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今回、暴力的表現があります。
苦手な方はご遠慮ください。
食堂に行ったら、シリウスさんがいました。
あたしは嬉しくなって走り寄って行って、シリウスさんの足に抱きついた。
「シリウスさんっ」
「……アンフィ」
シリウスさんは目を丸くしたけど、微笑んであたしの頭を撫でてくれた。
周りの人達は、パカーっと口を開けてますけど。
大丈夫ですかね?
アルビレオさんが笑いながら追いかけて来る。
「アンフィは素直で可愛いですね」
「アルビレオ殿」
「午前の授業は終わりですよ。午後はシェアト省長です」
「……アンフィ、ちゃんと勉強したか?」
「はい。楽しかったです」
あたしは頷いてシリウスさんを見上げた。
「楽しんで学べたなら、大丈夫だな」
「そうですね。理解力もありますし、賢い子だと思いますよ」
シリウスさんが、ひょいとあたしを抱き上げる。
そしてカウンター前へ行く。
厨房の中から三つ編みのお姉さん―赤いリボンの方―が出て来て、あたしの分のご飯を持って来てくれた。
あたしはいつも通りシリウスさんの隣でご飯を食べた。
その後、食堂の前でアルビレオさんと別れた。
シリウスさんに部屋に連れて行ってもらう。
しばらくしてシェアトさんがやって来た。
入れ代わるようにシリウスさんが出て行った。
あたしは、シェアトさんに頭を下げる。
「シェアトさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、アンフィ。さっそくで悪いんだけど、もう一度封じの紋を見せてくれる?」
「あ、はい」
シェアトさんは微笑んで膝をつく。
あたしは自分の髪を両手で前の方に持ってくる。
シェアトさんがあたしの首の後ろを見る。
「うーん、そうねぇ……」
少し唸るような声を出して、シェアトさんは体を戻した。
「もういいわよ」
あたしは髪を背に流す。
「では、魔法についてのお勉強を始めましょう」
「はい」
「アンフィには、軽く話したわよね?誰もが生まれた時から魔力を持っている事。その中でも、魔力が強ければ、魔法を使える事」
「はい」
あたしは頷く。
シェアトさんはにっこり笑う。
「アンフィも、もちろん魔力があるわ。魔力を封じられてはいるけど、もしかしたら魔法を使う事が出来るかもしれない。それを調べましょう」
あたしにも、魔法が使えるかもしれないってこと?
すごい!ファンタジーですね!
「はいっ。頑張りますっ」
「ふふっ。そうね。じゃあ、まず手を合わせて。こうよ」
シェアトさんが胸の前で両手のひらを合わせる。
あたしも言われた通りにする。
「集中して。両手の間に、意識して体中のいろんなものを集めるように。そうよ」
段々、あたしの手の間が暖かくなる。
「ゆっくり、球体が作られるのをイメージして、手を少しずつ離して」
あたしはゆっくり手を離していく。
すると、両手の間に光の球が現れた。
「ほぁー……」
シェアトさんはじっとその光の球を見つめる。
光の球はいろんな色が混じったように見える。
白、赤、青、緑、うっすらと黄色、そして下の方に黒。
綺麗だけど、なんだろう?これ。
シェアトさんがあたしの手に手を重ねて、ゆっくりまた両手を合わせるように包む。
そして手を離したので、あたしも手を離すと、光の球は消えていた。
「今の、何ですか?」
「今のは、アンフィが使える魔法の系統を調べるものよ。因みに、魔法を使えない者は、先程の球体さえ現れないの」
ほーぅ。そうだったんだ。
で、今のであたしには何の魔法が使えるか、わかったのかな?
シェアトさんは微かに顔をしかめていた。
「シェアトさん?」
「ああ、ごめんなさいね、アンフィ」
すぐにシェアトさんはいつもの微笑みを浮かべる。
「アンフィには見えたかしら?球体に色が浮かんでいたでしょう?」
「はい」
「あの色が、魔法の系統を表す色なの。まずは白。白は治癒魔法。これは普通だったわね。強く出たのが赤、青、緑。赤は火炎魔法。青は水魔法。緑は風魔法を表しているの。薄かったけど、黄色もあったわね。黄色は土魔法。アンフィは、火、水、風はだいぶ強い魔法が使える資質があるという事よ。そして、たぶん土は、使えるけどあまりたいした魔法は扱えないわね。治癒魔法も、たぶん傷を治すくらいかしら」
「そんなに?」
「そうね。万能の人も、いるにはいるわ。もしくは、どれかひとつだけ特化しているか、ね。医務省の人達は、みんな治癒魔法が使えるわよ」
「すごーい」
んん?黒は?
