いざ、冒険者ギルドっ!!
ここの宿屋のゴハンが、素晴らしい。
思わず、御代わりしたくなる旨さである。
一旦太った事実があるので、我慢しますが……。名残惜しい。
この宿屋の素晴らしいところは、部屋に食事を運んでくれるところである。
―電話で頼む―
もはや言葉が出ない。異世界ってなんぞや?
ジジイを見ると、何故かぷるぷる震えていた。
怒りのオーラが出ていたらしい。
異世界らしいのはどこだ?
それは、コレから行く『冒険者ギルド』であるっ!
ウキウキワクワクしているのは、私だけではない。
そう、私の愛息子の来人である。
彼は朝から窓に貼り付き、外を何十回も見ては、キラキラした瞳を、ギルドのある方角に向ける。
そして、部屋の中をウロウロをひたすら繰り返す。
さすがに、ゴハンの時は怒ったが……私も、行きたくて行きたくて仕方ない。
異世界の定番『冒険者ギルド』
憧れの『冒険者』
なんてロマン溢れる言葉なんだろう……
「ああ、早くなりたい……(うっとり)」
『昨日、サリエル殿が案内して下さると、言ったではないか?暫し待つのじゃ!』
「分かっちゃ居るけど、心ココにあらずなんだよっ!女の子だもんっ!胸キュンなんだもん」
『き……き……ぐわあーっ!ヤバイ考えると負けじゃ!ヤられるっ!考えるなワシっ!考えるなっ!』
キモイ言ったら、どうなるか分かってるよね?
よね??
今なら、視線でヤレる気がする。ふっふっふっ♪
「ねぇねぇ、そういえばさ。こっちの時間ってどうなるの?24時間?地球と、同じ?1年は?」
『同じじゃよ?』
「―ちっ!」
『恵よ…お主…せっかく見た目が良いのに、台無しじゃよ?台無しじゃよ?』
「ん?私の見た目??全然普通じゃん?
見た目と言えば、異世界の普段着、どうなってんのか分かんないな。行きながら観察すっか?」
来た時は、緊張してて、それどころじゃ無かったし…。
町並みしか、目に入って無かったからな。
信号機に、ショックうけてたから…。
この宿屋の従業員も、スーツタイプの制服だし。
唯一異世界らしいのは、鎧着た兵士が帯剣して、闊歩しているくらいだよね。
コスプレ魂が、刺激されるよね?
昔、本物の西洋甲冑をつけたことあるけど、動きづらいし、蒸れるし、マジで暑いしでひどかった。
フルプレートアーマーなんて、昔の人は、良く着れたもんだ。
私1人じゃ着られ無いし、脱げ無いし。
何よりトイレに行きずらい。ガチャガチャの甲冑で、女はトイレで座れない。
外せるだろうが、解らなかった。
ので、全部手伝ってもらって脱いだ。
和式だったらどうすんだろうか?
思わず下世話な想像してしまったが、そのくらい困ったと言う事である。
思考が逸れたね?はて?なんの話しだったっけ…?
『お主の容姿の事だったんじゃが?……わざとか?それとも本当に分からないのかのう?』
「装備の事じゃなかったっけ??」
『天然じゃよ?コイツは、天然じゃよ?』
「え??なんの事?」
そうこうしてるうちに、フロントからの電話が、サリエルさんの来訪を知らせた。
もう一度忘れ物は無いか、確認する。
「ライ君、昨日も言ったけど、ママの事は『恵ちゃん』って呼んでね?
ママも『来人』
って呼ぶからね?お外では良い子でね??」
「うん!恵ちゃん!わかった~っ!僕頑張るねっ!」
握りこぶしを作って力説するライ君に、可愛すぎてぷるぷるするっ!
『子が可愛いって…。来人はお主に似てるんじゃから…お主も可愛いって事じゃと思うんじゃ。何故気付かん?』
「うりゃっ!可愛すぎてすりすりのぷるぷる攻撃じゃーー!」
『肝心な時には、話し聞かんし…
コレっ!恵よ。来人がお主の胸で窒息するわい。離してやらんかっ!
いい加減にせんと、冒険者に登録出来なくなるぞいっ!』
「えっ!?やだやだっ!」
『ホレっ!下でサリエル殿が待っとるぞい。ワシャ留守番しとるから、早く行かんかっ!』
「来人行くぞっ!ジジイっ行ってきまーーーす!!」
『やっと行ったか…。ホンに騒がしいのう!ドアぐらい閉めんかっ!
