別視点 シリウス2
今回も、面白い人シリウスの視点です。
内容はアンフィ視点と重複してますので、飛ばしてお読み頂いても大丈夫です。
また、残酷な表現がありますので、苦手な方はやはり飛ばしてお読みください。
アンフィと会って三日目に、事件は起きた。
その日は、アンフィは勉強の為に俺とは別行動だった。
午後の新人達の訓練の最中に、警備省員が慌てて走って来る。
「シリウス省長!東側城壁付近で、不審者十数名と刑部省副長が交戦中!」
「すぐ行く」
俺は腰の剣に手をかけ、走り出した。
目的地に近づくにつれ、信じられないものを見た。
アンフィが、いた。
黒づくめの不審人物達に囲まれ、刑部省副長のキファを庇う様に覆い被さっている。
しかも、右肩を剣で突かれ、血を流していた。
目の前が一瞬暗くなり、頭を振る。
すぐに怒りが沸き上がってきた。
剣を抜き、走り込みながら横へ薙ぎ払う。
三、四人斬り飛ばしたが、十人近くに避けられた。
しかし奴等に構ってはいられない。
「アンフィ!」
呼んでも、アンフィは動かなかった。
「アンフィ!」
傷に触れないように、慎重にアンフィを抱き上げる。
やっと、アンフィが薄く目を開けた。
「……シリウス、さん」
「アンフィ、しっかりしろっ」
アンフィを失うかもしれないという恐怖が襲ってくる。
「省長!サビク省長はすぐ来ます!」
ムルジムが走って来る。
「逃がすな!一人残らず捕らえろ!」
ムルジムが省員達に指示を飛ばし、自身も不審者達を追いかけて行った。
すぐにサビク殿と医務省副長のアルヤが、救急箱を手に走って来た。
「意識は?!」
状況を見て、サビク殿は真っ先に必要な事を訊く。
見ると、キファは荒い息だが目を開けていた。
「キファは、ある。アンフィは……」
その時、腕の中のアンフィの身体がくたりと力をなくした。
「アンフィ!」
「アルヤ、キファを頼む。シリウス、止血するからアンフィをうつ伏せにしなさい」
サビク殿は冷静に動く。
言われた通りに、そっとアンフィを横たえる。
すぐにサビク殿はアンフィの服を上だけ脱がせ、右肩の傷を露にする。
サビク殿が手で触れると、そこが白く光る。
治癒魔法だ。
少しして、サビク殿は息を吐いて手を離す。
「止血した。傷も塞がった。大丈夫だ」
サビク殿は持って来た救急箱の中から水袋を出し、白い布に水をかけて含ませると、アンフィの傷のまわりの血を拭く。
確かに、傷は塞がっていた。
うっすらとまだ残っているが。
不意に、影が落ちた。
「………どういう事?これは」
顔を上げると、シェアト殿がいた。
もの凄い形相になっている。
「アンフィに、キファまで。一体誰がこんな酷い事……」
「不審者が城内に侵入した。あちらに、ムルジム達が追いかけて行った。すぐに捕まるだろう」
「捕まえる?冗談。八つ裂きよ」
シェアト殿は低く言うと、ムルジム達の方へ走り出した。
「城は壊すなよ」
サビク殿がなんとも的外れな忠告をする。
「さて。キファはどうだ?」
アルヤはキファの体のあちこちに薬をつけている。
「打ち身、切り傷が多いですけど、出血は少ないですよ」
大人しく薬をつけられていたキファは、体を起こそうとする。
「無理はするな」
「いえ。わたしが未熟な為にこのような事を起こしてしまい、申し訳ございません」
キファは上半身を起こし、俺とサビク殿に頭を下げる。
「シリウス省長。そちらの少女は、城で預かっているという少女ですか?」
「そうだ」
遠くで爆発音がする。
サビク殿が苦笑して、救急箱を持って立ち上がる。
「キファ、アンフィ両名は絶対安静だ。医務室で寝てなさい」
「いえ、わたしは報告に行きます。そちらの少女のお陰で、大きな傷を負わずに済みました」
俺はアンフィを揺らさないように、慎重に抱き上げる。
「後で必ず謝罪に参ります」
そう言うキファに、俺は頷いておいた。
そうでもないと、キファ自身が納得しないだろう。
サビク殿に促されて、アンフィを抱いたまま歩き出した。
医務室のベッドにアンフィを寝かせ、血で汚れた服をどうしようかと考えた。
すぐにサビク殿が白いシャツを渡してくれた。
肩をあまり動かさないように汚れた服を脱がせ、シャツを着せる。
シャツは大きくて、アンフィの体が服の中で泳いでしまうが、仕方ない。
俺は、アンフィが目覚めるまで側に立っていた。
サビク殿はアルヤに指示を出し、アルヤは外へまた出て行った。
血を流したせいで、アンフィの顔色は青白い。
しかし、どうしてアンフィが外にいたんだ?
