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【第36話 天空のログハウス】

「レフト!頑張れ!」


「ピヨ!」


「ほら? レフト下を見て! 雲の上だよ! 雲の上を歩けそうだね!」


「ピヨヨ!」


「見て! レフト! てっぺん見えた!」


「ピヨピヨ!」


 雲よりも高いところに、世界樹のてっぺんがあった。


 ヘトヘトになりながらも辿り着いた二人を待っていたのは、小さなログハウスだった。


「レフト、あのお家でお水もらおうか。喉も乾いたしお腹も減ったよね」


「ピヨヨ! ピヨピヨ」


 ネーラはログハウスのドアをノックした。


 コンコン!


 中からエルフ耳をした老人が顔を出した。


「おや、フェアリーがこんなところまで来るとは珍しいのぉ。どうしたんじゃ? そっちの小鳥はフェアリーの友達かえ?」


「お爺さん、お水をくださいな」


「お水かえ? まあ、上がんなさい。すぐに用意してやろう」


 老人はネーラとレフトをログハウスへ招いてくれた。グラスに並々と水を注いで、二人が飲みやすいように差し出してくれる。


「ありがとう! お爺さん。お爺さんはこんな空の上で何してるの? もしかして、お爺さんはサンタさん? レフトをクリスマスにくれたサンタさんなの?」


「ピヨピヨピ!」


「残念ながらワシはサンタという名前ではないのぉ。ワシの名はサイモン。ただのハイエルフじゃ」


「ハイエルフ? 普通のエルフとは違うの?」


「違うと言えば違うかのぉ。エルフが二千年も生きると、誰でもハイエルフになるんじゃよ」


「へぇ〜。お爺さんはここで一人で住んでるの?」


「そうじゃ。お隣さんは二千年くらい前に引っ越してしもうてな」


「一人で暇にならないの?」


「そんなこともないぞ? ほら、この畑いじりが楽しくての」


 サイモンが窓の外の畑を指さした。


「あれは何を育ててるの?」


「野菜とかお茶じゃよ。最近は胡麻と綿花も作り始めたんじゃ」


 そう言ってサイモンが採れたての胡麻の実をネーラとレフトに数粒くれた。二人はさっそく食べてみた。


 その瞬間、ネーラのレベルが上がった。


「え? お爺さん! 胡麻を食べたらレベルが上がったよ! どうして?」


「良い子はレベルが上がる胡麻じゃからの。お嬢ちゃんがレベルが上がったのなら、お嬢ちゃんは良い子なんじゃろうなぁ」


「お爺さん! この胡麻を人間が食べても大丈夫?」


「その人が良い子なら大丈夫じゃ。レベルを上げたい人間でもおるのかえ?」


「うん! 来翔! 来翔はレベル1なんだよ。異世界人だからレベルが1のままなの」


「なんじゃと? 異世界人じゃと?」


「うん。奥尻島の鍋釣岩から来たんだよ」


「まさか、ゲートが開けられたのかい?」


「お爺さんはゲートのことを知ってるの?」


「もちろん知っておる。あれを作った奴も知っておるぞ?」


「そうなの? あのゲートからこちらの悪い人がワラワラ来ちゃって、あちらの日本って国がハチャメチャなんだよ」


「まあ、そうなるじゃろうなぁ。あのゲートを使った張本人も、あちらの世界をハチャメチャにするつもりで作ったからの」


「その人はゲートを作った人は、どうしたの?」


「さあ、わからんなぁ。二千年くらい前にあちらへ行ったっきり帰ってこなかったからの。たぶん、あちらの世界でも二千年前にハチャメチャになったんじゃないかのぉ」


「お爺さんはゲートの閉じ方を知ってる?」


「それは知らん。作った張本人しか知らん。ちなみに開け方も知らん」


「お爺さんって役に立たないね。さあ、レフト帰ろうか」


「初対面で酷い言われようじゃのぉ。せっかく来たんじゃ、もっとゆっくりして行けばいいじゃろ」


「嫌だよ。ここにはテレビもないし、私とレフトには退屈すぎるもん!」


「ピピピピ!」


「レベルの上がる胡麻はいらんのかえ? さっき話した人間にも食べさせるんじゃないのかえ?」


「え〜。どうしよう……。来翔はレベル1のままでも強いしなぁ」


「それならこれはどうじゃ。お茶は皆、喜ぶんじゃないかの。ワシが作るお茶は玉露じゃよ? 今、煎れてやるからちょっと待て」


 ネーラとレフトは根負けして、サイモンがお茶を煎れるのを待ってあげた。


 やがて湯のみに並々と注がれたお茶を、二人は一口飲んだ。


「あ、本当だ! 美味しい! おーいお茶よりずっと美味しい!」


「ピヨピヨ♪」


「ほら? 美味いじゃろ。今夜はウチに泊まって行かぬか?」


「もしかして、お爺さんって寂しいの?」


「ドキッ! そ、そ、そんなことないぞ……」


「そんなに寂しいなら、自分で下まで降りてくれば良いのに」


「それがそうもいかんのじゃよ。ワシももう三千歳で、身体がすっかりガタがきておっての。木登りできるような体力はもうないんじゃよ」


「お爺さんはもう下まで降りられないんだね! わかった! じゃあ、また明日もレフトと一緒に来るからね! エルフの里に滞在している間は毎日来るよ! 何か欲しいものある? 私がここまで持ってくる!」


