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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
2章:富士山ダンジョン編

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2章21節

毎日17:30投稿

火山灰の向こうに、人影があった。


単独。


装備は重い。

歩き方は、迷いがない。


「……一人?」


ユイが、低く言う。


「珍しいな」


ツダは、そう返しながらも、

視線を細めていた。


――妙だ。


この上層で、単独行動。


しかも、周囲を警戒する様子が、薄い。


「行くか」


ヤヒロが言った。


即断だった。


最近の、いつもの調子。


ツダが、何か言おうとして、

遅れた。


ヤヒロは、すでに踏み込んでいる。


盾を前に、音もなく距離を詰める。


火山灰を、蹴散らして。


「待て!」


ツダが、声を張った。


「ヤヒロ、そいつは……!」


その瞬間。


人影が、振り向いた。


そして。


踏み込んだ。


速い。


理解する前に、空気が、割れた。


――ドンッ。


衝撃。


ヤヒロの盾が、正面から弾かれる。


反転が、発動しない。

いや、させてもらえなかった。


重い斬撃が、盾の縁を叩き、力を逃がさず、

そのままヤヒロの身体が、吹き飛んだ。


「……っ!」


背中から、岩壁に叩きつけられる。


息が、一瞬で抜けた。


視界が、白く染まる。


「……は?」


何が、起きた。


起き上がろうとして――

できない。


足が、震える。


「ヤヒロ!」


ユイの声。


ツダが、前に出ようとして、

止まった。


「……やっぱり」


人影。

女が、小さく笑った。


長い刃を、肩に担ぐ。


大曲剣。


異様なほど、存在感のある剣。


「止めるの、遅いよ。ツダ」


その声。


聞いたことが、ある。


ヤヒロの、心臓が、跳ねた。


「……え?」


女が、こちらを見る。


その目が、まっすぐ、ヤヒロを捉えた。


「久しぶり」


淡々と。


「曳舟八紘」


名前を、呼ばれた。


呼ばれるはずの、ない声で。


「……っ」


頭の奥が、ぐらりと揺れる。


死んだ。


自殺した。


会社で。


唯一、話を聞いてくれた。


「成田、先輩……?」


声が、震えた。


成田八千代は、

鼻で笑った。


「先輩、ね」


「まあ、間違ってないか」


ツダが、頭を掻きながら、歩み出る。


「だから言っただろ」


「そいつは、襲う相手じゃない」


「……ツダ」


ヤチヨが、ちらりと見る。


「随分、面倒なの抱えてるね」


そして、再び、ヤヒロを見る。


その視線が深い。


装備を見る。


盾を見る。


立ち方を見る。


呼吸を見る。


そして。


「……壊れかけ」


一言。


ヤヒロの、胸がぎゅっと締まる。


「な……」


「目が」


ヤチヨは、あっさり言う。


「獲物を見る目だ」


「でも」


一歩、近づく。


「覚悟が、追いついてない」


ヤヒロは、反射的に叫んだ。


「生き残るためだ!」


「俺は……!」


「うん」


遮る。


「知ってる」


即答。


「だから厄介なんだ」


ヤチヨの口調が、

少しだけ、変わった。


剣を、地面に突き立てる。

そしてヤヒロの目をのぞき込む。


「ヤヒロね」


「壊れないように、壊れてる」


その言葉が、突き刺さる。


「このまま行くと」


「次に壊れるのは、判断だ」


ユイが、息を呑む。


ツダは、黙っている。


ヤヒロは、唇を噛んだ。


「……俺は」


声がかすれる。


「……強くなりたいだけだ」


ヤチヨは、

それを聞いて――

少しだけ、懐かしそうに笑った。


「昔と、同じこと言うね」


「だから」


剣を、引き抜く。


「今は」


「一人で戦っちゃ、ダメだ」


そして、背を向ける。


「また会おう」


「次は――」


振り返らずに、言う。


「ちゃんと、生きる覚悟を持ってから」


火山灰の向こうへ、その背は消えた。


残されたのは、静寂。


ヤヒロは、地面に座ったまま、動けなかった。


胸の奥で、何かが、ひび割れている。


壊れかけ。


その言葉だけが、いつまでも、耳に残っていた。


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