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番外編『木崎家の常識改め……』

短編『変態ホイホイ』をタイトル変えただけの物です。変更点はございません。

 変態につかまりました。

 あ、間違えた。変態をつかまえました。

 え? お手柄? 表彰モノ? 一日署長? いえいえ違います。そういう意味の「つかまえた」じゃないんです。

 まずは自己紹介から始めましょう。

 私の名前は木崎光

きさきみつ

。家族構成は両親に双子の姉と兄。そして末っ子に私。花も恥らう16歳。

 大雑把が人型になったような両親と、男らしさを片割れから奪ったような姉と、男らしさを奪われ代わりにヘタレを手に入れた兄に囲まれ生活していました。

 その微妙に奪い奪われな関係の双子の姉と兄ですが、つい最近行方不明になりました。でも、両親はこれといって慌てません。木崎家ではよくある事です。

 木崎家は変人……まぁ、変わり者が多い事でご近所でも有名です。そして、神隠しにあいまくる家系としても有名です。

 これが都会だったりしたらかなりの大問題やら大事件やらになるんでしょうが、ド田舎ド辺境なこの土地では最早風物詩に近いものとして捉えられています。

 それってどうなんでしょうね……と疑問を感じずにはいられません。

 この間家族で散歩していて近所のおばあちゃんに道端で会った時なんて「もし光ちゃんが神隠しにあったら木崎家の血筋は途絶えちゃうねぇ」とノホホンとした口調で言われました。

 笑い事じゃないですよおばあちゃん。

 それに対して父が言った一言。


「一発頑張ってみるかぁ」


 何を頑張るって言うんですかお父さん。いや、言わなくていい言わなくていい。むしろ言うな。

 その言葉に対して母が言った一言。


「途絶えちゃうのは困るものねぇ」


 おい。おい、私が神隠しにあうの前提に話を進めるな。

 私は木崎家において唯一と言っていいほど普通で常識的だ。神隠しにあう人は往々にして変人……変わり者だから私は神隠しになど絶対にあわない!

 そんなふうに考えていた時期が、私にもありました……。

 木崎光16歳……固い決意虚しく……この度神隠しにあいました。


*********


 さて、私達が神隠しだとか、近代的に行方不明とか言っていたのはなんと、異世界トリップだったという事がこの度発覚いたしました。

 何故発覚したかと言うと……私自身がトリップしてしまったからですよチクショウ……。


「私は神だ」


 日差しが嫌になるほど降り注ぐ田舎道に、ソイツはイキナリ現れました。

 この糞暑い真夏の日差しの中、ソイツは厚手の袖の長い、ファンタジー的な服装をしていました。白を基調としたそれは、神官を思い起こさせました。ヒョロっとした弱そう……儚げな雰囲気がより一層その印象を深めます。そしてその見るからに不審者な存在は、私に対し開口一番先ほどの台詞を吐きやがったのです。

 私はその瞬間、頭の中で選択を迫られました。


1、今すぐ背中を向けて走って逃げる。


2、目を逸らさぬようにしながら徐々に後ろに下がり、十分に距離を稼いでから逃げる。


3、とりあえず話を聞き、穏便に別れを告げる。


4、今すぐ悲鳴をあげて助けを呼ぶ。


 まず4は却下。こんな田舎道、人なんていません。それが田舎と言う物です。

 次に2。熊などの猛獣に遭遇してしまった時の対処法に近いですが、目の前の存在を猛獣と同じ括りにしていいのか悩みます。なので却下。

 次に3。日本人的な平和的解決方法です。とても惹かれます。しかし、目の前にいるのはどこをどう見ても日本人じゃありません。と言うか、アジア人ですらありません。緑髪に黄色い瞳とかこの人どこの人よ。と言うわけで、日本人的解決策はあまり通用しようもないので却下します。

 と言うわけで……


「サヨナラ!!」


「待てこら」


 瞬時に回れ右をし、今までの人生の中で最も必死なスタートダッシュをしたと言うのに、ソイツはいとも簡単に私の腕を掴んで止めてしまいました。

 見かけヒョロっこいのに何この素早さ……。


「申し訳ありませんが私宗教にはあまり興味は……」


「宗教の勧誘ではない」


「……ドッキリ?」


「悪戯でもない」


「髪の毛? または紙……」


「言い間違えまた聞き間違えでもない」


「……つまり?」


「私は神だ」


 ……ああ……色々な意味で別次元な人か……


「おいなんだその残念なモノを見る目は」


「……なんでもないですよー……?」


 目が虚ろになってるかもしれないですが、そこはご容赦ください。色々と手一杯なのです。


「まぁいい。お前木崎家だな?」


「はぁまぁ木崎家ですが」


 本来であれば知らない人……それも自分を神様だとか言っちゃうような人に自分の名前を教えるのはご法度なんですが……まぁ犯罪なんてほとんどない良く言えばのどかな田舎村ではそんな防犯意識、毛ほども育ってないんですよね……