ここまで似ておると、双子と言ってもおかしくないのじゃ…はあ、ちかれた』
「おはようございます。サリエルさん。待たせてしまってすいません」
「サリエルお兄さんっ!早く早くっ!」
「こら来人っ!挨拶して」
「ハハハ、おはようございます。来人君は、今日も元気いっぱいだね~!」
「ハイっ!おはよう。サリエルお兄さんっ!今日もカッコイイね!早く早く早くっ!僕待ちきれなかったのっっっ!!」
「それじゃあ、さっそく行こうか。」
「来人ったらもう…。すいません、サリエルさん」
「いいえーーーーぇっっ!!??」
来人はグイッとサリエルを担ぎ上げ、宿屋から飛び出し走りだす。
その姿は、あっという間に見えなくなった。
呆気に取られるとは、こういう事を言うのか…?と、恵は、冷静に考える。
まあ、地図は擦りきれるほど何回も見たし、宿屋の五階の窓から、嫌になるほど眺めた。
おかげで《空間の覇者》を使ってのマッピングも出来る事がわかった。
今は、まるでナビのように、立体的に町中を全て把握出来る。超便利だ。
ギルドは紅い矢印で、点滅表示されている。
来人にはサリエルさんが居るから、まあ大丈夫だろう…。
ひとつため息を吐くと、恵も早足で冒険者ギルドに向かうことにした。
「マ…恵ちゃーん!ココ、ココっ!早く早くっ!」
ギルドの前、来人はぴょんぴょん跳ねながら、千切れんばかりに大きく手を振っていた。
まるで犬のようだ。
来人が犬だったならば、尻尾をビュンビュン振りながら、ワンワンきゃんきゅん言って飛び付いてくるに違いない。
そして、散歩の時は飼い主を引き摺り回すに違いない。
そんな来人の傍らには、疲れはてた顔のサリエルが座り込み、喘ぎ、嘔吐いている。
かわいそうな被害者に、労りの声を掛けてやろう…。そう思わずには居られず、目頭をそっと押さえた。
元2歳児の行動力と無謀ぶり、現勇者の体力と力と速さを兼ね備えた来人は、かなりのものだろうと推測される。
きっと現代の最終兵器並みだろう…。
よく耐えたサリエル。君は良くやった。
君の犠牲は無駄にしないと、そっと…ほくそ笑む。
私の代わりにありがとうサリエル。偉大だぞサリエル。来人を頼むぞサリエル。
来人の世話係に勝手に任命するっ!
「サリエルさん、来人の事済まんね?」
「い゛え゛ダイジョブでず…うっぷ…」
「来人君は、サリエルさんに、キチンと謝りましたか?」
「ご、ごごめ゛んな゛ざい゛っ!!」
ビックゥ!
と、擬音が聞こえてきそうな勢いで飛び上がる来人。
コレから楽しい、お仕置きタイムである。
「来人君、コレって良い子のする事だったかしら?良い子って、人に迷惑を掛ける暴走する子の事だったかな?」
「ち、ちがいまずっ!ごべんなざいっ!」
すでにブルブル震えて涙ぐむ来人にも、容赦はしない。
強い力を持ってしまったのなら、尚更使い方を学ぶべきである。
強い=賢くならねばならぬ、と私は思う。
学ばなくては、盗賊と同じになってしまう。
強い=暴君ではダメなのである。
来人がキチンとした人間になるために、私は鬼になれる!
それが母としての責務である。と、信じて居る。
『三つ子の魂百まで』と言われている。
コレも来人が、将来幸せになるため。
トコトン仕込む。
勇者とは、なんたるかを知れ。
憧れだけでは、腹が膨れ無いのだ。
「で、来人わかった??」
「はひっ!」
来人だけでなく、サリエルさんの顔も青い。はて?やり過ぎたろうか?
恵は知らない。
勇者の母である恵もまた、称号を持っている。
称号の力で
恵も、この世界では強くなっていた。
その怒りはオーラになって、周りを囲み、蜃気楼のごとく揺らめいている。
その恐さといったらモンスターの比では無い。
実際にドラゴンの前に立ち、防御無しで、ドラゴンブレスを その身に受けるようなものなのだ。
―恵はスキル《威圧》を習得した―
「あらら?何?どうしたの??―あーまあ、反省してるから今日はここまで―ギルド入ろうか?」
にっこり笑うと、2人は明らかに顔色が回復した。
頬が赤らんでいる。叱られて恥ずかしいのだろうか…?
ココにレイモンドが居たら、突っ込み処が満載で、それこそ身が持たないだろう…。
―笑う恵は女神のようだ―
などと…知らぬは本人ばかりなのである。




