【第28話 二日目】
翌朝、LEONの案内で城下町へ向かうことになった。
チルダが出がけに注意した。「城下町はもう帝国の支配下だから、フェアリーもカメレオン族も絶対に見つかるなよ。先日の帝国軍の消失事件で城下町はピリピリしてるからな」
ネーラは来翔の胸ポケットに潜り込み、LEONは保護色とステルスで姿を消した。チルダの自宅から徒歩二時間、城下町の外れに着くと、南区の中央の小高い丘に洋風の城がそびえているのが見えてきた。
「なんか、ようやくRPGの世界ですね」とワタルが言った。
「ファンタジーの世界観そのものです。街の衛兵も立派な騎士が立っていますよ。俺の魔法剣が霞みそうだな」
街の至るところに西洋鎧の衛兵が立番していた。整然として、無駄のない配置だった。
◆
来翔とワタルは異世界モノの定番である酒場に入ってみた。LEONから財布を預かり、カウンターで適当な酒を頼んだ。すぐにビールのような飲み物が二つ並んだ。来翔が香りを嗅いだ。
「たぶん、ビールです。地球のものに近い」
「でも飲んだらダメですよ、来翔さん」
「ええ、わかってます」
二人はカウンターにいたマスターに話しかけた。
「マスター、商売は長いんですか」
「旧コナ国から数えると四十年になるな。トカゲ王国が占領してた頃も休まず営業してたよ。まあ、トカゲ人類は酒を飲んでも酔わないからな。あまり儲からなかったけど」
「今は帝国に支配されて、商売はどうです?」
「うーん……。正直に言うと、ゾーン団が仕切ってた頃の方が繁盛してたな。帝国軍人は真面目すぎてつまらん」
「確かに、外の騎士は皆ビシッとしてましたね」
「そうだろ。ゾーン団の頃は酒と女とギャンブルの街だったんだぜ。帝国が来てから売春も奴隷も禁止されちまった。本当につまらん街になったよ」
マスターは少し寂しそうに拭きかけのグラスを持ったまま語り続けた。
「昔はここに闘技場があってな。拳闘が盛んだった。今はもう監獄になっちまったけどな。無法者が多かったこの街が、一転して法と秩序の街になっちまった。そういう連中はみんな出ていったよ」
「闘技場が監獄に……見てみますよ」
◆
元闘技場の建物は、外観だけ見れば地球のコロッセオとよく似ていた。
「LEONさん、ここが監獄なんだね」
「そうだ、主。私が捕まえた賞金首も何人かここに収容されている」
「LEONさんに仲間はいないのか」
「仲間はいない。同業者はいる。トカゲ人類では帝国のような人間社会には入れない。そんな時は人間の同業者へ賞金首を売る。この街の同業者に会ってみるか」
LEONに連れられて着いたのは、かなり大きな洋館だった。
「ここで待っていろ」
保護色のまま中へ入ったLEONが五分ほどで戻ると、メイド服姿の女性が来翔とワタルを中へ案内した。
応接室には、LONと一緒に四十代くらいの太った中年男性が座っていた。豪快な顔立ちで、とても賞金稼ぎには見えない。
LEONが紹介した。
「フェアリーを従えている方が来翔、剣士がワタル。フェアリーはネーラ、鳥はレフトだ」
「LEONが言うんなら本当なんだろうけど、こいつらがあの悪名高い異世界人かよ。また厄介な奴らを連れてきやがったなぁ!ガハハ!」
男が豪快に笑った。
「俺様はビリー。この世界の賞金稼ぎのまとめ役みたいなことをしてる。LEONに勝ったってのはどっちだ?」
「フェアリーを従えている方、来翔だ」とLEONが答えた。
「来翔か。レベルはいくつだ?LEONに勝てるくらいだから、少なくとも五十以上ってところか」
来翔とワタルが困惑していると、LEONが代わりに答えた。
「ビリー、異世界にはレベルアップという概念がない。だから彼らも自分のレベルを知らない。私が見た感じでは来翔のレベルは五十を超えている。ワタルのレベルは知らないが、異世界ではワタルの方が強いとされている」