「うむ、やはりそうか。お前は木崎家にしてはあまり頭の中が空っぽではないようだが、木崎家特有のオーラだったからな」


 ……何か酷い侮辱を受けた気がする。ここは怒るべきところなんでしょうけど、悲しいかな。ご近所でも木崎家はお頭が足りない、だけどまぁ良い人だよねという風に捉えられてます……。


「本当はお前の兄と姉を連れて行こうと思ってたんだが先を越されたからなぁ。まぁどうせ暇つぶしだしお前でいいか」


 今色々と不穏な言葉を聞いた気がします。とりあえず言いたい事は……あの(・・)姉と兄の代わりってどういう意味だコラ。


「まぁとりあえずはちゃちゃっと連れて行っておくか。おいお前目をつぶっとけ。酔うぞ」


「は? 酔うぞって……?」


 次の瞬間、私は忠告通り目をつぶらなかった事を深く後悔しました。と言うか、忠告してから次の行動が早すぎるんだよ! 猶予を与えろよ!!


*********


 はい、と言うわけでやって来ました異世界です。

 異世界に到着した私がまずしたのは感動でも困惑でも呆然でもありません。嘔吐です。

 ぶちまけましたよ盛大に。

 だってありえないでしょう! まったく心の準備もなくジェットコースターの何倍もあるあの胃の中を滅茶苦茶にする違和感! 圧倒的違和感! しかもそれが一瞬だったから気絶できなかったって言うのがさらにタチが悪い!!

 とりあえず悪態の代わりにモザイクを入れなきゃいけない物を吐き出してから、私はしばらく草が生い茂る地面でダウンしてました。


「おい、まだ具合は良くならないのか?」


 こうなった元凶が何やら不遜な態度で言っています。勿論私はそれを無視します。


「正式な手順を踏まずに強引に召喚したからな……少し負荷がかかりすぎたか」


 ちゃんとした召喚方法があったようです。後でコイツに叩きつける罵倒がもう一つ追加されました。


「今のうちに能力付与でもしておくか」


 自称神様はそう言うと、寝転がって半眼でいる私に近づき、手を私の額にそえ何やら囁きました。

 すると、私の体が光に包まれ、何やら体の奥底に小さな炎が灯ったような気がしました。ふんわりとした光はとっても癒し効果がありそうに見えましたが、私の気分は一向に良くなりません。与える事よりこの気持ち悪さを取り除いて欲しいんですが。


「よし、こんなものだな」


 なにがこんなものなのでしょう。というか、そんな不思議怪奇能力をお持ちなら、私の具合をさっさと治してください。


「おい、今お前が話せるような状態じゃないのを見越して説明するぞ。私が今したのは能力付与……お前の世界の小説風に言うとトリップ特典か? まぁある能力を与えた。で、この能力なんだが……」


 男はそこでこらえきれないという様に「くっくっく」と意地悪く笑った。

 なんだか嫌な予感がします。自称神様発言をいただいた時の数倍嫌な予感がします。


「精神的に常人とは一線を画した人間……俗に言う変人やら変態やらに好かれる能力だ」


 …………

 …………………

 ………………………

 おいこらちょっと放課後体育館裏来いお前。

 ハッ! あまりの衝撃に一昔前の不良中学生みたいな台詞が出てしまいました。お恥ずかしい。

 えぇと、ちょっと整理しましょう。

 自称神様が

 私を異世界に連れてきて

 変態に好かれるスキルをくださった

 …………

 意味分からん。


「そ……それはどういった……理由で?」


 息も絶え絶えに吐き気を抑えつつ私は自称神様に聞きました。その姿はきっと他人には涙ぐましい姿に見えたでしょう。むしろ私が泣きたい。


「ん? ああ、暇だから」


「あぁ?」


 怒りに我を忘れてる。静めなきゃ。自分を。

 この人は今なんと仰いました? 暇だから? はいもう一度。


 ひ ま だ か ら 


 喧嘩売っとんのかコラ。買うぞ? 買っちゃうぞ? 一山100円だろうが一つ1万円だろうが関係なしで買っちゃいますよ?


