ウィリアムの秘密6
ウィリアムとカーソンは屋敷の一階の奥まった場所に移動した。そこは使用人部屋が密集したエリアだった。元々使用人の為に作られた廊下は電球は下級品を使っている上に数が少ないので、薄暗い。
「……いい加減、廊下を明るく作り直さないか?歩きにくくて敵わん。」
ウィリアムが廊下を壁づたいに歩きながら言った。
カーソンは首を傾げながら答える。
「必要ありませんよ。ここは普段、使用人つまり私しか通りませんし、その私が不便を感じていませんから。」
「いや、僕も通るし、不便も感じているんだが……。」
「経費の無駄です。」
屋敷のリフォームをカーソンにきっぱりと断られたウィリアムはその後は大人しく歩き続けた。
カーソンは廊下を歩いて一番奥の部屋の扉を開けた。その部屋はカーソンの自室だった。古い木製のドアが軋んで音をたてる。
「どうぞ、お入り下さい。」
カーソンはウィリアムを、招き入れた。
カーソンの自室はかなり広かった。というのもカーソンが住み始めてから隣の両部屋の壁を壊して一部屋にしているので三部屋分の広さがあるのだ。
だが、実際の広さに反して体感は狭かった。天井まである高い本棚とクローゼットに、大きさも色も様々な植物の鉢植え、そして大きな木製のテーブルを真ん中にドカンと置いている。
更には本棚に入りきらなかった本が床に散らばり、テーブルの上には形容し難い色の液体や粉が入ったフラスコやビーカー、それらを加熱したり支持したりする道具が所狭しと無秩序に置かれていた。
「……相変わらずだな。」
部屋に入って数秒の沈黙の後にウィリアムは言った。
「では、坊っちゃん手を出して下さい。」
ウィリアムはカーソンに手を差し出した。カーソンはウィリアムの手をとり、ルーペで肘から末端に向かって観察していく。そして、ウィリアムの爪を観た所でカーソンの視線が留まった。
「ああ、やはり爪が黒く変色し始めてますねぇ。」
カーソンの言う通りウィリアムの爪は正常よりも褐色に近い。だが、昼間は薄い桃色だったはずだ。
「どうせ、朝になれば戻っているんだろう?」
ウィリアムの問いにカーソンは答える。
「だと思いますが、坊っちゃんの悪魔の力が強くなってきたのかもしれません。前にも言いましたが、悪魔の力が強くなり過ぎると朝になっても髪も瞳も黒くなったままですよ。
念のために私の作った薬を飲んで頂きます。」
カーソンの言葉にウィリアムは眉間に皺を作る。
「あの、くそ苦いやつか……。」
「悪魔にとっては毒物なので苦くないと困るんですよ。一緒に胃薬も混ぜときますので、お腹は壊さないはずです。」
カーソンはにっこりと微笑んで赤黒い液体の入った丸底フラスコをウィリアムに渡す。このまま飲めということらしい。
ウィリアムはフラスコの中の液体を見つめる。液体は粘調度が高く、常温にもかかわらず内側からボコボコと泡をたてている。この液体は口の中でへばりつきそうだし爆ぜそうだ。
「本当にこれで悪魔の力が抑えられるのか……?」
「もちろんです。現役の悪魔が作ったものですよ。信用して下さい。」
「……。」
ウィリアムはフラスコの中の液体を飲んだ。