2章19節
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溶岩の赤が、遠くで揺れている。
火山灰が、静かに降り続ける中、
三人は岩陰で腰を下ろしていた。
誰も、口を開かない。
ヤヒロは、盾を見つめていた。
表面に残る、溶岩ゴーレムの打痕。
防げはした。
だが――押し返せなかった。
(まだまだ……足りない)
その思考は、
もう何度目か分からないほど、
頭の中を巡っていた。
中層で、人を殺したとき。
恐怖があった。
嫌悪もあった。
戻れなくなる感覚が、確かにあった。
だが今は。
(躊躇してる暇は、ない)
上層は、
防げばいい場所じゃない。
防いだ先で、
叩き潰せなければ、生き残れない。
防ぎきれるとも限らない。
せめて、もっと自分に力があれば。
「……ツダ」
ヤヒロが、口を開いた。
「この辺、冒険者の動線が多いよな」
ツダは、ちらりとこちらを見る。
「……ああ。
火口寄りを避ける連中が、集まりやすい」
「ここまで来るなら、レアドロップも多く持っているんじゃないか?」
その問いに、
一瞬の沈黙が落ちた。
ユイが、視線を上げる。
「……いる」
短い答え。
否定も、咎めもない。
ヤヒロは、頷いた。
「狩ろう」
言葉は、
驚くほど自然に出た。
「モンスターだけじゃ、足りない」
「盾を、もっと強くする」
自分でも、
声が平坦なのが分かった。
ツダは、何も言わない。
ただ、
少しだけ眉を寄せた。
「……分かって言ってるな?」
「分かってる」
即答だった。
「戻れなくなる、とか。そういう話なら」
ヤヒロは、盾を握り締める。
「もう、とっくに戻るつもりはない」
ユイが、小さく息を吐いた。
「……ヤヒロ、無理は、」
「大丈夫だ」
さえぎるようにそう言った瞬間、
自分でも、嘘だと分かった。
だが。
「生き残る」
それだけは、揺らがなかった。
最初の襲撃は、夕暮れ時だった。
三人組。
装備は、レア混じり。
警戒は甘くない。
だが、連携は雑だった。
ヤヒロは、前に出た。
盾を構え、
踏み込む。
衝撃波反転。
ドンッ!
一人が、弾き飛ばされる。
追撃。
硬直が入る。
迷いは、なかった。
殴る。
叩く。
押し潰す。
光の粒が、舞う。
残ったのは、
大量のレアドロップ。
感じたのは虚無。
だが。
「……悪くない」
ヤヒロは、そう思ってしまった。
次も。
その次も。
ヤヒロは、
積極的に前に出た。
盾で、崩す。
硬直させる。
幻痛毒を叩き込む。
殺す。
殺す。
殺して、
装備を、盾に食わせる。
防御値が、上がる。
数値が、伸びる。
スキルが、特性が増える。
「……また、強くなったな」
ツダが、淡々と告げる。
「強くならなきゃ」
その言葉が、
胸に、重く沈む。
ユイは、
何も言わない。
ただ、ヤヒロの背中を、
よく見るようになった。
次の夜。
火山灰の向こうに、
人影が、揺れた。
ヤヒロは、
盾を持ち上げる。
躊躇は、
もう、なかった。
(必要だ)
(生きるために)
(――上に行くために)
それが、
言い訳なのか、覚悟なのか。
もう、区別はつかない。
だが、歩みは止まらない。
ユイとツダは、
そんなヤヒロの背を見ながら、
何も言わず、ただ、ついていった。
強くなることに、異論はない。
だからこそ――
心配するしか、なかった。




