2章18節
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その魔物は、
サラマンダーが消えた直後に、姿を現した。
溶岩の川を割るように、
ずるりと、何かが這い上がってくる。
赤黒い外殻。
溶岩を纏った四足の巨躯。
――火山犬。
ツダが、短く息を吐く。
「……あー。これな」
「知ってるの?」
ヤヒロが問うと、ツダは肩をすくめた。
「サラマンダーの捕食者。
向こうからすりゃ、さっきのは餌だ」
次の瞬間。
火山犬が、跳んだ。
ドンッ!
着地と同時に、
溶岩が弾け、衝撃が走る。
ヤヒロは盾を前に出す。
――防げる。
だが。
硬い。
衝撃は返せる。
だが、相手は怯まない。
衝撃波反転が、いなされてしまう。
ユイの矢が、側面に刺さる。
時間差で、
肉を穿ち、
火山犬が呻いた。
ツダの槌が、
頭部を叩き潰す。
ゴンッ!
呆気ないほど、早かった。
――強い。
だが、ヤヒロが何かをする前に、終わった。
その後も。
サラマンダー。
火山犬。
また、サラマンダー。
その連戦。
溶岩の熱に、感覚が麻痺していく。
盾で受ける。
返す。
だが、倒しきれない。
倒すのは、
いつもユイの矢と、ツダの槌。
しばらくして地鳴りが、変わった。
溶岩が盛り上がり、
それが“形”を持った瞬間、
ヤヒロは直感的に悟った。
これは、さっきまでの連中とは違う。
人型の躯体。
岩と溶岩が絡み合った、巨体。
溶岩ゴーレム。
拳が、振り下ろされる。
ヤヒロは、盾を前に出した。
ドンッ!!
衝撃が、全身を打つ。
膝が、沈む。
(……重い)
返す。
衝撃波反転。
だが。
ゴーレムは、止まらなかった。
溶岩が弾け、
次の腕が、叩きつけられる。
ドンッ、ドンッ!
防ぐ。
耐える。
だが、
押し返せない。
背後から、ユイの矢が飛ぶ。
関節部に刺さり、
溶岩が飛び散る。
だが、
ゴーレムは、構わず前に出てくる。
ツダの槌が、側面を打つ。
ゴンッ!
硬い音。
効いていないわけじゃない。
だが――
「……削れてねえ」
ツダが、低く吐き捨てる。
ゴーレムが、両腕を振り上げた。
次の一撃は、防ぎきれない。
ヤヒロの背筋が、凍る。
(――まずい)
その瞬間。
「下がる!」
ツダの声が、割り込んだ。
「ヤヒロ!撤退だ!」
一瞬、迷いが走る。
(まだ――)
だが、腕が悲鳴を上げている。
次の攻撃さえ耐えられるか分からない。
ユイが、矢を連射する。
牽制。
視線を、逸らす。
ツダが、衝撃を叩きつける。
「走れ!」
ヤヒロは、歯を食いしばった。
盾を構えたまま、後退。
ドンッ!!
背後で、溶岩が爆ぜる。
熱が、背中を舐める。
三人は、
溶岩流を挟むようにして、
距離を取った。
ゴーレムは、
追ってこなかった。
溶岩の中に、
ゆっくりと沈んでいく。
……生きている。
ただ、
ここから離れただけだ。
しばらく走り、
安全圏に入ってから、
ヤヒロは、ようやく足を止めた。
肩で、息をする。
「……ごめん」
思わず、口から零れた。
「防ぎきれなかった」
「俺が、前に出られなかった」
防ぐことしか、できなかった。
攻撃にならなかった。
ヤヒロの胸の奥には、
冷たいものが残っていた。
(防御特化が……通じない)
今のままでは、上層では生き残れない。
盾を見つめながら、
ヤヒロは、強く思う。
次に、
同じ相手と向き合うとき。
そのときには、
逃げない力が、必要だ。
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