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好い人

作者: 好い人

『いい人なんだけど…』


ボクはいい人らしい。

それもそのはず。


自分でも嫌ってくらい尽くすタイプなんだ。

ボクの幸せよりもキミの幸せが。

重いって言われても優しすぎと言われても仕方なかったんだ。


ボクがしてあげたことで

キミが笑ってくれるのがほんとに大好きだから。


だからずっとずっと

キミのことだけを考えてた。


キミが喜びそうなことを考えたり


キミが悲しまないように他の人に目を向けなかったり


デートの待ち合わせも

何分も早くきて待ってたり

キミが寝坊で何時間も遅刻しても


『ボクも今きたばかりだよ。』

と嘘をついたり


『そんなに小さな男じゃないよ?』

って笑ってみたり


ほんとは

寒い中ずっと携帯でメールを何度も確認してたし

少しイライラしてたし

帰ろうかな、なんて思ってたりもしてたよ


でも、キミに会えるならなんでもいいと思った。


キミがきたら笑って頭を撫でてあげようって思った。


キミが喜んでくれるなら

笑ってくれるならそれでよかった。


それがほんとに幸せだった。


大好きな車を走らせたりいじったり

友達とバカやって怒られたり

趣味で始めたギターを掻き鳴らしたり

かわいい動物で癒されたり


そんな時間よりも

キミの笑顔がほんとに大好きだった。


『会いたい。』って言われれば

『すぐ行く。』って言えたし


誰よりも幸せにしてあげる自信があった。

離れないし離さなかった。





キミが夜に遊ぶようになっても

若いから仕方ない。

キミの人生だから好きにさせよう。


そう言い聞かせてた。


もしキミの過去や全てを知ったとしても

全部受け止めて愛そうと思ってた。





キミとなら永遠もあるかも…

なんて思ってたりね。





遊ぶ時はいつも雨だった。

『雨女だから』

あの日もキミはそう言ってた。


キミが好きな海に行く約束をした。


せっかくなら砂浜があるところがいいと思って

都内から出ることにした。


花火もあったら楽しいだろうなと思って

季節は違うけど店を探し回った。


夜について星空を眺めて花火をして

車の中でキミに寄り添って少し寝て


明け方に日の出を見てキスをして

またボクの大好きな笑顔を独り占め。





神様という存在がいるのなら

なぜ願いを叶えてくれなかったのだろう。


なんで雨を降らせたのだろう。

なんでこんなにも寒いのにボクらは離れているのだろう。


なんでボクの大好きな笑顔が曇っているんだろう。





キミは泣きながら

『いい人なんだけど…』


いい人ってなに?

いい人じゃ特別な存在になれないの?


ならボクはいい人じゃなくたっていい。

最低なやつだっていいからキミの特別になりたい。


『わたしそんなに想ってもらえるほどいい人じゃないよ』



わかってる。

ずっと一緒にいたから。


でもいい人って?

なにをしたらいい人で

なにをしなかったらいい人じゃないの?


いい人っていいことなの?



『今時そんな真面目で一途で健気な人なかなかいないよ』




『きっともっと好い人が見つかるよ』




キミを駅まで送った。

無言になる時もあったけど

気まずくならないようにどうでもいい話をした。


キミは笑ってくれた。

でもボクの好きな笑顔ではなかった。



いい人ってなんだろう。

隣にいるにはいい人だけじゃダメなんだろうか?


最後、キミは『ばいばい』って

『またね』とは言わなかった。



一度も振り向かず手も振らず

ただ寒い中を黒いコートがなびいてる。


手を繋ぐことも

頭を撫でることも

抱き締めることも


幸せを願うこともなくなった。




きっともう二度と会うことはないだろう。



人混みに紛れて消えていくキミの小さな背中。





ボクはいい人。

キミの幸せだけを願ってた。

キミが笑顔ならそれでよかった。




でも。

ほんとは二人で幸せになりたかったんだと思う。




二人で笑って

二人で怒って

二人で泣いて

二人でまた笑って。


きっとキミは二人がよかったんだ。

キミだけじゃない。



ボクの幸せも願ってたんだ。

ボクの笑顔が大好きだったんだ。




『わたしそんなにいい人じゃないよ』



大丈夫。

キミは好い人だよ。


キミにさよなら言われてから気付くなんてね。




ほんとに大切なものを教えて貰った。

大切な時間を過ごした。



次に出会うキミとは

これからは二人で幸せになろう。





ほんとに好い人になろう。

ありがとう。さようなら。


『好い人』

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