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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス


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1章5節

毎日17:30投稿

夜勤明け。


身体は正直、限界だった。

目の奥が熱く、足取りも重い。


それでも僕は、まっすぐ会社の購買所へ向かった。


蛍光灯の白い光。

金属棚に並ぶ、見慣れた装備品。


剣、斧、棍棒、短剣、槍。

どれもコモン。

どれも微妙に歪み、刃が甘い。


ギルドなら、まず置かれない代物。


「……相変わらず、ひでぇな」


無意識に、そう呟いていた。


値札を見る。


短剣:安い

棍棒:さらに安い

鉄球:重いが、破格


僕は、躊躇なく籠に放り込んでいく。


一本、二本、三本。

気づけば、籠はすぐにいっぱいになった。


「……足りないな」


もう一つ、籠を取る。


ガシャン、と金属音を立てて重ねた。


レジの向こうにいる購買担当は、

新聞を読みながら、ちらりとこちらを見る。


「あー……ヤヒロくん?」


「はい」


「今日も盾、壊れた?」


「ええ。仕事なんで」


「ああ、そっか」


それだけだった。


購入数も、種類も、

誰も気にしない。


この会社では、

装備が壊れるのは日常だ。

人が壊れるよりは、ずっと安い。


「短剣十、棍棒八、フレイル三、鉄球二……っと」


淡々と読み上げられる数字。


金額は、思ったよりもいかない。

給料日前でも、十分に払える。

普段、盾の補充以外で金を使うことなんてないからな。


これだけあれば――

しばらくは、足りる。


いや。


足りるどころじゃない。


「領収書、いつもの宛名で?」


「はい」


紙が切られ、差し出される。


その一枚が、

僕には“素材一覧”にしか見えなかった。


周囲を見る。


同僚が二、三人。

包帯を巻いた腕、

疲れ切った顔。


誰も、僕の籠の中身を見ていない。


見ても、

「盾役がまた消耗するんだな」

それくらいにしか思わないだろう。


――無関心。


それが、この会社の空気だ。


僕は装備袋を肩に担ぎ、

出口へ向かう。


袋の中で、金属がぶつかり合い、

鈍い音を立てた。


「……全部、食わせてやる」


誰にも聞こえない声で、そう呟く。


使い捨てられるはずだった装備たち。

使い捨てにされてきた僕。


だがこれからは――

使い捨てるのは、こっちだ。


購買所の自動ドアが閉まる。

盾が静かに、待っている。


帰宅すると、ヤヒロは靴も揃えないまま、自室の床に腰を落とした。

バックパックを放り投げ、「使い捨てる盾」を両手で抱える。


電灯の下で見るそれは、相変わらず地味な外見をしていた。

装飾もなければ、銘文もない。

購買所の棚に無造作に並んでいた、数あるコモン装備の一つ――

少なくとも、昨日までは。


「……やるか」


息を吐き、バックパックを引き寄せる。

中に詰め込まれているのは、購買所でまとめ買いした武器たちだ。

刃こぼれした短剣、歪んだ鉄球、柄の割れたメイス。

どれも戦力としては数に入らない、使い潰される前提の品ばかり。


ヤヒロは、最初に短剣を手に取った。


盾に、軽く当てる。


キン、と乾いた音がした。


次の瞬間、短剣はまるで水に溶けるように形を失い、

刃も柄も、すべてが盾の表面へと吸い込まれていった。


二本目、三本目と武器をぶつけていく。


キン。

キン。

キン。


音は一定だ。

抵抗はない。

破壊されるはずの武器は、砕け散ることもなく、

ただ“消えていく”。


そして、そのたびに――

盾の重さが、わずかに増していくのがわかった。


気のせいではない。

持ち替えるたび、腕にかかる負荷が確実に変わっている。


「どんどん食えよ」


誰にともなく呟く。

盾は何も答えない。


だが、表面をなぞると、

以前よりも硬く、冷たい感触が返ってきた。

金属の質が、一段階上がったような――

そんな錯覚を覚える。


作業は、淡々と続いた。


武器を取り出し、

盾に当て、

音を聞く。


ただそれだけだ。


なのに、不思議と嫌な疲労感はなかった。

むしろ、胸の奥が静かに高揚していく。


時間を確認すると、すでに日付が変わっていた。

社宅の外は静まり返り、

壁の向こうから聞こえるのは、どこかの部屋の換気扇の音だけだ。


「……そろそろ寝ないとな」


そう思いながらも、手が止まらない。


ダンジョン外ですら、ほとんど意味を持たないはずのコモン装備が、

ここでは“素材”になる。


そして、その素材は――

会社の購買所に、いくらでも転がっている。


「……ああ」


ようやく、危険な答えに辿り着く。


この会社は、

この環境は、

このブラックな仕組みそのものが――


「最強の素材供給源じゃないか」


自嘲気味に笑いながら、

ヤヒロは最後のメイスを盾に当てた。


キン、と音が鳴る。


盾は、微かに光を帯びていた。


布団に入ったのは、それからしばらく後だった。

だが、瞼を閉じても、眠りは訪れない。


頭の中では、

明日のローテ、

次に買う装備、

どこまで強くなれるのか――

そんな考えが、渦を巻いていた。


疲れ果てているはずなのに、

胸の奥だけが、妙に冴えている。


「……寝不足は、慣れてる」


そう呟き、

ヤヒロは天井を見つめ続けた。


この盾が、

自分の運命をどこへ連れていくのか――

まだ、その輪郭すら見えていなかったが。

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