第1話 勝利
僅かな隙が破滅を呼び寄せる。
勝利は隙を生む最大の原因なのかも知れない――
「来るぞ! 全兵かかれ!」
若い女性の大きな声と共に強化プラスチックの装甲服を来た兵士達が一斉に走り出す。その手にはアサルトライフル。そこから連続して銃弾が飛び、敵の軍団を破壊していく。
兵士達の装甲服が太陽の白い光に照らされ、眩しく反射する。土煙を上げ、彼らは思いっきり走り、怒号を上げながら敵の軍勢に向かって突っ込む。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
敵は機械の兵士。人間型の機械兵士を中心に4本脚の大型の機械までもある。人間型の機械兵士もアサルトライフルを手に向かってくる兵士を撃ちまくる。太鼓が連続して鳴り響いたような音が響き渡り、大地と空気は激しく震動する。
「ぐぁッ!」
「ぐぇぁッ!」
次々と倒れていく兵士達。銃弾を喰らった所から赤い血が噴き出し、大地にある草と土を赤く染めていく。その死体を大地に転がす。
「ピューリタン将軍! 敵の中に生物兵器を確認しました!!」
大型戦車。その上で人間兵の指揮を執る女性の側。そこにいた兵士が望遠鏡と思われる物体を手に叫ぶ。土煙の先、確かに3メートル近い人型の生物がいた。明らかに人間ではない。
「“ハンターC型”です! 装備武器にロケットランチャーを確認!!」
蒼い髪に緑色の瞳をした女性指揮官、ピューリタンは無線機を手に取る。そして、ハンターC型を見ながら命令を下した。
「G17号機、敵軍左翼にいる生物兵器ハンターC型を破壊するんだ」
[了解しました、ピューリタン将軍]
その応答と共に彼女の上空を1機の戦闘ヘリが飛んでいく。この戦闘ヘリの両サイドにはガトリングガンという連射可能な銃火器が装備されていた。
戦闘ヘリは兵士達の頭上を飛んでいく。兵士達の頭上から機械兵士の頭上を、そしてハンターC型を狙える位置まで飛ぶ。その姿はハンターC型の目を覆う黒い特殊レーダー装置にも映っていた。
――国際政府:戦闘ヘリ 確認
白銀の装甲服に覆われたハンターC型の体。強い風で灰色のマントがひるがえる。装甲服の背中部分には組織のカラーかつシンプルなマークがあった。
ハンターC型は銀色の長い金属製の筒、ロケットランチャーを持ち上げる。黒い銃口をヘリに向ける。そこから放たれるロケット弾。大きな弾がヘリを狙って飛ぶ。
戦闘ヘリは素早く避ける。ロケット弾は左側のガトリングガンに直撃しそうだったが、当たる事なく、大きな放物線を空中で描き、機械兵士が多くいる地点に着弾した。爆発と共に炎が上がり、その衝撃と爆風で機械兵士達が吹き飛ぶ。
「さぁて、次はこっちの番だ」
ヘリのパイロットがニヤリと笑ってボタンを押す。すると、左右のガトリングガンが回転し始め、勢いよく、眩しい黄色の光と共に銃弾が飛ぶ。それもおびただしい数の銃弾が!
火花をまき散らしながら一直線に飛ぶ銃弾。それらが地上に立ち、ヘリを見上げるハンターC型を襲う。鋼の装甲に当たると同時に大量の火花が舞う。
「グォォォ!」
腹に響くであろう低く、太い雄叫びを上げるハンターC型。彼はまたロケットランチャーの砲口をヘリに向ける。今度は距離がない。避ける間もなく確実に撃ち落されるであろう。
だが、若いパイロットは焦らなかった。標準を少し右にズラした。その狙った先はロケットランチャーの砲口だった。黒い砲口目がけて大量の銃弾が放たれる。
戦闘ヘリのガトリングガンから撃ち放たれた銃弾。その1つがロケットランチャーの砲口内に入る。次の瞬間、ロケットランチャー内部のロケット弾が爆発した!
「よし!」
凄まじい音、空気を切り裂いたかのような音、大地を砕いたかのような轟音が鳴り響き、爆炎が上がる。ロケットランチャーを持っていたハンターC型は爆発で吹き飛ばされる。その大きな体が大地に転げまわる。
「……任務完了だな」
その若いパイロットはほっと一息つく。チラリと側にあった装着式レーダーが目に入る。ハンターC型が装着していた物と同じタイプの装置だった。
「俺はこんなに頼んなくてもやってけるよ」
彼はこんな装置に頼る気はなかった。だから自分では持ってこない。だとしたらここにこの装置を置いたのは……
「トワイラル!」
「ん~? どうした、ミュート?」
トワイラルと呼ばれた若いパイロットの座る運転席。その後ろから上がった女の子の声。その声の主は彼の仲間であるミュートのもの。このレーダー装置を乗せたのも彼女だった。
「ハンターC型、まだ生きてるよ!」
「マジか!」
トワイラルは慌てて前方に目をやる。そこには爆炎の中、手を着きながらも立ち上がるハンターC型の姿があった。その体を覆っていた白銀の装甲はほとんどなくなり、黒に近い灰色の肌が露出していた。
立ち上ったハンターC型は近くで戦う機械兵士の頭を握り潰す。そして、持っていたアサルトライフルをもぎ取った!
「ぐ、ぐぉ……」
頭や胸、腹部から血を流しながらもアサルトライフルの銃口を戦闘ヘリに向けるハンターC型。だが、アサルトライフルではこの戦闘ヘリを壊す事は不可能だった。
アサルトライフルの弾が戦闘ヘリに向けて放たれる。それらは戦闘ヘリに当たると無機質な金属を響かせるだけであった。
「執念ってやつか? ハンターさんよ」
トワイラルは再びボタンを押す。ガトリングガンが再び回転し、おびただしい数の銃弾がハンターC型の体を貫く。すでに装甲もなく、ダメージの限界を超えていた彼は10秒も経たない内に膝を着き、その場に倒れ込んだ。その周りから赤い血が広がっていく。ハンターC型は完全に死んだ。
「今度こそ、任務完了っと」
ハンターC型が倒れた事を確認した彼はヘリを飛ばし、そこから戦場を見渡す。他の戦闘ヘリが飛び、空中から機械の兵士達を撃っていた。至る所から爆炎が上がる。誰かがミサイルか砲弾でも撃ち込んだのだろう。
「……終わりだね」
ミュートの呟きにトワイラルが無言で頷く。戦場を見渡せば、機械兵士の軍勢が一斉に撤退を開始していた。その後を追撃する自軍の兵士達、戦車や戦闘ヘリなどの軍用兵器。オレンジ色の光が戦場を照らし、大地が血と金属に覆われる頃、戦いは終わりを告げた――