、君を帰す事も出来ないからな」
おや。あたしを親元に帰そうとは考えていたんですね。
「記憶喪失、ですか」
淡い茶髪のイケメンが言う。
そう取りますか。
まあ、その方があたしには都合がいいけど。
「シェアト。魔術が掛けられてないか、調べてくれ」
「はい」
シェアトと呼ばれた、サラサラロングな銀髪で青い瞳の、ナイスバディなお姉さんがあたしに近づいて来た。
ボンキュッボンなお姉さんも大好きです。
シェアトさんは膝をついてあたしの頭の上に手を乗せる。
そして、ふと眉を寄せて、あたしの髪を優しく前へ持ってきて、あたしの首の後ろの辺りを見ている。
あたしの髪の毛、変な色。
薄いピンク。
近いところで、桜色。
しかも長い。
「陛下。この子、魔術が掛けられています」
へいか。陛下か。
やっぱり王様なのね、あの人。
「どんなものかはわかるか?」
「……おそらく、この子の魔力を封じているものと思われます。かなり強い封じですので、わたくしでは解けません」
シェアトさんの言葉に、みんなはざわりと騒ぐ。
「それと、この子の名前はわかりました」
「ほぅ」
「――アンフィ。それがこの子の名前です。封じの紋に、名前が刻まれていますので」
アンフィ。あたしの名前か。
杏莉に近いね。
これなら呼ばれてもあんまり違和感ないかな?
「では、アンフィ。君を城預りとする」
王様がそう言った。
城預り?なんじゃ、そりゃ?
「一時的な措置だ。君の記憶が戻れば、ちゃんと親元に帰すし、子供が行方不明だという親も探すよう手配する」
なるほど。
とりあえず、あたしの親を探してくれてる間、ここに居てもいいってことね。
衣食住の心配をしなくて良かった。
「後は、君の保護者兼後見人だが――」
「陛下、わたくしが」
シェアトさんが真っ先に名乗る。
「いえ、わたしが」
淡い茶髪のイケメンが言う。
それで、みんなが「わたしが」と言い出した。
おーい。あたしに決定権はないのか?
いえね。面倒を見てくれようとする皆さんの心遣いは有難いのですが、あたしの意志とかはどこへ?
王様は騒いでいる皆さんを、手で制す。
「アンフィ。君の意見を聞こうか」
へ?
それって、あたしが選んでもいいってことですか?
あたしが首を傾げたら、何故か皆さん笑った。
おおぅ。可愛くないよね。
お目汚しでごめんなさい。
とりあえず、あたしは並んでいる人達を見る。
ナイスバディなお姉さんや、渋いオジサマも捨て難い。
おっと、一人美少年がいるじゃないですか。
でも、美少年は遠くから見てるのが良いのです。
目の保養。
ってか、あたし、白人系イケメンって好みじゃないのよねー。
あたしの好みは変だって、よく友達に言われてたなぁ。
一般的にイケメンって言われている俳優やアイドルは、好きじゃなかったのよね。
そんな中、あたしの好みドストライク!な人がいた。
黒に近い濃い紺色の短い髪に茶色の瞳な、アジア系イケメンな青年が!!
あたし、アジア系のややのっぺりした顔が好きなのよ。
白人系の鼻高くて彫りが深い顔って、好きじゃない。
あたしは、そのアジア系イケメンに近づいて行って、その人の足にしがみつきました。
ええ!子供の特権です!役得ですね!
お兄さんは目を丸くして驚いてますがね。
「……シリウス。君を気に入ったみたいだよ」
王様が笑いを含んだ声で言う。
お兄さんの名前はシリウスさんですか。
シリウスって、おおいぬ座の1等星ですね。
あたし、星座も詳しいんです。
オタク知識で脳細胞使ってます。
そういえば、シリウスさんは、あたしを連れて来たムルジムさんと同じ制服ですね。
ということは、シリウスさんはムルジムさんの上司、長官ですかね。
「では、アンフィはシリウスの保護下に置く。ちゃんと面倒見てあげなさい、シリウス」
「……は」
シリウスさんは胸に手を当てて頭を下げる。
やったー!
あたし好みのイケメンと暮らせるんだわ!
「後のことは省長達で決めてくれ。アルシャイン、後で報告を」
「はい」
淡い茶髪のイケメンはアルシャインさんですか。
王様は立ち上がって部屋を出て行った。
読んで頂き、ありがとうございました。