2章17節
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溶岩の跳ねる音が、途切れた。
ユイの矢が、
サラマンダーの動きを、確実に削いでいく。
それを見ながら、ヤヒロは盾を構えたまま、
胸の奥で、いつの間にか別のものが軋むのを感じていた。
――効かない。
いや、効いていないわけではない。
衝撃波反転は、確実に発動している。
盾は、役目を果たしている。
だが。
届かない。
反転した衝撃は、
当たる場所に、敵がいなければ意味がない。
これまで――
コボルトも、オークも、
人間の襲撃者でさえも。
「攻撃してくる」相手だった。
だから、防げた。
だから、返せた。
だが、このサラマンダーは違う。
距離を保ち、
位置を変え、
攻撃する“意思”そのものを、盾に預けてこない。
(……俺は)
ヤヒロは、喉の奥で息を詰まらせる。
(防げるから、生きてきただけなんじゃないのか)
盾がなければ。
衝撃波反転がなければ。
この上層で、自分は何ができる?
その思考を、
ギャァァッ!!
サラマンダーの悲鳴が、断ち切った。
ユイの矢が、
今度は、背の発光部
溶岩が循環している核を、正確に貫いていた。
止まっていた矢が、
同時に、三本。
時間差で、
同じ一点へ、突き刺さる。
サラマンダーの体が、
大きくのけぞった。
その瞬間。
「今だ、ヤヒロ!」
ツダの声。
ヤヒロは、考えるのをやめた。
盾を前に。
足を、溶岩の縁へ踏み出す。
熱が、靴底を焼く。
だが、止まらない。
防ぐだけじゃないんだ。
盾を、振る。
切れ味上昇。
硬直付与。
そして。
衝撃波反転――音衝撃波。
盾を叩き込んだ瞬間、
爆ぜるような衝撃が、
至近距離で、反転して解き放たれた。
ドンッ!!
音が、
衝撃が、
サラマンダーの体内へ叩き込まれる。
核が、砕けた。
赤い光が、
一瞬だけ、強く脈打ち――
崩壊。
サラマンダーの体は、
溶岩に戻ることもなく、
光の粒となって、空中に散った。
残ったのは、
溶岩の流れと、静寂だけ。
ヤヒロは、盾を下ろす。
息が、荒い。
勝った。
だが。
胸の奥に残ったものは、
達成感よりも、
はっきりとした不安だった。
(次も……通じるとは限らない)
防御特化。
それは、
敵が“殴ってくる世界”でのみ、強い。
だが、上層は
もう、そんな優しい場所ではない。
ユイが、静かに弓を下ろす。
ツダが、溶岩跡を見ながら、ぼそりと言った。
「……上層だな」
ヤヒロは、黙って頷いた。
盾が、重い。
それは、
力の重さではなく
この先で、試される自分自身の重さだった。




