2章23節
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上層の火山地帯は、
相変わらず、息が詰まるほどに熱かった。
灰が舞い、
足場は不安定。
赤黒い溶岩が、
脈打つように流れている。
――また、来たか。
ヤヒロは、
地面の震えで察した。
溶岩が、盛り上がる。
巨体が、ゆっくりと形を成す。
溶岩ゴーレム。
以前、撤退を選んだ相手。
「……同じのだな」
ツダが、低く言う。
ユイは、
弓を構えたまま、何も言わない。
ヤヒロは、盾を前に出す。
以前とは、違う。
胸の奥に、焦りはない。
あるのは、役割の輪郭だった。
ゴーレムが、一歩踏み出す。
重い。
その一歩だけで、地面が沈む。
腕が、振り上げられる。
溶岩を纏った拳。
直撃すれば、骨ごと持っていかれる。
――受けるな。
ヤヒロは、真正面に立たない。
半歩、斜めに踏み出す。
盾を、わずかに傾ける。
衝突。
衝撃は、確かに重い。
だが――
流れた。
拳は、盾の縁を滑り、地面を抉る。
火花と溶岩が、飛び散る。
「……いなした?」
ツダが、目を細める。
ヤヒロは、答えない。
次が来る。
ゴーレムは、止まらない。
両腕を、振り回す。
圧倒的な質量。
だが、ヤヒロは下がらない。
一撃ごとに、立ち位置をずらす。
真正面ではなく、斜線で受ける。
衝撃を、地面へ、横へ、逃がす。
盾が、軋む。
熱は通らない。
――熱耐性。
冒険者狩りで手に入れた特性。
じわじわと、皮膚を焼くはずの熱が、抑え込まれている。
「ユイ」
短く、ヤヒロが言う。
ユイは、すでに動いている。
外殻の、隙間。
冷えた部分。
そこへ、矢が吸い込まれる。
すぐには、効かない。
だが、確実に、動きを鈍らせる。
ゴーレムが、苛立ったように、向きを変える。
――ツダ。
槌を構える、中衛。
狙われている。
「……ッ」
ツダが、一瞬踏み遅れる。
溶岩の腕が、振り下ろされる。
――間に合わない。
その瞬間。
「――こっちだ!」
ヤヒロが、声を張り上げた。
盾が、鈍く光る。
挑発。
意志を、叩きつけるような、スキル。
ゴーレムの視線が、強制的に引き戻される。
拳の軌道が、変わる。
ヤヒロへ。
真正面。
だが、ヤヒロは、踏み込んだ。
盾を、突き出すのではない。
押し当てる。
衝撃を、受け止めながら、横へ流す。
巨体が、よろめく。
「助かった」
ツダが、短く言う。
「役目だ」
ヤヒロは、それだけ返す。
時間は、かかった。
一撃で倒す力はない。
だが、崩れない。削られない。
前線が、安定している。
ユイの矢が、蓄積を生む。
ツダの槌が、確実に、割れ目を広げる。
そして――
ゴーレムが、膝をつく。
溶岩が、冷え、砕ける。
最後は、派手ではなかった。
ただ、倒れた。
被害はゼロ。
息を整えながら、ツダが笑う。
「時間は食ったけど」
「完勝だな」
ユイは、矢を下ろす。
「……安定してた」
ヤヒロは、盾を見る。
焦げ跡。傷。
だが、割れていない。
守れた。
それだけで、十分だった。
防御特化。
逃げではない。
これは、戦い方だ。
ヤヒロは、
初めて、自分の役割で勝ったのだ。




