2章22節
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ヤチヨが去った後も、
火山灰は降り続いていた。
灰は、音を立てずに積もる。
まるで、何もなかったかのように。
ヤヒロは、
その場に座り込んだまま、
盾を膝に置いていた。
――壊れかけ。
何度も、その言葉が頭の中で反響する。
無双していたはずだ。
恐怖も、迷いも、
押し殺して前に進んでいた。
それなのに。
一太刀で、終わった。
「……悪かった」
沈黙を破ったのは、
ツダだった。
いつもの軽い口調ではない。
「成田のこと」
「お前が、あの会社にいたってのも」
「……先輩だったってのも」
ヤヒロは、顔を上げなかった。
「知ってた」
ツダは、はっきり言った。
「でも、言わなかった」
拳を、軽く握る。
「言えば」
「お前が、変に引きずると思った」
「……結果的に」
小さく、息を吐く。
「俺の判断ミスだ」
ヤヒロは、しばらく黙っていた。
怒りは、湧かなかった。
ただ、空虚だった。
「……謝らなくていい」
ようやく、声を出す。
「俺が、弱かっただけだ」
「違う」
短く、ユイが言った。
いつも通り、抑揚のない声。
だが、はっきりしている。
ユイは、ヤヒロの盾を見る。
「……私は」
「……ヤヒロが、前にいる」
「……だから、弓を引けてる」
その言葉に、
ヤヒロは、僅かに目を見開いた。
「……敵の視線」
「……足音」
「……殺意」
「……全部」
「……盾に、集まってる」
ユイは、
淡々と続ける。
「……私は」
「……狙うことに、集中できる」
「っ、それは……!」
ヤヒロは販路運しようとするが、ユイに視線で制される。
一拍、置く。
「……攻撃してない、わけじゃない」
ヤヒロの、喉が鳴る。
「でも俺は、」
「前に出て、」
「倒せなかった」
悔しさが、滲む。
ユイは、
首を横に振った。
「……違う」
「……倒せなかった、違う」
「……倒さなかった」
静かに。
「……専守防衛」
「……チーム全体の、利益」
ツダが、頷いた。
「実際な。お前が崩れなかったから」
「何度、立て直せたか」
ヤヒロは、盾を見る。
傷だらけの、表面。
吸収した、特性。
衝撃を、受け止めるための、装備。
不意に、腑に落ちた。
「俺は」
呟く。
「倒す役じゃ、ない?」
胸の奥で何かが、
静かに形を変える。
「守ることで」
「皆が、攻められる」
ユイは、小さく頷いた。
「……それでいい」
ツダが、笑った。
「やっと、自覚したか」
ヤヒロは、
深く息を吸い――
吐く。
焦りは、消えない。
恐怖も、残っている。
それでも。
「……俺は」
「守ることに、重きを置く」
「それで」
「強くなる」
言い切った。
盾を、握る。
その感触は、確かだった。
壊れかけ。
――だからこそ。
今度は、壊れない選択をする。
火山灰の中で、三人は再び歩き出した。
今度は、役割を理解した足取りで。




