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別視点 シリウス3

だいぶ間があいてしまって、済みません。

年始に職場でトラブルがあり、少し気持ちに余裕が無かったです。


これからも、更新が滞るかと思いますが、頑張って書きますので、お付き合いください。


部屋の中がやや明るくなった頃。

ベッドで眠っていた俺は、腕の中の柔らかな存在に目を開けた。

小さかった温もりが、少し大きくなった気がしたからだ。

目を開けて、驚きのあまりベッドから転げ落ちた。

こんなに動揺したのは生まれて初めてかもしれない。

一緒に寝ていた少女――アンフィは、眠る前はほんの三十歳くらいの幼子だった。

それが、今は七十歳くらいの少女になっていた。

たぶん、アンフィだ。

着ている服が同じだし。体の成長の為、切れそうな程になっているが。

俺の立てた物音で、少女は目を覚ました。

眠たげに片手で目元を擦り、ふと自分の体を見下ろし、目を丸くする。

そして俺に視線を移し、少し安堵したような、困惑したような表情になった。


「……シリウスさん?」

「アンフィ、なのか?」


俺は確認の意味で訊く。

少女はこくりと頷いた。


「はい、アンフィです。あたしの体、どうしちゃったんでしょうか?」


俺は、立ち上がり、深呼吸した。

落ち着いて行動しないと、俺は自分が何をするか判らない。

取り敢えず、目のやり場に困るのでシャツを渡した。

アンフィは理解したようで、カーテンの向こうへ行くと着替えている音がした。

誰に相談すべきか考え、二人の人物を思い浮かべた。


「……取り敢えず、サビク殿と……シェアト殿を呼んで来るから。アンフィはここに居ろ」

「はい」


カーテン越しに返事を聞き、俺は部屋を出た。

廊下を急ぎながら、どうやって説明すべきか頭を悩ませた。

しかし、どう考えても良い説明ができそうもないので、「取り敢えず来てほしい」と伝えると、二人は了承してくれた。

部屋に入ってアンフィを見るなり、二人は時が止まったかのように動きを止めた。

しかし、流石医務省長。

サビク殿は素早く立ち直ると、アンフィの状態を診る。


「体に異常はないな」

「アンフィ、一体、何が……?」


シェアト殿が掠れた声で言う。


「あ、おはようございますです」


アンフィが気付いたように挨拶すると、シェアト殿が苦笑した。


「暢気ね!」

「いえ。あたしにも、よくわからないので。起きたら、大きくなってました」


首を傾げる仕草も変わらず可愛らしい。

サビク殿が離れ、今度はシェアト殿がアンフィの首の後ろを見る。

そこには、魔力を封じている紋がある。

シェアト殿は目を丸くして、息をのんだ。


「そんなっ!封じ紋が、半分消えてるわっ」


消えてる、だと?

確か、シェアト殿でも解けない封じだったはず。

それはシェアト殿が一番よく解っているらしく、心配そうにアンフィを見る。


「アンフィ、どこも痛くない?」

「はい。大丈夫です。まだ、不思議な感じですけど」


シェアト殿がアンフィを見下ろし、顔色を変えた。


「服を用意しなきゃっ!」


そして、俺のコートを奪うとアンフィに掛け、部屋を出て行った。

確かに、俺のシャツ一枚だけという格好はまずいな。

サビク殿は笑っているが。


「ところで、こうなった原因は、昨日の事なのだろうか?」


サビク殿の発言に、俺は昨夜の事を思い出した。

この城内で誰よりも年を取っている人物は、どこまで気づいているのか。


「シリウス?」

「いえ。何でもないです」

「わたしは何も言ってないがね」

「………」


しまった。流石にこの人は誤魔化せないか?

