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番外編『昔の勇者と幼馴染改め……』

今回も番外編です。シリアスです。コメディ要素はものすごく薄いです。

****** 昔の勇者視点 ********


「おお勇者よ! よくぞ魔王を打ち負かしこの世界に平和をもたらしてくれた!」


 うるせぇなこの糞ジジィ。


「ヘインダム王国国王としてそなたに謝辞を述べよう! よくやった! 褒めてつかわす!」


 うっぜぇー。マジうっぜぇー。まるで自分の家臣に対する態度だなおい。


「して、勇者よ! 世界に平和をもたらしたそなたに余から褒美を与えようと思う」


 褒美(笑)

褒美ときたよ。

やだねー、相手が自分に対して傅く事が当たり前だと思ってる人間ってぇのは。


「そなたには我が姫達いずれかの伴侶となる事を許そう!」


「アホか」


 おっと、つい本音がポロリと。

 だがこれは仕方ない。

 相手があまりにも馬鹿な発言をしてしまった事に俺は少なからずショックを受けてしまったんだ。


「ゆ……勇者様!?」


 王の周りに金魚の糞のように侍っている重臣共が顔色をなくして冷や汗をかいている。

 俺の態度がこの馬鹿の逆鱗に触れる事を予想してだろう。

 そしてその予想は、見事に的中した。


「首を刎ねよ!!」


 なんという暴君。


「お、お待ちください陛下! 相手は一応この世界の救世主です!」


 一応って何だよ一応って。まったく関係ない異世界を、この俺が救ってやったんだろうが。ほぼ無理矢理にだったが。


「はぁ……もうどうでもいいからさぁ……さっさと元の世界に帰してくれよ」


「お! お待ちください! 勇者様!」


 耳障りな金切り声に視線を向けると、ヒステリックぎみに叫ぶ王の娘が、俺を涙に濡れた瞳で見つめていた。


「元の世界にお戻りなさるのですか……?」


「うん。元々そういう話だったし」


「そ! そんな! お待ちください!」


 王女は俺に走り寄って来るとその勢いのまま俺の腕の中に飛び込んできた。

 一瞬避けてやろうかとも思ったが、一応相手は王女なのでとりあえず受け止めておいた。


「勇者様……元の世界に戻るなんて仰らないでください……私……私、勇者様の事お慕いしているのです……ッ!」


 腕の中から涙目で俺を見上げる王女は、ジッと俺を見つめながら体を甘えるようにすり寄せてくる。


「好きなのです……愛しているのです……だから勇者様、どうか……どうかこの世界に留まりくださいませ……」


 うるうると濡れていた瞳から、一滴の涙が伝い落ちた。その姿を見た周囲の観衆達は、その幻想的なまでの健気な姿に魅入られたような溜息をつく。

 だが俺には、それがただの茶番にしか見えなかった。


「俺が好き? 愛してる? だから結婚したい? 何? ふざけてんの?」


「ゆ……勇者様?」


「あんたらその好きな相手に何させたよ。命を危険にさらして世界救わせたんじゃねぇか。運命だーとか予言がーとか言ってよ。俺は嫌だと言った。だけどお前らは魔王を倒さない限り俺を元の世界に帰さないと言った。要は脅迫したんだよお前らは。お前ら曰く救世主様をな。そんでお前らの希望通り俺は魔王を倒した。世界を救った。今度はお前らが俺の希望を叶える番じゃないのか? それなのに何? 今度は結婚しろ? またお前らの都合に合わせないといけないの? 俺が? なんで? 俺はヤダよ。こればっかりは拒否するわ。なんで世界救って好きでもなんでもない女と結婚しないといけないんだよ」


 王女は愕然とした表情のまま数歩後ろによろめいた。何を言われたのかわからないと言う様に首を小さく振るその姿は、普通の男には守ってやりたくなるような儚さを感じただろう。

 だが俺は違う。コイツの腹の中が儚さとはかけ離れている事を知っている。自分の容姿の良さと地位の高さを十分に理解し、さらに演出する事を当然のようにする女だ。

 俺の事が好きなのは本当だろう。その好きには『勇者』という肩書きと『世界を救った』という功績が含まれているのは間違いないだろうが、俺の容姿を好いているであろう事は最初に対面した時の熱い視線から気づいていた。

 その後のあからさまなアプローチにも辟易したが、遂にはこんなくだらない手段までとるのかこの女は。

 俺の煮え切らない(元々興味がない)態度に業を煮やした王女は、わざわざ『世界を救った褒美』という名目を差し出し、「さぁ遠慮なく私に愛してると言いなさい」という顔で俺の言葉を待っていた。

 言っておくが、俺はこの王女に対して思わせぶりな態度を取った事は一度としてない。ベタベタとボディタッチしてくるのを華麗に避け、お茶に誘われてもそれらしい理由をつけては断り、色気たっぷりによこされる流し目には無視を決め込んだ。

