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朝も早い時間なので、食堂にはまだまばらにしか人が居なかった。

厨房の方も、まだ朝食の準備をしている最中だ。

シェアトさんがカウンターから厨房の中へ身を乗り出す。


「サダクビア、お早う。ご飯ちょうだい。四人分」

「おぉ?シェアト、珍しく早いな。お早う」


サダクビアさんがカウンターに近づいて来て、あたしを見て硬まる。


「………お早うございます」

「ええっ?!はぁ?!」

「うるさい」


叫ぶサダクビアさんの頭をシェアトさんが軽く叩く。


「だ、だって、ええ?アンフィ?!」

「はい」


あたしが頷くと、サダクビアさんは急に黙って、厨房の奥へ行ってしまった。


「大丈夫でしょうか?」

「ま、普通に驚くよな」


サビクさんが苦笑して頷く。

少しして、サダクビアさんがトレーを四つカウンターに置いた。


「特別だぞ」


なんだか疲れた様子のサダクビアさんに、申し訳なく感じてしまう。

シリウスさんが、近くの席にあたしを座らせてくれた。

トレーはシェアトさんとサビクさんが持って来てくれる。

背が伸びたので、テーブルの上が見えますよ。

あっという間に子供椅子を卒業してしまった。

ただし、椅子に座ったら足が床に着かないけどね。


「いただきます」


あたしは手を合わせてからスプーンを手に取る。

ホカホカと湯気をあげてるのはクリームリゾット。ミルクとチーズが良いカンジ。

それと蒸した豚肉と野菜のサラダ。少しピリ辛なドレッシングがかかってた。唐子っぽい味。

玉葱のスープと茹で玉子もついてる。

美味しいです。ちょっと量が多いけど。


「ん?アンフィには少し量が多いな。サダクビアは余程驚いたんだな」


サビクさんが気づいて、あたしの皿の豚肉をポイポイとシリウスさんの皿に移している。

シリウスさんは気にせずに食べているけど。

うーん。美味しいものは全部残さず食べたいけど、今のあたしはまだ大人と同じ量は食べられそうにないなぁ。

フォークで野菜を刺してシャクシャク食べながら、男の人と同じ量を食べているシェアトさんが、どうやったらあの素敵なナイスバディを維持しているのか知りたいなぁ、とシェアトさんを見つめてしまいました。

それに気づいたシェアトさんが微笑む。


「ふふっ。アンフィはほんとに美味しそうに食べるわね」

「シェアトさんはいつもナイスバディですね」


ん?しまった。心の声が出てしまった。

シェアトさんとサビクさんが噴き出している。

シリウスさんは微妙な顔をしているけど。


「可愛いわね、アンフィは。素直で」

「えっと、ごめんなさい」

「あら、いいのよ。わたくしの体型を褒めてくれたのだもの」


褒めたというか、ほんとにあたしが見て楽しいナイスバディだというだけなのですよ。


「わたくしが『ナイスバディ』だと言うのなら、城内にはアンフィの言う『ナイスバディ』な人は結構居るわよ?」


なんと!マジですか?!

あたしが嬉しそうにしていると、サビクさんが苦笑する。


「アンフィ、君は女の子だろう?何故若い男と同じ反応なんだ?」

「え?美人でナイスバディな人は目の保養なのです!」


力強く言ったら、また笑われた。


「わたくしが『美人でナイスバディ』だとしたら、サビクは?」


シェアトさんが自分の隣を指す。


「サビクさんは、素敵なオジサマなのです」

「ははっ。ありがとう」

「じゃあ、シリウスは?」


シェアトさんがシリウスさんを指す。

あたしはシリウスさんを見て………。

ボン!と顔が赤くなったのがわかった。

まずいです。

あたしは何と言っていいかわからずに俯いた。

言えないよ!

あたしの好みドストライクなイケメンだなんて!

ハッと顔を上げると、シェアトさんとサビクさんがにやにや笑ってた。

うー!恥ずかしい!

ちらりとシリウスさんを横目で見ると、シリウスさんの頬がうっすら赤くなっていた。


「ふふっ。じゃあ質問を変えるわ。サダクビアは?」

「んーと、楽しいお兄さん?」

「楽しい、ねぇ。アルビレオは?」

「えーと、キレイなお兄さん?」


疑問形なのは、あたし自身なんとなーくな感情だから。


「キレイねぇ。あれは顔と中身が真逆だから」


そうですか?優しい人だと思ったんだけど。

シェアトさんはにこやかに話す。


「あら。『楽しいお兄さん』が来たわよ」


見るとサダクビアさんが近づいて来た。


「なあ。何がどうなって、アンフィは大きくなったんだ?」

「それがわかれば苦労しないわよ。わたくし達にもさっぱりわからないのだから」

「省長会議、か?」

「そうした方がいいだろうな。陛下は意外と情に厚い方だから、アンフィのこの姿を見たら、ちゃんと調べろとか言い出しかねん」


あたしは最後に玉葱スープを飲み干し、ふはっと息を吐いた。

お腹パンパンだよ。

大人達は神妙な顔で話し合ってるので、あたしは邪魔しないように椅子を下り、トレーを自分で運んだ。

食堂の出入り口から、突然叫び声がした。


「ええー?!」


振り向くと、出入り口にアルドラさんがいた。

小走りにあたしに近づいて来る。


「あ、アルドラさん」


あたしの側に来る前に、シリウスさんがアルドラさんの襟を掴んで引き止めた。


「ぐぇっ!あ、シリウス省長!一体どうして?!」

「うるさい」


シリウスさんは顔をしかめている。

アルドラさんはハッと口を閉じた。

あたしはトレーを返却口に置いてから、アルドラさんの近くへ行った。


「お早うございます、アルドラさん」

「……お早う。アンフィちゃん、だよね?」

「はい」

「たったひと晩で美少女に?!」

「うるさい」

「はい。済みません」


相変わらずアルドラさんは弄られキャラですね。

あたしは思わず笑ってしまった。

アルドラさんはパカーと口を開けた。

あれ?何かいけなかった?