そこへシェアト殿が戻って来て、話は中断した。


「男の方はあっち」


シェアト殿に追い払われ、俺とサビク殿は部屋にある椅子に座った。


「……で?何かあったのかい?」


中断した話を戻されて、俺は少々焦った。


「何がですか?」

「……ふむ。まあ、いいだろう」


サビク殿は俺を追及する事を諦めた。

正直ホッとする。

アンフィが着替え終わったらしく、シェアト殿がカーテンを開けてやって来た。


「取り敢えず……省長達を集めて、相談しましょう?」


確かに。現時点では何も解決していない。


「ブラキウムは何かわかっただろうか?」

「さぁ?まだ三日でしょ?そんなすぐわかるかしら?」


カーテンの向こうからアンフィが現れ、俺の服を返してきた。

適当にクローゼットに服を戻す。


「取り敢えず、朝食摂りに行きましょう?お腹に何か入れないと、頭が働かないわ」


シェアト殿が言い、サビク殿と部屋を出て行く。

後に続こうとしたアンフィが、歩き辛そうにしているのに気づき、体が自然に動いた。

アンフィを抱き上げると、目を丸くして俺を見てきた。


「ちょっ…シリウスさん。あたし、自分で歩けますよ?」

「歩き難そうだったからな」


そう言うと、アンフィは黙って俺の肩に手を置いた。

相変わらず小さく細いアンフィの身体に、心がざわつく。

しかし、腕の中の温もりに、安堵もする。

不思議な感情だ。



食堂で食事を摂った後、省長会議を行う間部屋に居るようにアンフィに言うと、何故かアンフィは渋った。

本音は、アンフィを閉じ込めてしまいたいが、自由を奪う事はしたくない。

何とか頷いたアンフィの頭をなでると、上目遣いに俺を見上げてきた。

そんな可愛い顔されると、困るのだが。

食堂から出る時にアルドラに手を振ったので、思わずムッとしてアンフィの手を掴んで下ろさせた。

アンフィは首を傾げていたが。

やはり俺は心が狭いようだ。

俺以外の男にアンフィが笑顔を向けるのが、気に入らない。




アンフィを部屋に送り届けてから、第二会議室へ行った。

すでに他の省長達は来ていた。

あまりの行動の早さに、少し驚く。


「遅くなりました」

「いい。アンフィは、どうだ?」


執務省長で宰相でもあるアルシャイン殿が訊いてくるので、無難に答えた。


「とくに取り乱すこともなく、冷静です」


そうだ。アンフィは初めから不思議な少女だった。


「そうか。……では、会議を始めよう」


アルシャイン殿の合図で、皆表情を引き締めた。


「まず、アンフィの身元の件だが。ブラキウム省長」


話を振られて、刑部省長のブラキウム殿が淡々と話す。


「ここエトナ国の民ではない事は、アルビレオ省長が調べてくださいました。故に、隣国から調査しましたが、北のマグ・メル国でも、西のアヴァロン国でも、やはりここ百年近く子供が産まれていないようです」

「ふむ。サビク省長、アンフィの成長については、何か意見は?」

「……わたしの個人的な見解なのですが、あれは成長ではなく、元の状態に戻ろうとしているのでは、と考えます」


サビク殿の言葉に、皆一様に驚く。


「それは、つまり、アンフィは元々幼子ではなく、もっと年齢のいった者だ、という事か?」

「おそらくは」


アンフィが、子供ではない?

どういう事だ?一体。


「そうなると、身元を調査するのに、少々厄介な事になるな」


そうだ。

アンフィの年齢が定かではないのだ。

しかも、本人は記憶喪失。

シェアト殿が、発言の許可を取る為片手を挙げた。


「シェアト省長?」

「アンフィの、あの魔力を封じている紋ですが。あれはおそらく、封じを強固にする為に、誰かの血を用いているかと。昨日の件でアンフィの血が紋に掛かった為に、逆に紋が半分程消えたのだと思われます」


更に皆はざわつく。

血で紋を描くなど、余程の事ではないのか?

アルシャイン殿は溜め息をついた。


「まあ、なんとも……。あの子は奇妙な運命を背負っているのだろうか」


ブラキウム殿が手を挙げる。


「昨日の件ですが。キファ――副長には、アンフィが発見されたツヴァイ村の東の森を調べさせていたのです。それで、あの不審者共に遭ったとか。あれも、アンフィの関係なのでしょうか?」


東の森であの不審人物達に遭った?

あんな森で、奴等は何をしていたのか。

考えられる事が、ひとつだけある。

奴等がアンフィを捜していた、という事だ。


「シリウス省長。昨日の者達は?」

「一人だけ捕縛出来ましたので、尋問させています。目的や、何処の国の者かだけでも、判れば良いのですが」


何故一人しか捕らえられなかったのか皆知っているらしく、微妙な表情をしていた。

怒れる魔導師を止められる者などいない。

取り敢えず、殆ど問題は解決しないまま、会議は終わった。





部屋に戻ると、カーテンの向こうから何やら唸り声の様なものが聞こえた。

慌ててカーテンを開けてその向こうを見ると、アンフィがベッドに横になり寝ていた。

しかし、眉を寄せて(うな)されていた。


「アンフィ!アンフィっ」


声を掛けると、うっすらと目を開け、アンフィが俺を見た。

良かった。

ホッとすると共に、アンフィを抱き締める。


「……アンフィ、大丈夫か?」

「え?」


アンフィはきょとんとした顔をする。


「随分と、魘されていた」


少し考える様に俯くと、震え出した。

細い体を強く抱き締め直すと、腕の中でホッと息を吐く。


「ごめんなさい。なんか、夢を見てたみたいで……」


夢――。

悪い夢でも見ていたのか?

