13
連休だったので、早めに続きが書けました。
目が覚めたら、見慣れない白い天井が見えた。
目だけで辺りを見たら、あたしの左側にサビクさんがいた。
右側を見たら、シリウスさんが心配そうな顔であたしを見てた。
「アンフィ、気がついたか?」
あ!!そうか!
あたし、右肩を刺されて………。
急に、恐怖が震えとなって、あたしの体を駆けていく。
勝手に涙が溢れて、視界が歪む。
すぐにシリウスさんがあたしを抱きしめた。
あたしはシリウスさんの胸に顔を埋めて、今更ながらの安堵感に大きく息を吐く。
あたし、生きてる。
助かったんだ。
誰かが――たぶんサビクさんが、あたしの頭にポンと手を置く。
「アンフィ。痛くはないかい?」
訊かれて、そういえば怪我したんだと、体の感覚を確かめる。
「……ふっ…い、痛く、ない…?」
肩はだるいけど、痛くなかった。
「痛くないです」
あたしが自分の体を見下ろすと、白いシャツを着ていることに気がついた。
あ、血で汚れたからですね。
っていうか、誰が着替えさせたの?
涙が急に止まった。
ここには、シリウスさんとサビクさんがいる。
という事は、二人のうちどちらかがあたしの服を脱がしたって事よね?!
いやー!恥ずかしい!
「アンフィ。覚えているか?肩を怪我した事」
シリウスさんがあたしを抱きしめたまま訊いてきた。
「はい。あ!あの人は、どうしましたか?!」
あの美少女!
あの人が死んだりしたら、あたしの怪我し損だわ。
「彼女は無事だよ。アンフィのお陰でね」
サビクさんが教えてくれた。
あたしはとりあえず安心した。
「良かった……」
美少女が失われたら、あたしは悲しいわ。
この世の損失よ。
美少女も目の保養。
しかし、サビクさんが首を振る。
「良くはないぞ。アンフィ、他人の危機に助けに入るならば、自分を犠牲にしない方法にしなければならない。そうしないと、助けた相手は負い目を感じてしまう」
あ、そうですね。
誰かが犠牲になってあたしが助かったら、あたしだって嫌だもの。
「はい。ごめんなさい」
あたしがしゅんとしたら、シリウスさんが背中を優しく叩いてくれた。
「シリウスさん?」
見上げたあたしと視線を合わせた後、シリウスさんはサビクさんを見た。
「部屋に連れて帰ってもいいでしょうか?」
「ああ。痛みがあるようなら、呼んでくれ」
「はい」
シリウスさんがそっとあたしを抱き上げて、医務室を出た。
もう痛くないし、大丈夫ですよ?
部屋に着くと、シリウスさんはあたしをベッドに降ろし、息を吐く。
「ちょっと出てくる。寝てろ」
「はい。行ってらっしゃい」
あたしが頷くと、シリウスさんは微笑んであたしの頭を撫でてから、部屋を出て行った。
お仕事ですかね。
あの黒ずくめの忍者もどきな人達はどうしたんだろう?
ボーっとしていたら、扉がノックされて開く音がした。
誰が来たんだろうと思っていたら、マイアさんがやって来た。
「アンフィちゃん、聞きました。怪我はもう大丈夫ですか?」
「マイアさん。もう痛くないです」
「そう。良かったですね。お着替えしてしまいましょう?体も拭いてきれいにしないと。今日はお風呂は入らない方がいいとサビク省長がおっしゃったので」
マイアさんはタオルと服を持って来た。
タオルを水で濡らし、服を脱いだあたしの体を丁寧に拭いてくれた。
そして、マイアさんが持って来た、七分袖の足首まである長さのネグリジェを着る。
クリーム色の布地にピンクの小花の刺繍がされている、可愛いネグリジェだ。
着替えた後、マイアさんがご飯を持って来てくれた。
トレーの上には、お粥。
ええー?
