げに恐ろしきは遺伝なり
渇いた喉に、炭酸のジュースが染みて、涙が滲みました。
決してこの先の事に、悲観したからではありません。
炭酸ってイッキ飲みすると、マジで涙がでない?
「くかあ~っ!うまいっ!効くな~っ!げっぷぅ」
「ママ、パパみたい…。」
「……ジジクサイって事だよね?ふふふふ」
ニコニコ笑いながら、拳をペキペキ鳴らすと、ライ君は目を反らした。
いつものお仕置きタイムである。決して虐待では無い。レディーに対する態度の教育は、大切な事だよね?ふふふ~♪
「そ、それよりお腹すいてきたよ~ママ。ママの作ったオヤツ食べたいっ!(ニコニコ)」
「ちっ!その上目遣いに笑顔反則っ!変わんない可愛さだよ畜生っ!しかもいつそんな、かわし方教わったんだよ!」
「ん~?パパ?前にママにするの見てたら覚えてた。ここ来てからすごいんだよ~っ!色んな事が全部わかるのっ!」
息子が目をキラキラさせながら、興奮したように身振り手振りを交えて喋る。
それを見て
『あ~っ!本当に異世界補正ってあるんだなぁ~すげぇ』
とか、考えていた。おそらくは『言語理解』とかではないかと考えられる。よくある話しだ。
こちらに来た時に変換された、肉体及び格好にも、何らかの不可思議な異世界補正がかかっているのだろう。頭痛くなって来た。
…常識で考えているから、頭痛くなるんだよ。考えるな感じろ……ってよく言うよね。うん。そうしよう。ハハハ……渇いた笑いしかこぼれ無いや。
「とりあえず何か食べて、脳細胞に栄養送れば、何か打開策が思いつくかもしれないねぇ。うん。いっちょうまい菓子でもつく…れナイじゃない?へこむわ~マジへこむわ~」
調理道具すら無いじゃない。
何か冷蔵庫に入れてあっただろうか?
何故か一緒に異世界に来た冷蔵庫は、ちょっと薄気味悪いけれど、当座生きて行くのに欠かせない。
私は冷蔵庫に手を伸ばして、ドアを開けた。ショートケーキが入っていた。
「あれ?買って来てたっけ?」
首を傾げながら、冷蔵庫に入っていたケーキを見る。
可笑しな事に二つの皿にケーキが二つ。
べつに可笑しな事は無いって?
いんや、私には可笑しいと断言出来る。
私は大雑把な性格で、ケーキを買ったら箱のまま入れておく。
そして、その日のうちに残さず食べきるのだ。日を置くと風味が落ちるからな。うん。
だから太ったんだが(笑)
それが何故か買った覚えも無いのに…
謎だ!何故だ?不思議だ?不自然だ。疑問だ!
頭いてー!かんがえたくねぇー!
ひとまず異世界だし、なんでもありって事にして、ケーキを取り出す。
我ながら投げやりになってんな~と、考えながらケーキをライ君に渡す。
「やった!ケーキだ!いっただっきまーす!」
無邪気だね~。さすが元2歳児。ちょっと和むわ。
「ご馳走様でした!オカワリっ!」
って速いわ!瞬食やね。しかも大食いやね。
「あいよ~ママのも食べな。」
「ママの分でしょ?ママ食べて。」
「良いから食べな~。子供が気を使うな!」
「う、うん。いただきます。ありがとうママ!」
かわいい事言ってくれちゃって♪優しい良い子やね。
夫よ、我が子はわずか1日で立派に育ったぞ。うるうる。
しかし冷蔵庫チェックしとくか。保存食あったら持ってって、探索しなくっちゃ。人家あるといいな…。
「ガチャ」
冷蔵庫を開けると、そこにはビーフジャーキー。カンパン。缶詰め。ドライフルーツ。
「パタン」
そっと扉を閉めた。
疲れているんだろうか?幻覚が見えた。
目を擦る。気のせいかな?
「ガチャ」
ある。しかも大量に。保存食が。買って無いのに。
「うっだあぁあっ!!なんなんだよこの冷蔵庫っ!わけわかんねぇっ!!」
理不尽さに叫んで頭を掻きむしり、天を仰いだ。
あぁライ君に引かれた。悲しさから、ちょっと冷静になれた。
食糧あるなら良いんだょな。プラスに考えて行こう自分。
あとはコレを入れる…リュックがあれば良いんだけど。
あと私の武器は何か無いかな?
確か来る前には、手に杖持ってたし。首に巻いてたバスタオルも…どこかに落ちてないかな?
黙して考えていたら、開けたままにしてあった冷蔵庫から
ポロポロポトンと落ちてきた
『リュック、杖、バスタオル』
「え……?え……?ええぇぇぇ!?」
「うわぁ!ママ!見て!この冷蔵庫すごいね!なんでも出て来るよ!」
「あ、うん。ソウデスネ」
ライ君、ママは、呆れを通り越して疲れたよ。燃え尽きそうだよ。
「コレが堅い脳みそと、柔らかい脳みその違いなんだろうなぁ…」
と、呆然と呟いた。
まだまだこれからが大変そうだ…