その時、アンフィの瞼が動いて、ゆっくり目が開いた。
「アンフィ、気がついたか?」
サビク殿も側に来て様子を見る。
アンフィは少し周りを見回し、俺を見ると急にくしゃりと顔を歪めた。
大きな目から、大粒の涙が零れ出す。
泣き出してしまったアンフィを慌てて抱き締める。
するとアンフィは俺の服にしがみついて、何やらもごもご言っている。
サビク殿は微苦笑して、アンフィの頭に手を置く。
「アンフィ、痛くはないかい?」
「……ふっ…い、痛く、ない…?……痛くないです」
そこでやっとアンフィは自分の体を見下ろした。
驚いたのか、涙が止まった。
俺はホッと息を吐く。
「アンフィ。覚えているか?肩を怪我した事」
「はい。あ!あの人は、どうしましたか?!」
アンフィは自分の事よりキファの心配をした。
「彼女は無事だよ。アンフィのお陰でね」
サビク殿がアンフィに笑って言う。
すると、アンフィも微笑んだ。
「良かった……」
「良くはないぞ。アンフィ、他人の危機に助けに入るならば、自分を犠牲にしない方法にしなければならない。そうしないと、助けた相手は負い目を感じてしまう」
サビク殿が静かな声で諭すと、アンフィは頷いた。
「はい。ごめんなさい」
俺は、抱き締めたままのアンフィの背中を、軽く叩いた。
アンフィが俺を見上げて首を傾げる。
「シリウスさん?」
俺はサビク殿を見る。
「部屋に連れて帰ってもいいでしょうか?」
「ああ。痛みがあるようなら、呼んでくれ」
「はい」
アンフィを抱き上げ、部屋に戻った。
アンフィをベッドに寝かせ、ムルジム達がたぶん捕まえているだろう不審者達の尋問や、事後処理の為に部屋を出た。
外へ行くと、不審者達は殆どシェアト殿が魔法で吹き飛ばしてしまったと報告を受け、軽い頭痛に襲われた。
吹き飛ばしたとは、風で遠くへとかではなく、爆殺した、という事だ。
ムルジムがなんとか一人だけ捕まえていた為、その不審者を一度牢に入れておく。
尋問は明日からだ。
城内の建物などに被害はなく、城壁周りの警備を強化させ、俺は部屋に戻った。
俺がいない間に、整備省副長のマイアがアンフィの体を清めて着替えさせてくれたらしい。
アンフィはベッドの上で本を読んでいた。
「アンフィ、寝てないと」
「シリウスさん。大丈夫ですよ。動いてないですし、痛くないです」
アンフィは本を閉じ、枕元に本を置く。
しかし、少し俯いてシーツを握りしめる。
「どうした?」
「えっと……あの…今日は、シリウスさんと一緒に寝ても、いいですか?」
真っ赤な顔でアンフィが言った。
聞き間違いか?
「あの……まだ、少し怖いんです」
「……そうか。いいぞ」
俺が頷くと、アンフィはパッと笑顔になる。
あまり肩を動かさないようにアンフィを抱き上げ、俺のベッドの上へ横たえる。
「寝てろ。俺は風呂に入ってくるから」
「はい」
入浴に行き、戻って来ると、アンフィは眠っていた。
部屋の灯りを落とし、アンフィを起こさないように隣に横になる。
そして、小さな体を抱き締めた。
失うかもしれないと思った大切な存在が腕の中に居る安堵感に、ゆっくりと息を吐く。
目を閉じ、眠りに就いた。
まさか、もっと大変な事が翌日起きるとは、思いもしなかったが。
読んで頂き、ありがとうございました。
年末の忙しさに、疲れて寝てしまう事が度々。
更新は不定期ですが、頑張って書きますので、最後までお付き合いくださると、大変嬉しいです。