シリウスさんは眉を寄せてアルドラさんを睨んだ。

アルドラさんはサッと青くなって、少し身を引く。

あたしとアルドラさんの間に立って、シリウスさんがあたしを見下ろす。


「アンフィ。今日は省長達は会議を行う。その間、部屋で待っていろ。部屋から出るなよ」


えー?退屈ですよ、それ。


「アンフィ?」


あたしが頷かないから、シリウスさんは困った様な顔になる。

うっ。別に困らせたい訳じゃないのに。


「なんなら、俺が一緒に――」

「駄目だ」

「はい」


アルドラさんがシリウスさんの背後で言うが、シリウスさんが思い切り却下する。

あたしは渋々頷いた。


「わかりました」


シリウスさんは慰めるようにあたしの頭を撫でる。

ぶー。部屋にずっといるのってほんと退屈なのよね。

別に元々そんなに行動派だった訳じゃないけど、じっとしてる時は食べてる時かゲームしてる時だった。


「わたくしとサビクの連名で召集しておくわ。シリウスはアンフィを部屋に送ってきなさいな」


シェアトさんが立ち上がって近づいて来ながら言う。

シリウスさんは頷くと、またあたしを抱き上げた。


「シリウスさん、歩けますよ」

「しかし、歩き難そうだった」

「あら、どうして?」

「靴が少し大きいのです」


あたしがそう言うと、シェアトさんは苦笑した。


「ごめんなさいね。今日中にちょうどいい大きさの靴を届けさせるわ」

「ありがとうございます」


アルドラさんが手を振っている。

あたしも手を振り返したら、シリウスさんに手を掴まれて止められてしまった。





部屋に戻って、すぐにシリウスさんは出て行ってしまった。

退屈なのでベッドに寝転がっていたら、いつの間にか眠ってしまった。


〈ごめんなさいね〉

聞き覚えのない、女の人の声。

〈こんな所に居たのか、××××の巫女〉

冷たい男の人の声。

〈こんな方法でしか、護れないとは!〉

悔しそうな響きの、若い男の人の声。

〈逃げろ!〉


「――フィ!アンフィ!」


ハッと目を覚ますと、シリウスさんがいた。

いつの間に戻って来たんだろう。

あたしが起き上がろうとしたら、シリウスさんに抱きしめられた。


「………アンフィ、大丈夫か?」

「え?」

「随分とうなされていた」


………ああ。なんだか、厭な夢を見ていたような……。

思い出そうとすると、体が震えた。

シリウスさんが更に強く抱きしめてくる。

何故かそれだけで、ホッと安心する。


「ごめんなさい。なんか、夢を見てたみたいで」


夢の内容を覚えてないけど。

シリウスさんがホッと息をつく。

そして、体を離した。


「気分は?」

「大丈夫です」


あたしはシリウスさんに笑ってみせる。

シリウスさんは頷いてあたしの頭を撫でた。


「そういえば、お話し合いはどうなりましたか?」


あたしが気になって訊くと、シリウスさんは少し顔をしかめた。

訊いちゃまずかったのかな?


「アンフィの身元の件だが……」


あ、話してくれるのか。


「やはり、エトナ国の民ではなかった。ブラキウム殿が隣国まで調べてくれたが、近隣の国の民でもなかった」


じゃあ、あたしの身元はまだわからないのね。


「キファは、アンフィを見つけたツヴァイ村の東の森を調べていたらしい」

「キファさんって、誰ですか?」


あたしが首を傾げると、シリウスさんは苦笑した。


「アンフィが助けた者だ。キファは刑部省副長だ」


え?!大人には見えなかったよ?!

あたしの表情を読んで、シリウスさんは笑う。


「あれでも、俺より年上だ。ブラキウム殿もな」


ええー?!なにそれ?!

永遠の美少年と美少女なのですか?!


「確かあの二人は、元はこの大陸の者ではない、と聞いたことがある。何処かの大陸の国では、あの様に成長が遅い人種があるのかもな」


あたしにとったら、この世界の人達はみんな成長が遅いけどね!

七十から八十歳でまだ未成年ってどうよ!

あたしの元の世界では七十から八十歳ってお年寄りよ!シルバー世代よ!年金生活よ!


「話が逸れたな。とにかく、キファが森を調べていたら、あの昨日の不審者達が森の中にいて、追いかけられて城まで来てしまったらしい」


え?!あの森って、なんだか危険な香りがしますよ?

その森で寝転がってたあたしが言うのもなんですが。


「昨日の不審者の尋問もそろそろ終わるだろう。そうすれば、何処の国の者かわかるかもしれない」


尋問中でしたか。

まあ、仕方ないよね。お城に入り込んで剣持って暴れたんだし。

あたしは気分を変える為に、明るく言った。


「シリウスさん。お腹空きました」


だって時計の針は十二時過ぎてるし。

シリウスさんは目を丸くした後、笑った。

肩を揺らして笑ってる。

シリウスさんのこんな姿、初めてかも。


「昼飯食いに行くか」

「はい」


あ。あたしまだ大きい靴のままだった。

それに気づいたシリウスさんが、あたしを抱き上げる。

結構恥ずかしいんだけどね、これ。


読んで頂き、ありがとうございました。



次はシリウス視点の話を入れたいと思います。


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