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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
2章:富士山ダンジョン編

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2章20節

毎日17:30投稿

火山灰が、静かに降っている。


夜営の火は、最低限。

赤く揺れる炎が、岩壁に歪んだ影を落としていた。


ヤヒロは、盾を拭いていた。


血でも、溶岩でもない。

ただの、灰。


それでも、

やけに丁寧だった。


「……」


ユイは、

少し離れた場所で弓の弦を張り直しながら、

その様子を見ていた。


ヤヒロの動きは、正確だ。


手順も、無駄がない。

中層を越えてから、

むしろ洗練されたと言っていい。


だからこそ。


「……ヤヒロ」


ユイが、呼ぶ。


「なに?」


すぐに返事が返ってくる。


遅れも、苛立ちもない。

いつも通りの声。


「……さっきの」


言葉を、選ぶ。


「……三人目」


ヤヒロの手が、

一瞬だけ止まった。


「ああ」


すぐに、動きは再開される。


「あれがどうかした?」


平坦だ。


ユイは、

弓から視線を外さずに言う。


「……足、折れてた」


「うん」


即答だった。


「……逃げられなかった」


それも、事実。


ユイは、

一拍、置く。


「……止め、刺す前」


火が、小さく爆ぜる。


「……助け、呼んでた」


ヤヒロの手が、

今度は、はっきり止まった。


盾の表面に、自分の顔が映る。


歪んでいる。


「聞こえなかった」


そう言った。


嘘ではない。

たぶん。


「火山灰と、風で」


理由も、すぐに出てくる。


ユイは、ヤヒロを見た。


視線が、ぶつかる。


「……聞こえなかった、じゃない」


静かな声。


「……聞こうと、しなかった」


ヤヒロは、

何も言えなかった。


ユイは、責めない。


声も、強くならない。


ただ、

事実を置いただけだ。


「……前なら」


続ける。


「……一瞬、止まってた」


「……確認、してた」


ヤヒロは、

喉が、少しだけ鳴る。


「今は?」


「……止まらなかった」


沈黙。


遠くで、

溶岩が崩れる音がする。


ツダは、

少し離れた場所で、

気づいていないふりをしていた。


「悪いことだと思ってない」


ヤヒロが、言う。


「生き残るためだ」


「……分かってる」


ユイは、即座に返す。


「……私も」


だからこそ、その先を、言う。


「……でも」


ユイは、弓の弦を、指で弾いた。


張りすぎている。


「……ヤヒロ」


「……盾、強くなってる」


「……体も……動きも」


肯定を、重ねる。


そして。


「……心だけ」


一言。


「……追いついてない」


ヤヒロは、息を、吸った。


「それが、どうした!」


少しだけ、語気が強い。


ユイは、視線を逸らさない。


「……壊れる」


断言だった。


「……その前に、気づいて」


ヤヒロは、笑おうとして、失敗した。


「壊れたっていい!」


口に出した瞬間、自分で、驚いた。


ユイの、眉が、ほんの少しだけ動く。


「……それは嘘」


胸の奥が、ひやりと冷える。


ヤヒロは、盾を抱え込む。


「嘘じゃない!」


「……強くなってる」


「だから!」


「……だから、何?」


ユイが、被せる。


初めて、

ほんの少しだけ、感情が滲んだ。


「強くなったら、何を失っても、いいの?」


答えは、出ない。


ヤヒロは、視線を落とす。


火が、灰に埋もれそうになっている。


「寝る」


それだけ言って、立ち上がった。


背中が、少しだけ硬い。


ユイは、その背を、見送った。


止めない。


追わない。


ただ――

見えてしまった。


小さな亀裂。


誰にも気づかれないほど、

些細で、

しかし、確実な破綻。


(……このままじゃ……)


ユイは、

弓を、強く握る。


ヤヒロが、

慣れてしまう前に。


慣れてしまったあとでも。


引き戻せるのか。


その答えは、

まだ、分からない。


上層の夜は、

静かに、深まっていった。


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