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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
1章

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7/30

1章7節

毎日17:30投稿

ダンジョンで入手できる武器や防具には、

その性能と希少性に応じた、明確なレア度の区分が存在する。


大きく分けて、四段階だ。


最も下位に位置するのが、コモン装備。

僕がこれまで「使い捨てる盾」に食わせ続けてきたのも、すべてこの種別だった。


冒険者になりたての初心者や、

まだ浅層しか潜れない初級者が、

とりあえず装備しておくための武器。


“無いよりはマシ”

それ以上でも、それ以下でもない。


安価で、数も多く、

消耗品として扱われることが前提の、最弱の装備群だ。


次に位置するのが、レア装備。


中級冒険者の主力装備であり、

中層以降を安定して攻略する者たちの、事実上の標準装備でもある。


体感としては、

コモン装備を十個見つけて、ようやく一つ出るかどうか。


出現率は決して低くないが、

性能差は明確で、

これを装備しているかどうかで生存率が大きく変わる。


中層攻略組であれば、

全身をレア装備で固めているのが普通だ。


そのさらに上に位置するのが、エピック装備。


すべての冒険者が、

一度は夢見る領域。


一つ装備しているだけで、

周囲からは一段上の冒険者として見られる。


戦闘力はもちろん、

パーティへの発言力や待遇すら変わるほどの影響力を持つ。


もし市場に流せば、

その後の生活に困らない――

そう言われるのも、決して大げさではない。


そして、最後。


レジェンダリー装備。


現時点で、

その存在が確認されているのは、わずか三つだけだ。


一つ目は、

沖縄に駐留する米軍人、ジップ・ブリ―ジャーが所持する

《暴風のセスタス》。


素手に近い形状でありながら、

嵐のような連撃を可能にする、近接武器の到達点とも言われている。


二つ目は、

日本政府の管理下で運用されている《微睡の弓》。


近接戦闘が支配的なダンジョン内において、

唯一、安定した遠距離攻撃を可能とする武器であり、

現在も研究対象として厳重に管理されている。


そして三つ目が、

行方不明となっている《魅了する刺剣》。


あまりにも性能が突出していたため、

かつて所有者同士の争奪戦が発生し、

その混乱の中で所在不明となった。


誰が持っているのか。

そもそも、今も存在しているのか。


それすら、わかっていない。


レジェンダリーとは、

強さの象徴であると同時に、

災厄の種でもある。


そして――


僕の手元にある、この盾は、

どの区分にも、当てはまらなかった。

だから僕は、会社を辞めて次のステージへと歩みだす決心をした。



退職届は、驚くほど簡単に用意できた。


社内ポータルからダウンロードできる、

定型フォーマットの一枚紙。

名前と社員番号、提出日と理由を書く欄があるだけだ。


理由の欄には、少しだけ迷ってから、

ヤヒロは「一身上の都合」と打ち込んだ。


それで十分だ。

どうせ、誰も深くは読まない。


始業前。

まだローテが始まる前の時間帯。


ヤヒロは、いつものように装備チェックを終え、

すぐさま事務フロアへ向かった。


ダンジョン班が事務フロアにいる。

それだけですでに場違いな思いがした。


「……何か用か?」


声をかけてきたのは、直属の上司だった。

ダンジョンの外から、インカムで指示を飛ばすだけの男。

名前よりも声色の方が印象に残っている。


ヤヒロは、無言で紙を差し出す。


上司は一瞬だけ眉をひそめ、

受け取って目を通した。


「退職?」


驚きはない。

困惑もない。


ただ、

工程表に空きが出たことを確認するような視線だった。


「理由は?」


「一身上の都合です」


テンプレート通りの返答。

それ以上、言うことはない。


上司は小さく鼻を鳴らし、

端末を操作する。


「……再来月末付けだな」


「はい」


「引き継ぎは?」


「俺の役割は、前に出ることだけですから」


一瞬、沈黙が落ちた。


だが、それもすぐに終わる。


「まあ、そうだな」


あっさりと、肯定された。


四年分の死に戻り。

数え切れない消耗。

壊れた先輩たち。


それらは、

この一言で片付く程度の価値しかなかった。


「前線の代わりは?」


事務フロアの奥から声が返ってくる。


「来週、新人が入ります」


当然のように言われる。


ヤヒロは、何も言わなかった。


言ったところで、意味はない。


「装備は返却しろ。購買所のツケは精算してから出ていけ」


「わかりました」


それで、話は終わりだった。


引き留めもない。

説得もない。

惜しまれることすらない。


――消耗品が、期限前に廃棄されるだけ。


それだけの出来事だ。


事務フロアを出るとき、

背中に視線を感じた気がしたが、

振り返らなかった。


「……あと3か月で、自由だ」


誰にも聞かれないように呟く。


自由になるのか、

ただ、別の地獄に向かうだけなのか。


それは、まだわからない。


だが、一つだけ確かなことがある。


辞めてしまえばもう、

誰かのローテ表のために、

前に立つ必要はない。


ヤヒロは今日のローテに向かう前に一度、

転移門のある区画を見上げた。


3か月後にダンジョンへ潜るときは――


会社員ではない。

使い捨てでもない。


ただの、

ソロ冒険者としてだ。


2026/1/19

 ジップ・ブリ―ジャーの所属を明らかにするよう修正しました。

 3章への伏線としての修正ですが、読み直しの必要はありません。

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