「シェアトさん。黒は?」
あたしが訊くと、シェアトさんは眉を寄せた。
「……アンフィ。黒は、呪いや、破滅の魔法を表す色なの」
「え?」
「でもね、悪いように考えないでほしいわ。わたくしだって、呪術魔法を使えるのだし。悪用しなければいいの。わかるわよね?」
「……はい」
そっか。呪い系かぁ。
ゲームでは魔法使いのキャラクターが使ってるのは見てたけど、あれは現実ではなかったしなぁ。
「とりあえず、アンフィは魔法が使える事がわかったから、次回からは、基本の小さい魔法から使えるようにしていきましょう」
「はい」
あれか。手から炎とか水の渦とか出しちゃったりするのね。
「じゃあ、魔道具についてお話しましょうか」
シェアトさんが座ろうと言うので、テーブルに向かい合って座る。
「魔道具は、もう目にしてると思うけど、水が出る物や、火が出る物を、生活に組み込んで使用出来るようにしているのよ。水道とか、そこの簡易かまどとかが、魔道具。今のわたくし達は、魔道具が無ければ生活出来ない程よ」
あれは魔道具と呼ぶのですか。
元の世界の家電製品のようですね。
便利な道具を一度使うと、もう前の生活に戻れなくなる。
水道だって、無ければ川や井戸まで水を汲みに行かなければならなかったりするものね。
「魔道具は、魔法陣と魔石がセットなの。魔石で魔法陣に魔力を流し込み、魔法陣に描かれた魔法が発動する。魔石は、微量の魔力でも反応するから、魔法が使えなくても使えるのよ」
シェアトさんの説明によると、例えば洗濯機(仮名)は水と風の魔法が組み込まれた魔法陣が箱の中に入っていて、魔石がスイッチとなって魔法が発動し、洗濯をする、という物らしい。
「すごいですねぇ」
「今までの魔導師や魔術師達の研究の成果かしらね」
シェアトさんは少し自慢気に言う。
シェアトさんの先輩達が、今の生活を支えているようなものだものね。
シェアトさんは時計を見て頷く。
「今日はここまでにしましょう。少し早いけど、いいわよね」
「ありがとうございました」
「どういたしまして。明日は、午前中に礼儀作法のお勉強よね?」
「はい」
「アンフィなら大丈夫ね。ちゃんと挨拶出来るもの」
シェアトさんは笑ってあたしの頭を撫でてくれた。
シェアトさんが部屋を出て行って、少し手持ち無沙汰になった。
そうだ。シリウスさんの所に行こう。
確か、今日もシリウスさんは新人さん達の訓練を見るって言ってたから、訓練場にいるよね。
あたしは部屋を出て歩き出した。
道はなんとか覚えてる。
この東棟を一階まで降りて、外に出て、建物に沿って歩く。
ちょっと時間がかかったけど、裏手に出た。
遠くに獣舎、もう少し近い所に訓練場が見える。
訓練場を目指して歩き出したら、突然右側――城壁の方から物音がした。
振り向くと、一人の少女と十人位の黒ずくめの人達。
え?!黒ずくめ?!
あの人達は忍者か何かですか?!
女の子は見た目十五歳くらいで、肩上で揃えられた水色の髪。
身体にぴったりとした黒い服を着ている。
黒ずくめの人達はそれを上回っている。
だって、顔もわからない程、頭部をすっぽり黒い布で覆っている。
どうやら、女の子を黒ずくめの人達が攻撃してるみたい。
やばい!どうしよう?!
あたしは、足がすくんで動けなくなった。
女の子はなんとか攻撃を避けてるけど、数の差でたまに腕を斬られたりしている。
ついに足を斬られて、地面に転がった。
あたしは、考えるより先に体が動いていた。
走って行って、女の子の上に覆い被さる。
視界の端に、黒ずくめの人達が持っている剣の鈍い光が見えた。
右肩に激しい痛みが襲う。
「あああー!!」
悲鳴をあげることしか出来ない。
痛みに目の前が暗くなる。
あたしの下の女の子が動いて、あたしを退かそうとする。
あたしは必死に女の子の上に乗る。
騒ぎを聞きつけて、警備省の人達が走って来るのが見えた。
黒ずくめの人達は、あたしや女の子を殺すことを諦めて、逃げようとしている。
ふいに、あたしの頭上で強い風が起こった。
「アンフィ!」
耳に心地よい低い声が、慌てたようにあたしの名前を呼ぶ。
「アンフィ!」
あたしの体を、誰かが抱き上げた。
目を開けると、目の前にはシリウスさん。
「……シリウス、さん」
「アンフィ、しっかりしろっ」
「省長!サビク省長はすぐ来ます!」
遠くで誰かが叫んでる。
「逃がすな!一人残らず捕らえろ!」
走り寄って来る足音がして、近くに誰かが来る。
「意識は?!」
「キファは、ある。アンフィは……」
そこで、あたしの意識は途切れた。
読んで頂き、ありがとうございました。