体を離して、顔色を見る。


「気分は?」

「……大丈夫です」


笑って頷くアンフィに、安心した。

その後、会議はどうなったかと訊かれ、一瞬どこまで伝えていいものか考えた。

取り敢えず、無難な事だけ話しておく。

つまり、何もわかっていない、進展していないという事。

アンフィは納得したのか、頷いていた。

そして、お腹が空いたと言うので食堂に行くことにした。

本当に不思議だ。

子供の様で、大人だと感じる瞬間もある。

アンフィの本当の年齢は、一体いくつなのだろう?





食堂に行くと、またアンフィが注目を集めてしまった。

アンフィは困った様に俺の背に隠れようとしているが。

そこへマイアがやって来て、アンフィに靴を渡す。

その場で靴を履き替え、アンフィはマイアに頭を下げた。


「ありがとうございます、マイアさん」


アンフィはやっと自分で歩けると、上機嫌だ。

カウンター前へ行くと、御厨省副長で双子の姉サダルメリクが居た。

妹で、同じく御厨省副長のサダルスウドと瓜二つな顔をしていて、なかなか見分けがつかない。

違いをわからせる為か、姉は赤いリボンを、妹は紫色のリボンを身に着けている。

サダルメリクはアンフィに気づき、目を丸くした後、微笑んだ。


「ほんとに大きくなってるわ。アンフィちゃん、よね?」

「はい」

「うふふ。省長の嘘かと思ってた」

「俺がそんな嘘()くかっ!」


奥からサダクビア殿が反論する。


「アンフィちゃんの分は、少な目がいいわよね?」


サダルメリクは手早くトレーに食事を用意する。

アンフィと食事を摂りながら、午後はどうするか考える。

俺の予定は城壁内の見回りだ。

しかし、それにアンフィを連れて行くのは、躊躇(ためら)われる。

午前も部屋に閉じ込めたから、流石に部屋で大人しくしてろというのは、アンフィも納得しないだろう。

そこへ、ムルジムがやって来た。


「シリウス省長、ここでしたか」

「……どうした?」

「昨日捕らえた者の件ですが……」


ムルジムはアンフィを見て軽く目を丸くするが、冷静に話を続ける。

そして、アンフィに聞かせない為に俺に耳打ちをする。


「どうやら、東の大陸の者のようです」


ムルジムの言葉に、俺は眉を寄せた。

東の大陸――ホウライの者が、何故あの森の中に居た?

しかも、あからさまに怪しいあの格好。

俺は溜め息をついてしまう。


「他には?」

「今のところは、それだけです。というより、それしかまだわかっていない、という事ですが」


ムルジムが腕を組んで、考える様にやや遠くを見る。

そしてまた耳打ちをしてくる。


「ブラキウム省長の話ですと、東の大陸での影の仕事をする者は、大体皆あの格好なのだそうですよ」


思わず笑いそうになる。

なんだ?それは。

あの格好では逆に目立つではないか。

アンフィが不思議そうに、俺とムルジムを見ている事に気づいた。


「アンフィ、午後も部屋に……」

「えーっ?もう退屈です」


アンフィはぷくっと頬を膨らませる。

あまりの可愛さに、微笑んでしまう。

そこへサダクビア殿がやって来た。


「じゃあ、ウチで預かるよ」

「え?」

「アンフィ、なんか料理してみるか?」

「いいんですか?」


アンフィは嬉しそうに笑う。


「この後は夕飯までは特に何もないしな」

「やった!ありがとうございます」


アンフィが嬉しそうなので、仕方なくサダクビア殿に頼む事にした。


「では、サダクビア殿、よろしくお願いします」


午後の仕事の為に立ち上がる。

少しだけ、アンフィが寂しげな顔になったので、頭を撫でる。

迎えに来る事を伝え、食堂を出た。

さっさと終わらせて迎えに行こう。


読んで頂き、ありがとうございました。


面白い人シリウスのお話は、一旦止めます。

次からは、アンフィ視点に戻ります。


最初に設定を考えた時は、こんなキャラじゃなかったのに、いつの間にか面白い人になってしまいました。

わたしにクールキャラは書けない、という事ですね。


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