極めていかん3
いかんです。
アンノン地方のモンスターについて講習を受けた後で、魔法についての講義になった。
実践派なゴルドバは「実践してこそナンボだッ!」と豪語して、渋る私と喜ぶ来人をを連れて、草原へと転送した。
未だ黒く焼けたままの草原は、見るたびに胸が苦しくなる。
自分自身の過ちを見るのは、かなり堪えるものだ。
「着いたぞおッ!さあー、ココで魔法ぶっぱ放題だッ!きちんと許可はとったぞおッ!お墨付きだあ~ッ!さあ、ぶっぱなせッ!!わはははッ!」
「先生~危ない人みたいな発言だねぇ?」
『アヤツは危ない人みたい…と言うより、危ない人だぞい?来人は近寄ってはいかん!移るぞいッ!』
「移るの~?」
『うむ。移る。』
「移るかッ!!我を何かの病原菌のように扱うなッ!?」
「どっち~?」
「来人ッ!移るから近寄っちゃダメよッ!!魔法で一緒に、殲滅しちゃいましょう??」
「ちょっと、ひどくないッ!?我とモンスターを、一緒扱いとかッ!?」
「さてと、何ぶっぱなすかな?ジジイ。オススメは?」
『そうさなぁ~?コヤツには天誅が似合う。…雷かのう??』
「雷の魔法か?やってみるか~?」
「恵ちゃん。天誅って…なあに~?」
「天誅って言うのは、悪い人に与える罰かな??」
「じゃあ、先生は悪い人なの~?」
「たぶんね?」
「ん~?僕、よくわかんないけど、先生悪い人には見えないよ~??」
「来人君は何て良い子なんだあーッ!!!ゴルドバ感激ッ!!ああ、我の目から汗がッ!!」
「えーーい!!鬱陶しいッ!行くよッ!
―来たれ雷!来たれ風よ!我が敵に怒りの鉄槌を与えよ!雷風招来陣っ!―」
「えーっ!?ちょっと、待てッ!?」
辺り一帯に暗雲が広がり、風が吹き荒れる。
夏の入道雲をイメージ。雲の中には氷。
理科でやった気象現象のイメージを、魔力と共に込めて行く。
雲の中に、稲妻が走り抜け、ゴロゴロと音が大きく反響した。
だが、それだけだ。
いつまでも帯電するだけで、思ったような雷の槍は落ちて来ない。
「あれ?不発??」
「ふう…。良かったぞおッ!マジで、我の終わりかと思った!」
『イメージはきちんとな~?相手の指定と範囲の指定。今のイメージじゃと、雷は、ゴルドバ殿には落ちんぞい??』
「えーーっ!?マジで!?」
「ふーん。イメージって大切なんだね~?」
『その通りじゃよ来人。まずは、イメージじゃよ。』
「なんだろう?我が講師のはずなのに、レイモンド殿の方が、先生っぽいのは何故だ…??
しかも、標的我前提で話し合いッ!?我完璧モンスター扱いとか、あり得ないぞおッ!?」
『性格がモンスター並じゃよ?
黒髪のハイランダーよ…。転生しても、性格が変わらんとは…まっこと哀れなり。』
「何ゆえか?理不尽なりッ!!」
「とりあえず、イメージし直して、詠唱も変えてみるか?
んじゃ、また逝くよ?」
「えーーッ!?我は先祖代々誇り高き戦士ッ!モンスター違うッ!!とりあえず―防御陣全力展開ッ!!―」
『誇りより、埃って感じじゃよ?恵よ…遠慮なく、やってしまえ。』
「アイアイ!!―来たれ雷!来たれ風よ!我が敵に天誅を与えよ!雷獄風来槍ッ!!―」
『ドッゴーーーン!!バリバリバリバリッ!!』
轟音が耳から耳に抜け、まばゆい光が、あっという間に視界を奪う。
耳が全く聞こえず、目が見えない。耳鳴りと頭痛が止まらない。目の奥と耳がズキンズキンと痛む。
空気が熱く、息を吸い込むのが辛い。
目を擦り、耳を叩く。かなりの時間がたってから、目が回復してきた。
まだ光の輪が見えて、視界が白くチカチカするが、なんとか景色が見えて来た。
「うげっ!!」
視界いっぱいに、霧で包まれていた。
そのモヤの中には、黒い大きな穴が幾つも開いた地面があるのが、ウッスらと見える。
モヤに包まれた、黒い縦穴が幾つも空き、辺りはシュウシュウと湯気が上がり、とても熱い。
目を瞬き擦ると、視界が多少良くなった。
穴の周囲は溶けて、フツフツと沸いているように見える。
周りを見ると、光のドームが2つあった。
ひとつは私の真後ろ。来人とジジイが居たところだ。
もう1つは、前。ゴルドバの居たところだ。その周りは、穴がボコボコと集中して居る。
ちッ!仕留め損なった…。
「―――――!」
「――――!?」
うん。全く聞こえんな。身振り手振りで、聞こえないアピール。
心配そうな来人と、怒ってるっぽいゴルドバ。
口パクで、全くわからんが…。
声を出そうとすると、ゴホゴホと咳が出る。息を吸い込むと胸が痛い。
『恵よ…。やはり、魔法の加減訓練をしてもらう。年中コレでは、いずれ来人が死ぬぞい?』
「ガーン!!来人が??ダメ~ッ!そんなのダメ~ッ!!絶対やるッ!加減するッ!やってやるう~ッ!!」
「ーーっ!!~ッ!?~ッ!?」
うん。以心伝心以外、全く聞こえん。
自分の声も聞こえない。
コレ、鼓膜やられてるかもしんない。
『来人や。恵が、お耳痛い痛いらしいのじゃが…。
「痛いの痛いの飛んでいけ~ッ!」してやってくれるか?』
「―ッ!!―――?――――――――――~ッ!」
来人がうなずき、私に手をかざした。
ふわあ~っと、温かい光が私を覆う。
まるで、来人の人格そのままの光だ。
その瞬間、目の奥と、耳にあった痛みも、頭の痛みも、肺の痛みも全て消えた。
嘘みたいに、全てクリアになった感覚。スッゴい爽快感。
私を覆っていた、温かい光は、スッと消えて、爽快感だけが残る。
コレ、すごい。絶対ハマる。気持ちいいッ!
「来人、ありがとう!!大好きッ!!ギュッーーっ!!」
「きゅッ!苦しいむぐう~ッ!」
『じゃから、お主の胸で来人が、窒息するぞいッ!?』
「あッ!来人ごめんごめん。ついつい、抱きしめちゃうんだよね~?」
「うんッ!嬉しいから大丈夫ッ!」
顔をちょっと赤らめた、上目遣いの来人がまた可愛らしくて…。
ああ、もうッ!
ちょっと、この子ってば、破壊力抜群ッ!!
親子じゃなかったらヤバイッ!絶対ヤバイッ!
危ない世界に、足突っ込みそうッ!ああ~ん!!可愛らしいッ!
「うわぁッ!我も胸で窒息したいッ!
死体になりそうだから、絶対しないけどッ!!アレは素晴らしくうらやましいッ!!うわぁッ!うわぁッ!」
来人とゴルドバが、足を組み換えたり、しゃがんだりして、もぞもぞコソコソして居たのだが…。
―身悶えている私が、その様子を見ることはなかった。
『全く…。やれやれじゃよ…。
来人もかわいそうにのう。アレ、生殺しじゃよなぁ…?な…?』
いかんです。
鈍い母に、来人が大変な回です。