病人じゃないんだから、お粥はないでしょう。
ま、美味しくいただきましたけど。
「マイアさん、そこの棚から本を取ってください」
「本?どれでもいいですか?」
「はい」
マイアさんは植物図鑑のような本を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ。明日予定されていたお勉強は、中止しますね。アンフィちゃんの体調をみて、後日にしましょう」
「はい」
マイアさんはあたしが脱いだシャツとタオルと空の容器が乗ったトレーを持って出て行った。
しばらくベッドの上で本を読んでいると、シリウスさんが帰って来た。
「シリウスさん、おかえりなさい」
「……ただいま」
しかし、あたしを見て軽く息をつく。
「アンフィ。寝てないと」
「大丈夫ですよ。ここから動いてないですし、痛くないです」
あたしは本を閉じて枕元に置いた。
シリウスさんの顔を見たら、すごく安心した。
一人でいるのが怖いなんて。
あたしが俯いていると、シリウスさんが声を掛けてきた。
「どうした?」
どうしよう。恥ずかしいけど、言ってみようか?
あたしは今子供だし、大丈夫かな?
「えっと……あの、今日は、シリウスさんと一緒に寝てもいいですか?」
シリウスさんが硬まった。
やっぱ、まずい?
「あの、まだ、少し怖いんです」
「………そうか。いいぞ」
シリウスさんがやっと頷いてくれた。
今日だけ。今日だけですよ?
明日はたぶん、大丈夫だと思う……たぶん。
シリウスさんは、やっぱりすごく慎重にあたしを抱き上げた。
だからもう痛くないんだってば。
さっき着替えた時に見たら、傷口はわからなくなってたし。
シリウスさんの大きなベッドに降ろされて、あたしは一応右肩が上になるように体を横にする。
「寝てろ。俺は風呂に入ってくるから」
「はい」
シリウスさんはあたしに毛布を掛けると、部屋を出て行った。
シリウスさんのベッド、広ーい!
ま、いっか。
あたしは目を閉じて、シリウスさんの匂いがする布団に顔を押しつけた。
そうするうちに、眠ってしまった。
突然、ガタガタン!と何かが倒れるような音で、あたしは目を覚ました。
やや薄暗いから、朝になったばかりかな?
眠い目を擦って、体を起こした。
ん?なんか服がきつい。
見下ろすと、服が縮んでいた。
………違う。あたしが大きくなったんだ。
…………ええー?!
顔を上げると、ベッドから転げ落ちたらしいシリウスさんと目が合った。
シリウスさんは目を丸くして、でも立ち上がると、深呼吸をした。
「……シリウスさん?」
「アンフィ、なのか?」
「はい、アンフィです。あたしの体、どうしちゃったんでしょうか?」
あたしが頷くと、シリウスさんは片手で顔を覆って、深く息をついた。
溜め息?
たぶん、あたしの体は中学生くらいに成長してる。
この世界では何歳くらいなのか知らないけど。
シリウスさんはクローゼットを開けてシャツを出すと、あたしに渡してきた。
あ、これを着ろってことですね。
確かにこのネグリジェはちょっとピチピチです。
ベッドから降りて、あたしは自分のスペースに入り、渡されたシャツに着替えた。
下着は伸縮性のある物だったので、なんとか大丈夫だった。
シリウスさんのシャツは大きいですね。
ピチピチよりましなので我慢します。
「……とりあえず、サビク殿と…シェアト殿を呼んで来るから。アンフィはここに居ろ」
「はい」
シリウスさんはカーテン越しに言って、出て行った。
あたしは自分の体を確かめる。
髪は小さかった時と同じで、腰まで伸びてる。
どういう事?
背が伸びて、手足も多少長くなったけど、微妙。
少しして、バタバタと走って来る音がした。
勢いよくシャっとカーテンが開けられ、サビクさんとシェアトさんがあたしを見て硬まった。
二人の後ろからはシリウスさんが戻って来る。
すぐにサビクさんがあたしの手首を取り、首を傾げる。
「体に異常はないな」
「アンフィ、一体、何が……?」
「あ、お早うございますです」
「暢気ね!」
「いえ。あたしにもよくわからないので。起きたら大きくなってました」
サビクさんが少し離れ、今度はシェアトさんがあたしの首の後ろを見る。
そして息をのんだ。
「そんなっ!封じ紋が、半分消えてるわっ」
え?魔力を封じてる紋、ですよね?
