第4話 ピューリタンの焦り
【ファンタジアシティ 南部】
ピューリタン将軍は後方のハンターA型大量投下に気付ない。後方に向かった3機の連合軍の飛空艇。それは気にならないワケでもないが、それよりも北部にいるクラスタ将軍を捕えればいいと思っているのだ。そうすれば連合軍は崩れると思っていたのだ。
「ピューリタン! 今すぐ戻るべきだよ!」
「クラスタ…… ヤツを捕まえれば侵攻してきた連合軍を降伏させれる……」
「クラスタは将軍だ! ヤツが出てきてる時点で全軍が投入されてると考えるべきだ! 全軍なら簡単には近づけないぞ!!」
「うるさい!」
意見するトワイラルを睨みつけながら怒鳴るピューリタン将軍。完全に冷静さを欠いていた。指揮官に最もあってはならない事だった。
この時、彼女の周りにはジェット機で飛んでいる兵士以外の兵士はほとんどいなかった。すでに彼女は少数部隊の状態だったのだ。
「…………! ピューリタン将軍、後ろから飛空艇が戻ってきます!!」
「な、なに!?」
ピューリタン将軍、トワイラル、ミュートは後ろを振り返る。ハンターA型を投入し終えた3機の大型飛空艇が戻ってくる。そのままそれらは通り過ぎるかのように思われた。だが、3機の飛空艇から何かが飛び降りる。何かを落として、大型飛空艇は飛び去って行った。
「せ、生物兵器ハンターA型です! それも3体!!」
「クッ……!」
ピューリタン将軍は棒状の装置、スタンロッドを取り出す。これはただのスタンロッドではない。“魔法発生装置”と呼ばれる特殊な装置だった。
「ピューリタン将軍、コイツらは我々にお任せを! お先に行き、クラスタを捕まえて下さい!」
「……わ、分かった!」
地面に着地するハンターA型。その巨体で水色の道路にヒビが入る。その前に立ちはだかる特殊軍兵士達。そんな彼らに背を向け、ファンタジアシティ北部を目指すのはピューリタン将軍と数人の部下だった。
「叩き潰せ!」
「ピューリタン将軍の下にたどり着かせるな!」
「かかれ!」
一斉に射撃する兵士。低く太い雄叫びを上げ、銃弾を全身に喰らいながらハンターA型3体は兵士達に向かって来た。彼らはそう簡単には倒れない生物兵器。決して不死身ではないが、強力な敵だった。
一方、ピューリタン将軍は速度を上げ、北部を目指していた。すでにこの時、付いて来ている部下は全員ジェット機を装着している部下だけだった。
クラスタ将軍を捕まえれば形成は逆転するだろう。しかし、それは無謀というものだった。なぜなら彼女は連合軍の軍勢に守られているハズなのだから……
【ファンタジアシティ 北部】
ピューリタン将軍の動きはクラスタの手の内だった。彼女が何をしようとしているのかも全て手の取るように予測出来ていた。
「フフフ、これであの女を守る兵士はいなくなったな。残りは30人ほどといったところか」
「では、いよいよ……」
「ヤツを捕まえるぞ。ハンターC型と我が隊をヤツらの進路方向に配置せよ!」
クラスタ将軍の命令と共にハンターC型を乗せたヘリが飛んでいく。また、彼女を乗せた戦車も動き出す。その戦車を護衛するバトル=アルファも同じだった。
水色の道路には死んだ政府軍の軍人とファンタジア市民。壊れたバトル=アルファやその他の軍用兵器。死んだハンターA型が大量にあった。
【ファンタジアシティ 中部】
まだ戦闘の続くファンタジアシティの中部。戦っているのはファンタジア防衛師団の兵士達だった。彼らは南部で特殊軍が壊滅状態にあるのを知らなかった。
「ぎゃぁッ!」
「ク、クソ! 怯むなぁッ!」
彼らは壊れた車や戦車の陰から必死に銃撃戦を繰り広げる。だが、数で圧倒的に負けていた。バトル=アルファは耐久性が無に等しいが、使う武器は一般の政府軍と同じアサルトライフル。攻撃においては政府軍とそんなに変わりないのだ。
「…………! オ、オイ、アレを!!」
「クラスタ!? 敵の指揮官が現れたぞ!」
バトル=アルファ達の後ろから現れたのは濃い緑色の大型戦車。その上で指揮をするのは紛れもなくクラスタ将軍だった。
その戦車の前には“バトル=ベータ”の部隊。4本の脚で移動し、両手がマシンガンとなっている軍用兵器だ。この軍用兵器はバトル=アルファよりも耐久性・攻撃性があった。
戦車の上空には1機のヘリが飛んでいた。このヘリにハンターC型が搭乗していた。それに誰も気づかない。当たり前といえば当たり前なのだが……
「撃て!」
「奴らを片付ければ敵の指揮官だぞ!」
「撃ちまくれ!」
ファンタジア防衛師団の兵士達は一斉に射撃を開始する。そんな時だった。上空からバトル=アルファの軍勢に射撃が行われたのは!
