自分より弱い人しか
「自分より弱い人しか認められないの? 可哀想な人」
それは最も古い記憶だ。
私の心を完全に縛り付けたと言う意味で。
当時の私はそれなりに名を挙げていた冒険者であり、故郷ではそれこそ一流の扱いを、そして王都でさえ二流程度には尊敬の念を受けていた。
二流と言えばどうしても一流に劣るが、それでもギルドからの扱いは十分すぎるほどに高い。
いや、むしろ実力と実績故に傲慢ささえある一流共に比べれば、誠実かつ清廉でさらには十分な実力がある私は却って一流よりもずっと役に立つ。
――というのが私の自負だった。
「それが努力を辞めた理由?」
そんな自負を彼女はそう蔑んだ。
「私の知っているあなたは傲慢で。自分を選ばれた者と思っていて。どんな相手でさえ小馬鹿にする。救いがたい人間だったのだけれど」
彼女と言えば自他共に認められるまさにギルドの切り札で、当時の私は手合わせを挑んだものの傷一つつけることさえ出来ずに敗北をしてしまった。
「そんな人間がいつの間にか誠実で、清廉で、挙句の果てに後進の教育に熱心な冒険者の鏡だなんて」
あの日のことを私は今でも忘れない。
彼女は、私が自分の事さえも器用に騙していた嘘をあっさりと看過した。
「自分だけが選ばれた者ではないと知った。だから傲慢さを礼節で隠した。恥ずかしいだけだから」
やめてくれ。
「努力だけでは届かない壁があると知った。だから純粋な力ではなく、他者の信頼を一心に受けることで力に並んでいるつもりなった。そうすれば努力から逃げた自分を許せる気がしたから」
やめてくれと言っているだろう。
「そんな矮小な自分を受け入れているつもりになって。そんな姿を誰かに見せることで別の強さを小賢しく見せつけて、それだけでなく教育者になることで――あわよくば英雄の恩師になろうとしている」
やめろ!
殴りつける。
ヴェールで隠し続けていた本性を晒して。
傷一つ付いていなかった彼女の頬は私の拳で痣が浮かぶ。
その痣は。
……その傷は。
手合わせの際にあわよくば一撃を――などと思っていた自分の過去をありありと浮かばせた。
そして、それを読み解くようにして彼女は笑う。
「良かったじゃない。最強に一撃を入れられて」
精々。
それを誇りにして生きなさい。
そう言われているような気分になり――。
「失礼する」
私は癒しの魔法どころか謝罪一つ言うことさえ出来ずにその場を去った。
*
未だ。
あの言葉に縛られている。
どれだけのギルドからの依頼をこなしても。
どれだけの羨望の眼差しを受けようとも。
どれだけの後進を育てても。
『自分より弱い人しか認められない』
事実だ。
誤魔化しようがない真実だ。
――しかし、それを受け取り私はどう生きていけばいい?
どうすれば良かったのだ?
現実と真実の差なんて覆しようもないのに。
その答えは今日も出ない。




