ウィリアムの秘密2
「あー、窮屈だった。」
ウィリアムはコルセットから解放されたことを素直に喜んだ。ウィリアムのコルセットは特別製で胸を平らにして、くびれを無くし、女性の体を男性らしく見せるものだった。
「本日もお疲れ様でした。お嬢様。」
「は!?」
カーソンの言葉にウィリアムは不機嫌な声を出す。だが、カーソンは気にせずに仕事を続ける。
「では私は外に出ておりますので。」
カーソンはウィリアムのコルセットを外すと浴場から出ようとした。
「カーソン、外に出なくていい。そこにいろ。」
カーソンはウィリアムの言葉に首を傾げた。
「よろしいのですか?」
「ああ、但しこっちを向くなよ。後ろを向いていろ。」
カーソンはくすりと笑い、かしこまりましたと頭を下げた。
白い滑らかなバスタブの中には温かいお湯がたっぷりと張ってある。ウィリアムはお湯の中に足から入り、肩まで浸かった。
「はー、今日は疲れたなあ。」
ウィリアムは深く溜め息をついて、後ろを向いたままのカーソンに尋ねる。
「カーソン、明日の予定は?」
「午前中の予定はありませんので、ゆっくりされて大丈夫ですよ。」
ウィリアムはカーソンの背中を見つめる。お風呂のお湯で水鉄砲を打ってやろうかと思ったが、後ろ姿に隙がなかったのでやめたといた。後で叱られる方が怖い。
「明日はちゃんと起こせよ。今日みたいに慌ただしいのはごめんだ。」
「かしこまりました。出来るだけ努力致します。」
ウィリアムはふーと息を吐く。
「もう風呂から出る。カーソン、外に出ていろ。」
「よろしいのですか?体をお拭きいたしましょうか?着替えもありますし……。」
「いい。体ぐらい一人で拭けるし、あとは寝間着に着替えるだけだ。一人で出来る。あまり僕に過保護になるな。」
カーソンは小さく溜め息をついた。
「それでは先に失礼させて頂きます。すぐそばにおりますので、ご用があれば呼んで下さい。」
カーソンはウィリアムの方を向かないように器用に扉を開け浴場の外に出た。
それとほぼ同時にウィリアムがバスタブから出る水の音がした。
カーソンは浴場の扉の外で耳を済ませている。ウィリアムが浴場を歩く音、着替える時の服擦れの音が微かに聞こえる。
ウィリアムはこの前までカーソンに入浴の手伝いも着替えも全て任せていた。
「難しい年頃になってきましたね……。」
カーソンは仕事の上で面倒くさいと思いながらも、ウィリアムの成長を楽しんでいた。
ウィリアムは少女として性をうけながら、家督を継ぐために少年として生きることを選んだ。家督を継ぐことが出来るのは男児のみと決まっているからだ。
そのことを知っているのは屋敷の中でもウィリアム本人と執事のカーソンのみである。
カーソンはウィリアムに男児としての教育を受けさせると同時に、ウィリアムが少女であることがばれないようにサポートしていた。
だが、二人の秘密はそれだけではなかった。