おいでませ《金色の小鹿亭》へ
本日二話目投稿です。
3時の茶を飲んで、マッタリし終わった頃に、来客だという連絡が入った。急ぎロビーに向かう。ジジイは留守番である。
「サリエルお兄さんだ~っ!ママ~っ!早く早くっ!」
「ハイハイ…ライ君、元気だねぇ」
「ママ……??」
ライ君のデカイ声は、ロビーで待っていた、サリエルさんの耳にも入ったらしい。
「サリエルお兄さんっ!来てくれたんだっ!ありがとうっ!!」
疑問な顔で固まり、軽く腰を浮かせた状態のサリエルさんに、来人の飛び付き攻撃が炸裂した。
「ぐぼっ!!」
「来人っ!ダメよいきなり飛び付いちゃ!すいません、大丈夫ですかサリエルさん?」
「あ、サリエルお兄さんゴメンなさいっ!僕、つい嬉しくて…大丈夫?」
心配そうに、小首を傾げて覗き込む来人の顔
琥珀色の瞳が、キラッと瞬く
軽く開いた唇の濡れた色っぽさ…
『ズキューン』
である。かわいいっである!たまらんの!!である!心臓撃ち抜かれるからっ!もうっ!興奮しきりなのである!!!
「あっ…うっくうっ…はあ!」
サリエルさんは、コレを間近でやられたのだから、堪らない。私なら鼻血ものだ…。
なにやら、艶っぽい呻き声を出して、頬が少し紅い。何かと闘っているように、唇を噛みしめ、眉をしかめた。
あ~っ、その表情ちょっと色っぽい…。
母さんワタシ…腐女子になりそうです。ゴメンなさい。
「だ、大丈夫だ。
ちょっと驚いただけだよ」
心配そうにしている来人に、サリエルさんは言い繕う。
わかりますわかります。サリエルさんの気持ちは、痛い程わかります。
何せ、何時も間近に居る私が言うんだから、間違い無い。
サリエルさん…貴方が危ない世界に、足を踏み入れ無い事を祈る。
―南無―
「ところで、お嬢さん。まだお名前を伺っていなかったが…お聞しても良いか?」
「あっ!大変失礼致しましたっ!私、恵と申します。メグミ=アキツです。」
ライ君事件で、名乗るのすっかり忘れてたよ。失礼な事した。
「改めまして。私はサリエル=エノク=ストレイジ。アンノン王国 王軍近衛師団 第二班 団長をしております」
「え!?それって…かなり偉いお方じゃあ…?(うわぁまずいまずいまずい)」
「やっぱりサリエルお兄さんカッコイイねっ!王様守るヒーローだっ!!」
「来人っ!落ち着いてっ!」
ぴょんぴょん跳ねるライ君は、興奮して、歯止めの効かない状態に陥っている。
「来人、落ち着いて?まずはサリエルさんに、キチンとご挨拶しなさい」
ピシャリと頭をを叩いて、ちょっと叱る 。コレで落ち着くハズ。
何時もながら、手綱を取るのは大変だ…。中身2歳だもんね。
「はい…ママ。ゴメンなさい。秋津来人です。よろしくお願いします」
しゅんとした来人が、ペコリと頭を下げる。
その姿にニコッと笑い、頭を撫でてあげる。教育とは、難しいものである。
「ママ……??って、え?誰??」
顔中で疑問符を描くサリエルさんに、何て答えたものだろうか…?
正直に言うか?この人なら大丈夫だろうな~と、なんとなく思った。ええ、なんとなくです。直感です。
「私が来人の実母です」
「は???」
サリエルさんの顔は、一瞬で絶望の表情をして、青い顔から、白いのを越え、燃え尽きた灰のような色になっていた。
どうした?大丈夫?息をしてますか??心臓動いてますかー??
なかなか復帰しないサリエルさんに、近寄って、肩をトントンと叩く。
サラサラ崩れるんじゃなかろうか?