「……来たな、ピューリタン」
クラスタ将軍が空中を見てニヤリと笑う。彼女の言った通りだった。上空から射撃を行ったのはピューリタン将軍と30人ほどの部下だった。彼らは射撃しながらファンタジア防衛師団の兵士達の下に降り立つ。
「大丈夫か!」
「ピュ、ピューリタン将軍! クラスタを確認しました! あの戦車の上に……!」
「分かっている。アイツを捕まえたら連合軍を降伏させれる! お前たちは周囲のバトルドロイドを片付けてくれ」
「イエッサー!」
その兵士が車の陰からバトル=ベータの部隊に向けて射撃をしようと顔を出した瞬間、その頭に銃弾が直撃し、血を噴きながらその場にひっくり返る。その血はピューリタン将軍にもかかる。
「クッ……! アイツら……」
ピューリタン将軍は魔法発生装置で自分の体の周りにシールドを張ると、素早く飛び出した。向かってくるのはバトル=ベータの軍勢。彼女は魔法を次々と使い、軍勢を叩き潰していく。そんな彼女の頭上にヘリが進んでくる。
「…………!?」
ヘリから飛び降りるのは人型をした白色の大型の怪物。白銀の装甲服を装着したハンターC型だった!
「ハンターC型だと!?」
「グォォォッ!!」
雄叫びを上げるや否や素早い動きでピューリタン将軍に迫るハンターC型。手に何も持ってないところを見ると捕まえるつもりなのだろう。
「お前の相手をしているヒマは……!」
ピューリタン将軍が魔法発生装置で攻撃しようとした時、彼女の後ろから火炎弾が飛んでくる。それはハンターC型の顔面に直撃する。
「先に行け! こいつは俺がやる!!」
「私達に任せて、ピューリタンはあの人を捕まえて!」
「ミュート、トワイラル……!」
ピューリタン将軍は彼らを見て小さく頷く。魔法発生装置を片手に強く握るとすぐ近くまで来ていた大型戦車に向かい、ジェット機で飛んで、戦車の上にまで来た。
「チッ、予定外だな」
クラスタ将軍は軽く舌打ちする。だが、その顔に焦りはなかった。むしろ、まだ余裕そうな表情がそこにはあった。
「来いよ、ピューリタン! 私とお前で殺り合おうじゃないか!!」
「お前を捕まえれば、ファンタジアも仲間を助けられる! 私は、その為にここに来たんだ!!」
ピューリタン将軍は鞘から剣を勢いよく引き抜いた。赤い炎に照らされ、赤の光を反射する。
政府特殊軍の将軍ピューリタン。連合軍の将軍クラスタ。同じ女性指揮官でほぼ同じ年齢の彼女達。その2人がお互いに殺し合う。戦争で生まれた2人の殺し合い。もし、平和だったら2人が殺し合う事はなかったかも知れない……
「さぁ、来い」
「殺ってやる……! 私は必ず、勝つ……!!」
ピューリタンとクラスタの殺し合い。これも戦争の中で生まれた殺し合いの1つだった――……