第5話 敗北
クラスタ将軍もまた腰にあった剣を引き抜く。白色のキレイな刃が街の炎に照らされ、オレンジ色に輝く。彼女の目はピューリタン将軍をしっかりと捉えていた。
「バカだな、ピューリタン将軍。お前がここに来たが為にみんな死ぬ事になる。お前を守ってくれた軍も仲間ともいえるトワイラル、ミュートも、な」
「なにを……! お前を、お前を捕えればファンタジアを取り戻せる! 連合軍も有能な将軍を失う! 私の、私の勝ちだ!」
それだけ言うと風の吹く中、ピューリタン将軍は両手で持った剣を振り上げ、クラスタ将軍に飛びかかるようにして向かった。彼女の短い水色の髪の毛が風になびく。
「ハァッ!」
振り上げた剣。それをクラスタ将軍目がけて振り下ろす。彼女はそれを同じ剣で、しかも片手で受け止める。金属特有の高い音が鳴り響き、火花が散る。
ピューリタン将軍は素早く後退し、もう一度剣を振り上げる。だが、その僅かな隙を突いてクラスタ将軍が接近する。ピューリタン将軍は慌てて剣で彼女の攻撃を防ぐ。
「クッ……!」
クラスタ将軍はそのまま押し切ろうとする。十字にクロスした剣同士が擦れ合うたびに小さく金属音を立てる。
しばらくそんな状態が続いたが、突然素早い動きでクラスタ将軍が後ろに引く。それを見たピューリタン将軍はさっきのクラスタ将軍と同じようにその隙を突いて攻撃しようと接近した。だが、その瞬間クラスタ将軍はニヤリと笑った。
「バカだな」
「…………!」
剣を振り上げ、斜めからクラスタ将軍を斬りつけようとしたピューリタン将軍。そんな彼女の腹部をクラスタ将軍は素早い動きで斬りつけたのだ。
「ガッハァッ……!」
「お前、剣で勝負する時いちいち振り上げるのがクセだろ?」
クラスタ将軍は二度の近距離戦で彼女に共通する事を見つけ出したのだ。二度の近距離戦で共通する事。それは攻撃の時、彼女が剣を振り上げる事だった。
「ぐッ……ぐッ!」
ピューリタン将軍はヨロヨロと後退するも剣を落とす。その腹部から血が緑色の戦車にポタポタと落ちる。彼女は腹部を抑えながらその場で膝を着き、左手で自分の体を支える。
そんな彼女の首に血の付いた剣が当てられる。紛れもなく自分の血だ。さっき斬られた時に付着した自身の血だった。
「遺言は?」
「グゥッ……!」
「ないか? ないのならこのまま……」
「ま、待ってッ、一言っ!」
ピューリタン将軍はクラスタ将軍を見上げながら言った。
「なんだ?」
「ハァッ、ぐッ…… ト、トワイラル! クラスタを捕まえた! この場は私がなんとか、…するから、お前はファンタジアシティ南部の軍を任せた!!」
ピューリタン将軍は大きな声で叫ぶようにして言った。それをクラスタ将軍は冷ややかな目で見ていた。
戦車の下でハンターC型と戦うトワイラルとミュートにもピューリタン将軍の声は聞こえていた。
「ピューリタン!?」
「遂にやったか! さすがだな!!」
トワイラルとミュートは彼女の言葉を信じ、思わず笑顔になる。それが実はウソであり、本当は逆だという事を2人は知らない。知る由もなかった。
「よし、後は俺に任せろ! お前はそこで休んでいろよな!!」
ハンターC型の繰り出す拳を避けながら、トワイラルはそう言った。その言葉に迷いも、疑いも何もなかった。大切な親友と言ってもよいピューリタン将軍の事を信じきっていた。だからこそ疑わなかったのだ。
トワイラルとミュートはハンターC型に背を向け、戦車から離れて行く。ピューリタン将軍の言葉を信じ、彼女から与えられた任務をこなす為に……
「……仲間を逃がす為のウソか」
「ハァハァ…… そうでも言わないと、アイツは私の為に、戦い続ける…… アイツを、ここまで連れて来たのは私だ」
ピューリタン将軍はクラスタ将軍を睨みつけながら言った。その目には悔しさで溢れていた。ファンタジアシティを失う事とクラスタ将軍に負けた事への悔しさが宿っていた。
クラスタ将軍はそんな彼女に近づくと血まみれになった腹部を強く蹴る。彼女の体が戦車の上で転がり、激痛が走る。
「ぐッあッ……!」
激痛で横になったまま傷口を守るように腕で抑えるピューリタン将軍。クラスタ将軍は下唇を噛み締めて悲鳴を上げたいのをガマンする彼女の近くにまで歩み寄る。
「仲間、か。自分達の仲間はしっかり守るんだな、ピューリタン」
彼女はピューリタン将軍の髪の毛を掴み、無理やり自分の方を向かせる。
「お前は自分の仲間だけしか考えていないんだろ? 自分の仲間が死ななければそれでいいんだろ? なぁ、オイ」
「ぐっ……?」
クラスタ将軍の声には、いや、そう言うその表情にも明らかな憎悪が含まれていた。どす黒い感情がヒタヒタと漏れ出ていた。
「ク、ラスタ……?」
「腐った政府軍はご自分の味方が死ぬのは避けたいらしいな。……市民は捨てても……」
そこまで言うとクラスタ将軍はピューリタン将軍の顔を平手打ちする。再びその場に倒された彼女。その顔を蹴るクラスタ将軍。それもかなり強い力で……
「くぁッ……!」
ピューリタン将軍は激痛に顔を歪める。右手で斬られた腹部を押さえ、左手で自分の顔を覆う。大量の生温かい液体が白い手袋をした手に付着する。彼女はそれを見る。大量の血だった。蹴られた時に出たものだろう。
「トワイラル、ミュートはどうしましょうか?」
「ほっとけ。どうせ、ザコ将校だ。ファンタジアシティとこの女を奪われたと知ればとっとと逃げるだろう」
「クッ……」
斬られたところと蹴られたところがズキズキと痛む。その痛みに必死で耐えるピューリタン将軍。そんな姿をチラリと見たクラスタ将軍は一言だけ言った。
「ざまぁ見ろ。国際政府」
どす黒い感情がこもった、重たいセリフだった――