ワタルが「来翔さんがレベル五十として、LEONさんのレベルはいくつなんですか」と聞いた。
LEONが少し恥ずかしそうに言った。「私はまだレベル十だ。賞金稼ぎは基本的に生け捕りが多い。生け捕りでは経験値が入らないから、レベルも上がらない」
「LEONの強みは隠密行動だからな」とビリーが補足した。「直接戦闘より騙し討ちで捕らえる仕事だ。それでも人族がトカゲ人類に勝てる道理はないから、来翔は凄えってことさ。少し前なら闘技場でガッポリ稼げてたぞ。ところでLEON、今日は俺様に何か用があったんじゃねえのか?」
「異世界人が帝国の進軍について調べている。先日のゲートへの進軍について何か知らないか」
ビリーが声を潜めた。
「そうか……。異世界側の連中は何も知らないということか。教えねぇ訳にもいかねぇな。実は先日の進軍で、帝国の総督閣下の息子が行方不明になった。ゲートから軍隊が次々と爆発していく様子を見ていた奴らが、息子が死ぬところをバッチリ目撃している。国では行方不明と発表しているが、間違いなく戦死しているはずだ。そうなんだろ、異世界人よ」
来翔とワタルは顔を見合わせた。あの日の生き残りは一人もいない。それは自分たちがよく知っている。来翔が重い口を開いた。
「はい……あの日の進軍で生き残った人はいません。全滅です」
「そうか。やはりそれほどの戦力差があったわけだ。総督閣下は息子の死をきっかけに、ゲートの使用を凍結してしまった。帝国は満を持しての進軍だったのに、数分で全滅だ。こちらの世界でも、こんな大魔法は滅多に見られない」
「そうですか……ということは、我々が異世界人だとバレるとまずいですね。ビリーさんにも迷惑がかかります。我々は早々に立ち去ります」
ビリーがガハハと笑った。
「そんな事は気にすんな。俺様はLEONよりも遥かに強い賞金稼ぎだぜ。いざとなれば帝国なんて何時でも潰せる。そうと決まれば今夜はウチに泊まっていけよ。LEONに美味いウサギを採ってこさせよう」
来翔とワタルは丁重に断った。クロガネ幕僚長から異世界での滞在は二日と決められていた。そろそろ帰らないと時間が切れる。
玄関でビリーが見送ってくれた。
「また何時でも来いよ。今度来る時はウチでゆっくり異世界の話を聞かせてくれ」
「ありがとうございます。必ずまた伺います」
「LEONの事をよろしく頼むぜ。あいつはこの先、良い賞金稼ぎになる男だ」
来翔はLEONを見た。「いいえ、世話になってるのは僕の方なんですよ」
LEONが照れて保護色になり消えた。ビリーがそれを見てガハハと笑った。
◆
欲しい情報は手に入った。
来翔とワタルはゲートへ向けて急いだ。草原を歩いていると、心地よい風が身体を通り抜けた。草原の向こうに鍋釣岩が見えてきた。リングの中に奥尻島が映っている。
ネーラとレフトが先にゲートへ向かって飛んでいった。LEONも保護色とステルスを使いながら先にゲートをくぐった。来翔とワタルが迎撃システムに狙われないよう、LEONが先に詰所へ入って帰還を知らせる手はずだ。
詰所の中でLEONが自衛隊員に帰還の合図を出した。速やかに迎撃システムがOFFになり、鍋釣岩に向けてサーチライトが点滅した。ゲート通過良しの合図だ。
来翔とワタルがゲートへ踏み出そうとした——その瞬間。
上空から影が降りてきた。
「そこの二人!ゲートの使用は凍結されている!動くな!」
帝国の憲兵たちが、音もなく空から来翔とワタルを取り囲んでいた。
鍋釣岩の詰所では、LEONの肩にネーラとレフトが乗って、来翔の帰還をワクワクしながら待ち続けていた。