と思ったが、幸い大丈夫だったようだ。
「ママ~っ!サリエルお兄さんどうしたの?お顔の色が灰色だよ?」
「具合悪いみたいだから、お部屋に運んであげようか?来人、運んであげなさい」
「はいっ!」
ライ君、怒涛のごとく、あっという間にお姫様抱っこで、運んで行った。
「~っ!?」
サリエルさんは目を白黒させて、もがく事すら出来ないうちに、部屋の中に連れ去られた。
ある意味、誘拐に見えなくもない。
大丈夫誰も見てない。うふふ♪
空間の覇者で、誰も居ないのは確認済みだ…
くっくっくっまるで悪役みたいだねぇ。
ヒーロー飛び越して悪役か…?まあいいや、それも面白い。
私も、サリエルさんを連れ込んだ部屋に行く。
人聞き悪いけど、口封じ…じゃない、口止めしないとね~♪
『いきなりどうしたのじゃ!?コイツはさっきの男じゃろ?何があったんじゃ??』
「ライ君、まずはソファーに座らせてあげなさい?お姫様抱っこは、非常に魅力的なんだけどね~っ?」
―ジジイ。ライ君が、ママ~ママ~言うから、ばれた。話して、協力者になってもらおう―
『あい分かった』
「とりあえず、姿見せていいよジジイ」
『おうさ』
いきなり現れた白い物体に、目を見開き、無理矢理座らせたソファーから飛びすさり、反射で腰の剣に手をかけたサリエルさんを手で制す。
さすがに動きが良いね。
「まあまあまあ、大丈夫ですよ。サリエルさん。落ち着いてください。
まずは、コイツの紹介をしておきますね。名前は『レイモンド=カナタ』
私の高曽父にあたる方で、今はこのような姿形ですが、私達を守護して下さってます。そしてインベントリです。はい」
『コヤツ、理解出来るかのう?』
―ジジイ《以心伝心》って
私が~
―右手でジジイに触って、サリエルさんに左手で触ってっ―
~って感じで、仲良くお手々繋いで、接触で伝えられない?説明めんどくさい―
『この面倒臭がりが……出来るか、試してみれば良いじゃろ?』
「なるほど~っ!試してみれば良いよね?さっそくやってみようか!
―って事で、サリエルさんのお手を拝借♪」
「へ?」
問答無用で手を繋ぐ
「あっ!あのっ!」
顔を紅くするサリエルさん。いい年してウブかよ…?
―スキル発動《以心伝心》―
意識して使うのは初めてだが……スキル成功かな?
『ジジイ、お願いっ!』
『え~っゴホン!テステスっ!只今マイクのテスト中~っ!』
『ジジイ……もっとましな事言え』
「うえっ!?なんなんです??コレ?は?あれ?」
『成功じゃよーー!苦節120年っ!恵以外では、初めてワシの言葉が通じたんじゃよ!!』
『ジジイ、孤独過ぎて、涙でるな…』
サリエルさんの、狼狽えっぷりで良く判る。接触スキル実験成功だ!
『サリエルさんサリエルさん!
私のスキル《以心伝心》で、このジジイ……もとい、高曽父のレイモンド=カナタとお話しをして頂きます。ごゆっくりどうぞ♪』
「へ?あの?何コレ?状況が判らないんですが……へ?」
『まあまあ、若いの。ひとまず聞きなされ。
―昔、ワシはこの世界出身の勇者じゃった……
―と言うわけで、紆余曲折で、今に至るんじゃよ!』
『ジジイ……長すぎるんだよっ!スキル使いすぎで、頭ガンガンするわっ!』
『済まんかった…………嬉しくての』
サリエルさんを見ると、白目をむいてぷるぷるしていた。
あ~ホントに悪い事したな…ゴメンなさい。
んで今後、どうしたらいいのか?だが
ジジイ……とりあえず、サリエルさんの、頭のネジ切れそうたから、一旦終了ね。
『あいわかった』
「ジジイ日本の緑茶ちょうだい。喉渇いたからお茶飲みたい。お湯と茶器もね」
『ガッテン』
言うやいなや、手を離してトイレに駆け込む。
途中、話しを中断すると面倒臭いので、我慢してたのだ。
ふう。間に合った。
ちなみにライ君は、妖しい話しの最中、お昼寝タイムでした。
やっぱり、気にしないで眠ってしまうあたり、大人物のせいか自由人のせいか…?あるいは両方??