「……暇だからって、どういう意味でしょうねぇ?」


 私の中にある日本人の精神、真髄である平和的解決策を願う心『とりあえず話を聞きましょう』を精一杯かき集めてきました。


「いやだから、最近あんまりにも暇だから、神仲間の中で流行ってる木崎家召喚をしてみようと思って。で、とりあえず呼んだら何かしら能力付与しないと異世界人って世界に定着しないで戻っていってしまうから、それなら見てて面白い能力がいいなぁって事で変態に好かれる能力をだな」


「とりあえず殴らせてくれ。話はそれからだ」


 とりあえず話を聞いたら、もっと平和から遠ざかりました。残念です。


*********


 どうやら私はこの自分から見て異世界である所の神様から、異世界特典と言う名のゴミを押し付けられてしまったようです。

 あの後神様は意地悪く笑いながらこの能力を【変態ホイホイ】と楽しそうに名づけてきやがりました。

 殴りました。

 怒られました。自分が悪いくせに……

 そして、私はその後どうなったかと言うと……


「ミツちゃああああああああんミツちゃんミツちゃんミツちゃああああああああああああああああああああああん」


 ド変態の腕の中で頬ずりされてます。もう鳥肌も立ちません。心にあるのは諦観のみです。

 このド変態、言動はすげて気持ち悪いくせに見掛けだけはいやにキラキラしてます。なんという残念なイケメン。


「私のかんわいぃぃぃぃぃミツから離れろ屑野朗!」


 目の前で美しい顔を憤怒に歪めているのは同じくらい気持ち悪い変態です。女性なのに何故私の足に頬ずりする。いや男性も駄目だけど。なんという残念な美人。


「お前らそろそろいい加減にしろよ。ミツが嫌がってるだろ。ほらミツこっち来いよ。今日は新しい縛り方を編み出してきたんだ」


「遠慮します」


 横で酒をラッパ飲みしている筋肉隆々で精悍な顔立ちのナイスミドルは、右手に酒を持ち、左手に使い込まれた縄と鞭を持っています。そのニヤニヤ顔すら野生的と言えるのだから恐ろしい。なんという残念なオッサン。

 今日も今日とて、神様から押し付けられたいらんトリップ特典のおかげで、私は元の世界を懐かしむ暇すらないほど色々忙しいです。

 神様がくださった変態に好かれる能力はそれはもう絶大な威力を発揮しました。しかもいらん所で高性能なのか、この能力、元は表面上変態ではなかった人間ですら、奥底にある変態性を呼び起こすという恐ろしい代物でした。

 これのおかげで、理想の王子様と名高いこの国の第一王子が、今や少女に頬ずりするのが生き甲斐のド変態と化し。

 社交界で高嶺の花と言われた高潔かつ麗しい大貴族のお姫様が、今や少女の太ももに涎を垂らさんばかりのド変態と化し。

 傭兵の世界だけに留まらず世界各国の上層部で知らぬ者はいないとまで言われた伝説の傭兵が、今や少女の体を美しくかつ淫靡に縛り上げる事に情熱を注ぐド変態と化すとは……

 どんだけ強力だっちゅうねん!!

 私の【変態ホイホイ】は【生命体Gホイホイ】よりずっと高性能です……だってもう3匹もつかまえました……私の意志とは関係なく。

 ああ、最初に出会った頃が懐かしい……あの頃はまだこの【変態ホイホイ】の毒牙にかかる前だった彼ら……あの頃は瞳に理性の火が灯り、いきなり現れた私を胡散臭い物を見る目で見ておりました。

 そう、あれこそが正しい姿だったのです。

 それなのに……

 それなのに……!!


「どうしてこうなった……」


 精神的に疲れつつ色々諦めていた私はこの時知りませんでした。私のこの能力により変態に目覚めた人達は多く、その中には私に危害を加えようとする輩もいて、だけどそんな輩は皆第一王子や大貴族のお姫様や伝説の傭兵やらに接触する前に叩き潰されてたとか。

 知らぬ内に私は有害な変態から守られていたとか。

 精神的にはあれだけど肉体的には彼らはまったく無害な変態であるとか。

 まったく、全然、欠片も思いもしませんでした。


【木崎家の常識改め……変態ホイホイ】完

今回は木崎家の唯一の常識人、光ちゃんのお話でした。

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