半分消えてるのと、あたしが成長したのと、関係あるのでしょうか?
「アンフィ、どこも痛くない?」
シェアトさんが心配そうにあたしを覗き込んでくる。
「はい。大丈夫です。まだ、不思議な感じですけど」
そこでシェアトさんはあたしを見下ろして、ハッと目を丸くする。
「服を用意しなきゃ!いい?その格好で外に出ちゃ駄目よ!」
「えっと……はい?」
「シリウス!コート貸しなさい!」
シェアトさんはシリウスさんのコートを奪うと、あたしに掛ける。
「すぐ持って来るから!」
慌ててシェアトさんは出て行った。
何故?
サビクさんは笑ってるけど。
「うん、まあ、今のアンフィは、そうだな……七十から八十歳くらいかな?」
「そうですか?」
「ああ。子供と大人の間と言うべきかな」
そんなもんですか。
この世界の成人年齢は何歳ですか?
シリウスさんを見ると、まだ少し茫然としてる感じ。
大丈夫かな?
「ところで、こうなった原因は、昨日の事なのだろうか?」
サビクさんが顎に手を当て、考えるように斜め上を見る。
昨日の事とは、あたしが怪我した事?
あたしが首を傾げると、シリウスさんは何故か視線を反らした。
それを見て、サビクさんが眉を少し上げる。
「シリウス?」
「何でもないです」
「わたしは何も言ってないがね」
「…………」
おっと。
サビクさん、さすが年の功です。
シリウスさんの挙動不審を見抜いてます。
そこにシェアトさんが戻って来た。
「男の方はあっち」
シェアトさんはシリウスさんとサビクさんを追い払うと、カーテンを閉めた。
「さ、これに着替えて」
「あ、はい。ありがとうございます」
あたしはシェアトさんから服を受け取って、着替えた。
薄い藤色のワンピースで、腰には大きなリボン。その上に、丈の短い茶色のポンチョ。靴は足首にリボンを結ぶ形のオシャレな靴。ちょっと大きいけど。
「やっぱり可愛いわぁ」
シェアトさんはあたしの頭を撫でる。
そうですかね?あたしは自分の姿を見てないので、よくわからない。
「とりあえず……省長達を集めて相談しましょう?」
シェアトさんがカーテンを開けて、シリウスさんとサビクさんに言う。
「ブラキウムは、何かわかっただろうか?」
「さあ?まだ三日でしょう?そんなにすぐわかるかしら」
あたしはシリウスさんに借りたシャツとコートを畳んで、シリウスさんに返す。
「ありがとうございました」
「いや」
シリウスさんは服をクローゼットに仕舞う。
シェアトさんは深く息を吐くと、あたしを見た。
「朝食を摂りに行きましょう。お腹に何か入れないと頭が働かないわ」
シェアトさんとサビクさんが歩き出したので、あたしも行こうとした。
だけど、靴が少し大きいのと、昨日までと視線の高さが違うのとで、なんだか上手く歩けない。
ぎこちない動きに、自分で可笑しくなってしまう。
突然あたしの体がふわりと浮いた。
「え?」
シリウスさんが左腕にあたしを座らせるように抱き上げていた。
「ちょっ……シリウスさん、あたし自分で歩けますよ」
「歩き難そうだったからな」
シリウスさんは降ろしてくれなかった。
うー。あたし、きっと今顔が赤いわ。
落ちないように、シリウスさんの肩に手を置く。
それを見て、ふっとシリウスさんが微笑んだ。
くそー。イケメンは何をやっても恰好いいな!
そのまま部屋を出ると、廊下に先に出ていたシェアトさんとサビクさんが目を丸くした後、笑った。
笑われましたよ?シリウスさん。
「ちょっとぉ。過保護過ぎない?シリウス」
「そうですか?」
「いいけどね」
食堂まで移動する間、あたしは視線が突き刺さるので俯いてましたよ。
恥ずかしい。
読んで頂き、ありがとうございました。
関ジャニ∞の新曲を聞きながら書きました。
カッコいい。