手を洗って
ふと気付く。
トイレ水洗だとーー!?
トイレまで、異世界っぽく無かったよ……くすん。
おにょれっ!転生者赦すまじっ!!
見つけたら成敗してくれるわっ!チクソーっ!
謂われない怨嗟に、転生者成敗のイビりメニューを、今後の楽しみに置いといて、茶器に茶葉入れて、適温の湯を入れて蒸らす。
日本茶は荒んだ心が、癒される。
日本に置いて来た、旦那を思い出す。
茶を入れるの上手くて、重宝したな、とか。
ガサツな私のフォロー色々してくれたな、とか。
面倒臭がりの私に代わって皿洗ってくれたな、とか?
わりと便利な男で、好きだった。
うん。自分で言うのも何だが……帰れたら大切にして、労ってやろう。
元気でやってんかな?
とか考えるうちに、茶葉が開いて、茶の良い香りが漂ってくる。
湯飲みに注いで、サリエルさんの前に置く。
「お疲れさまでした。お茶飲んでください。私の故郷のお茶です。少し渋みがありますが、口当たりがさっぱりしてて、ホッとする味ですよ」
「はひー、いたらきまひゅ…」
『はて?ワシの話し…そんなに過酷すぎたかの??』
うん。自覚無いって、恐いね。
とりあえず、私も茶をゆっくりと飲む。
「ふう~。五臓六腑に染み渡りますね~っ!生き返った気分ですよ」
「でしょ?」
「ジジイ。お茶菓子に、揚げ煎餅出して。あと、甘いアーモンドチョコね~っ!」
『お茶にアーモンドチョコって、合うのかのう…?』
「私が好きなんだよ。お茶飲みながら、口の中をコロコロって、溶かしながら転がすんだ。コーヒーだと尚旨いぞっ!」
『そんなもんかのう?』
「そんなもんだよ」
「えっ~と何て言ったら良いのか解らないけど…レイモンドさんと恵さん、仲良いんですね?」
「『えっ!ナイナイ!』」
『仲良くないのじゃよ!寧ろケンカふっかけられてるぶふっ!』
「ど突いたろかっ!」
『すでに、ど突き済みじゃよ?』
「それはそれは…ど疲れ様でした」
『ヒドイんじゃよ~っ!』
ジジイは姑息に、サリエルさんの後ろに隠れた。
「やはり、とても楽しい関係ですね?ハハハ!」
楽しそうに笑う、サリエルさんの顔を見て、もう復活しているな~しぶとい奴だ。とほくそ笑む。
コレなら、特殊なウチ等に、付いてこれるだろう。
「ああ、お茶の御代わりと、菓子をどうぞ」
「ありがとうございます。一時はどうなるかと思いましたが…、善い人達で安心しました。
ましてや異世界から来た、勇者様方御一行だったなんて…。想像を絶する体験もしましたし…。
一番驚いたのは、まさかまさか、来人君の母君が、貴女だったなんて…はあぁ。ああ、ショックがデカ過ぎで」
『ふむ、そうかそうか、それであんなに…。貴殿、かわいそうな奴じゃのう』
「はあ…??」
来人の母でショックって、何で?ワケわからん
『お主…、お主という女子は…。ワシ、涙がちょちょ切れるんじゃよ~っ!』
「はあ?」
「ん…ママおはよ。あっ!!みんなずるいっ!僕もお菓子食べるっ!」
「ライ君~っ!おはよう!よく寝てたねぇ!お菓子い~っぱいあるから、一緒に食べよ(はぁと)」
「うん!いただきます!」
「『はぁ~っ』」
サリエルとレイモンドは、親ばかぶりを発揮する恵と、涙ぐむ来人を見て、同時にため息を吐いた…。
ああ、泣く子と、親ばか(モンスターペアレント)には勝てないと、悟ったと言う。
のちほど、聞くところによると
コレから巻き起こされる、様々な事が容易に想像出来たと言う…
アキラメロ。天命だ、と。
天から聞こえて来た気がしたとか、しないとか…
真相は、神のみぞ知る
いつも読んでいただき、ありがとうございます