インベン…トリ?
「うらぁっ!」
私は冷蔵庫に苛立って、足で扉を勢いよく閉めた。
「ママ、スゴイスゴイ!あはは!」
ああ…はしゃぐ息子がうらやましい。妬ましいかもしれない。
私の硬い脳みそをシェイクする冷蔵庫に、スッゴい苛立つけど、便利な道具と思えば良い訳だし。
いつ帰れるかわからない、こんな状況だ 。
整理してみよう。
ここは異世界。回りは道すら無い草原。背の高い木すら無いので、登って周りを確かめる事すら出来ない。見える限り、村や町はおろか、人すら居なくて地図すらない。家に帰れるかわからない。水や食糧は多分…苛立つ冷蔵庫でなんとかなる。異世界なので、何があってもおかしくないし、もしかしたら、モンスターが居るかもしれない。
「んん??まてよ…コレはもしや。確かめてみるか…?」
「インベントリオープン!!」
ちょっとわくわくしながら言ってみた。異世界ですもの!若い時には憧れたし。
「ぎぃ~ぃっ!」
遠慮がちに、冷蔵庫の扉が開いた。
「パタン」
すかさず閉める。
「だからインベントリオープン♪」
「ぎぃ~っ!」
「パタン」
「うふふ…♪インベントリオープン!!」
「ぎぃっ!」
「パタン」
「インベントリっつってんだろ!オープン!!!」
「バタン」
「認めないし!絶対に冷蔵庫なぞ認めないし!インベントリっマジでオープンったらオープン!」
「バッターン!」
「私のインベン…………トリ………?」
長い沈黙の後で、冷蔵庫から鳩が羽ばたいて、青い空へと消えて行った。
真っ白い空気で『息をするのが苦しいなぁ~』とか思ったら本当に息が白かった。
冷蔵庫から、冷気が辺りに漂って、霜が下りているみたいになってた。
どうやら冷蔵庫も自身の寒いギャグで、ダメージを負ったらしかった。
「ざまあ!」
なんか言っても虚しくて、全然スッキリしなかった。ちなみに今のやりとりの最中、ライ君は笑いながら虫を追いかけてました。
将来大物だね。ってもう大きくなってたね…トホホ。もう一度かわいい2歳のちびっこライ君に会いたいよ、ママ寂しい~!泣けてくるわ。もう泣いてるけど。
決して、決して、冷蔵庫に負けた感半端ないからじゃないんだからねっ!
ああ、私の夢のインベントリが……
さすが異世界洗礼が半端ないな。
挫けそうだ……