 だがそれらを王女は「身分に差があるが故の恐縮した態度」に見えたようだ。

 高貴な身分であり、容姿にも恵まれ、また性格(外面)も良い自分に、勇者は内心メロメロなのだと信じて疑わなかったようだ。

 ハッキリ言おう。うざい。

 この上なくうざい。


「あんたには悪いけどさ、俺元の世界に将来を誓い合った相手がいるんだよね」


「え……?」


「そいつはあんたとは違ってマジで可愛くて純粋で可愛くて健気で可愛くてちょっと天然で可愛いんだよ」


 あいつの事を思い出すと今すぐにでも帰りたくなる。もう3ヶ月も会ってないせいでやばい。禁断症状が出そう。あいつの成分が足りない。


「な……な!?」


 あまりの激情に言葉もないのか、王女は口をパクパクと開閉するだけで何も言ってこない。傍目には哀れな女の姿に見え、同情を誘っただろうが、俺にとってはありがたいという思いしかなかった。

 これ以上、この女の甘えた媚びた声など聞きたくもない。


「さて国王様」


「な、なんだ……」


 国王は先ほどまでの憤怒はどこへやら、青ざめた表情で俺を凝視している。

 それに疑問を感じたが、冷静に今の自分を思い返して合点がいった。

 俺は今、魔王すら瞬殺する膨大な魔力を垂れ流しているのだ。

 やっと帰れると思っていたところに、王の吃驚発言と、さらには王女のこの期に及んでのしつこい求愛。

 さすがに俺の堪忍袋も緒が切れるというものだ。

 だが、丁度良い。

 普通に頼んでも帰してくれないのであれば、少々手荒な真似をしても許されるだろう。

 俺は、この世界で初めて心の底から笑顔を浮かべ、目の前の愚かな王へと歩み寄った。



****** 幼馴染視点 ********


 私の幼馴染の家は、よく神隠しにあいます。

 私の幼馴染も3ヶ月前に神隠しにあい、今も行方不明です。

 でも、心配なんてしていません。

 だって彼は、私に約束してくれたのです。


「いつか俺も神隠しにあうかもしれないけど、ちゃんと帰ってくる。だから結婚しような」


 私は、彼の言葉を信じます。

 神隠しにあった人の大半は帰ってこないらしいですけど、でも彼は帰ってきます。

 だって、彼は言ったんですから。


「たとえどんな事をしても――世界を滅ぼしたって俺はお前の元に帰ってくるからな」


 彼は有言実行の人です。

 だからきっと、世界を滅ぼしてでも帰ってきてくれます。

 世界がどうなろうと私は特に気にしません。

 彼が帰ってくれば万事オッケーなのです。

 ああ、早く帰ってこないかなぁ。


****** 時は流れて…… ********


「と、これが俺の神隠しの全貌だ!」


 木崎家の大黒柱はそう言うと、どうだと言わんばかりに胸をそらした。


「……へぇ~……」


 気のない返事をしたのは木崎家唯一の常識、光である。


「アホか! 何が『俺の神隠しを聞けえええぇぇぇぇ!!』だよ! 異世界に飛ばされる? 勇者になる? 魔王と戦う? さらには裏魔王なんてものが出てきて世界が宇宙レベルで危機に陥り勇者である父さんが空気のない宇宙空間で失われた古代超魔法を何故か発動させ世界を救うがそれは序章に過ぎなかったって!? もう一度言おう! アホか!!」


 長々とした台詞でツッコムのは木崎家で一番短期な長女刹である。


「zzzzzzzzzz……」


 白目を向いて寝入っている気持ち悪い生き物は木崎家で一番気弱な烈である。


「うふふふふ……お父さんのお話はいつも斬新で面白いわねぇ」


 周囲に花を咲かせながら笑うのは木崎家で一番意味のわからない生き物の母である。


「やっぱり母さんが一番俺を理解してくれるなぁ」


「ふふ、夫婦だもの」


 べたべたと見てるこっちが居たたまれなくなるほどの熱愛ぶりの木崎家両親は、今日も子供達の冷たい視線を受けながら幸せであった。


********* 神様視点 **********


 かつて一つの世界が滅んだ。

 魔王がいた世界だった。

 だが滅ぼしたのは勇者だった。

 世界を滅ぼそうとした魔王を倒した勇者だった。

 何故勇者は世界を滅ぼしたのか。

 それを我々神は知らない。

 だが、こういった事は別に珍しくない事を、我々神は知っている。

 世界を滅ぼす魔王。

 その魔王を滅ぼす勇者。

 単純に考えて、勇者にも世界を滅ぼす力があるのはわかりきっている事だ。

 だが人間は考えない。

 勇者が世界を滅ぼすかもしれないなど。

 愚かな人間は考えない。

 勇者が人間を憎む事もありえるのだと。

 人間は、愚かだから考えない。

 救ってくれるのだとしか、考えない。


【昔の勇者と幼馴染改め……木崎家の両親】完


木崎家のお父さんお母さんのお話でした。

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