「ほう! それは嬉しいのぉ。それではお言葉に甘えて、最新の新聞でも持ってきてくれんかの?」


「え〜! 新聞は大きすぎて難しいよ〜。あ、そうだ! 新聞紙を折り曲げても良い?」


「もちろんじゃ。折り曲げても読めれば良いぞ」


「わかった! 明日は朝刊を持ってくるね! さあ帰ろう、レフト!」


「ピヨピヨ♪」


 二人は世界樹のてっぺんから急降下して、エルフの里へ帰ってきた。



 ◆



 帰ってきたちょうどその頃、来翔が世界樹の杓文字を作り上げて、飯粒が一粒もくっつかないとリスタスが大騒ぎしている真っ最中だった。


 ネーラとレフトはくっつかない杓文字に夢中になりすぎて、空の上の老人のことを誰にも打ち明けないまま、その日は過ぎていった。



 ◆



 翌朝。


 ネーラは約束通り、来翔に屋台のお婆さんから朝刊を買ってもらった。


「来翔! この新聞紙で紙飛行機を作ってほしいの! 早く! 早く!」


「なんで!? 買ったばかりなのに紙飛行機にしたら読めないだろ?」


「良いの良いの! 紙飛行機にしたら一斉に空へ飛ばしてね!」


 朝刊は五枚綴りだった。来翔は言われるままに五個の紙飛行機を作り、一斉に空へ飛ばしてやった。


 するとネーラが飛行中の紙飛行機に並航スキルを付与して、そのまま世界樹のてっぺんを目指して飛んでいった。紙飛行機を追いかけるようにレフトもついていく。


「ネーラとレフトは何をしてるんだ……」


 来翔は空へ消えていく一人と一羽と五機の紙飛行機を眺めながら、ぽつりと呟いた。



 ◆



 昨日よりレベルが一つ上がったネーラとレフトは、昨日よりも早くてっぺんに着いた。並航スキルで引っ張ってきた紙飛行機も、ちゃんと五機揃ってサイモンのログハウスの前に降り立った。


「お爺さん! 来たよ! 新聞紙が紙飛行機だけど、こうしないと一緒に飛んでこれないの!」


「ピヨピヨピ!」


「おぉ! 凄いもんじゃ! お嬢ちゃんは凄いスキルを持っておるのぉ!」


「そうでしょ! 並航っていうスキルなの! これがあると私と同じ飛行をするんだよ! でも飛べるものしか並航できないから、お爺さんを下まで連れていくのは無理なんだ」


「よいよい、この新聞を持ってきてくれただけで十分じゃわい! 新聞のお礼にほれ、胡麻をまた食べてみ」


 サイモンがレベルアップの胡麻をネーラとレフトにくれた。二人はまたレベルが上がった。


「凄いよ! お爺さん! またレベルが上がった! 軽量化も八パーセントから十五パーセントになってる! レフトはどう?」


「ピヨピヨヨヨヨ?」


「本当に? それは凄いね! きっと来翔も褒めてくれるよ!」


 サイモンが紙飛行機を丁寧に広げて新聞紙の状態に戻すと、お茶を煎れてくれた。ネーラとレフトは美味しいお茶を飲みながら、まったりと過ごした。


 新聞を読み終えたサイモンがお礼にと、畑で採れたばかりのトウモロコシを茹でてくれた。ネーラとレフトは腹いっぱいになるまでトウモロコシを食べた。


 満腹になったところで翌朝の新聞の約束をして帰ろうとしたところを、サイモンが二人を引き止めた。


「待て待て、お嬢ちゃん。さすがにワシも大人として、お嬢ちゃんと小鳥に毎日奢ってもらうのは気が引けるんじゃよ。ほれ、金ならワシにもあるんじゃ。これを持っていくが良い。お釣りはいらんぞえ」


 紙幣は硬貨と違って重くない。そう思ったのかサイモンは紙幣を紙飛行機に折って空へ飛ばした。ネーラはその紙幣の飛行機に並航スキルを付与して、そのまま下界へと飛び立った。



 ◆



 エルフの里へ帰ってきたネーラが、紙飛行機になった紙幣を来翔に差し出した。


「来翔! このお金で明日の朝も新聞を買ってほしいの!」


 来翔が紙飛行機を広げてみると、通貨単位がQではなく【100,000P】と見たことのない表記だった。


「Qじゃなくて、P……? 何処の国の通貨だ? なあネーラ! このお金をどこから持ってきた?」


「拾ったんじゃないよ。お爺さんから新聞代だって預かってきたの。お釣りはいらないってさ。エルフの里に滞在している間はお爺さんに新聞を届ける約束をしたの!」


 来翔はますます混乱した。


(お爺さん? エルフの里には若い美男美女しかいないはずだけれど……)


 そう思いながら来翔が顔を上げると、ネーラとレフトはトウモロコシを食べすぎて満腹で苦しそうに寝転がっていた。


 二人の説明が得られる気配は全くなかった。


 来翔は混乱したまま、この日も工房で木工製品を満足いくまで作り続けた。



   (第37話へ続く)



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