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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
2章:富士山ダンジョン編

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2章12節

毎日17:30投稿

夜襲は、終わった。


十を超える人影が、

霧の森の中で、光の粒へと変わっていく。


誰も、逃げ切れなかった。


最後に残ったのは、

踏み荒らされた地面と、

価値のないドロップ品だけだった。


剣や槍。

短刀や曲刀。

防具。


いずれもレア装備だ。

だが特性も、スキルもない。


ヤヒロは、それらを見下ろしていた。


胸の奥が、妙に静かだった。


恐怖は、ある。

吐き気も、ある。


だが――

もう迷いはなかった。


「……終わったな」


ツダが言う。

いつもと同じ、飄々とした声。


ユイは無言で周囲を警戒している。

矢をつがえたまま、微動だにしない。


「ヤヒロ」


ツダが、盾を見る。


「……吸わせるか?」


ヤヒロは、一瞬だけ目を伏せ、

そして、頷いた。


盾が、光を吸う。


人の残した装備が、

粒子となって、盾に溶け込んでいく。


変化は、派手ではない。


だが、確実に、

盾の表面に刻まれた傷が、

わずかに重みを増す。


ツダがモノクルを押さえる。


「防御値、微増」


「……それだけか」


ヤヒロが言う。


「それでいい」


ツダは肩をすくめた。


「派手に強くなるより、確実に積み上がる方が、よっぽど厄介だ」


その言葉が、

ヤヒロの胸に、深く沈んだ。




翌朝。


霧は、相変わらず濃い。


だが、ヤヒロの足取りは、

昨夜までとは違っていた。


迷いが、ない。


盾を構える動作も、

攻撃に転じる判断も、

一拍、早い。


モンスターとの戦闘は、

もはや作業に近い。


獣型。

爬虫類型。

水生型。

群れ。


すべて、

「どう殺すか」ではなく、

「どう早く終わらせるか」で判断する。


盾で受け、

反撃で斬り、

硬直したところに、

ユイの矢が刺さる。


ツダは、後ろから観測する。


「……いい連携だな」


褒めるでもなく、

淡々とした評価。


ヤヒロは、それを聞いても、

何も感じなかった。




昼。


森の奥で、

別の冒険者パーティと遭遇する。


視線が合う。


一瞬の、沈黙。


次の瞬間、

相手が武器を構えた。


ヤヒロは、盾を前に出す。


もう、躊躇いはなかった。


衝突。

打撃。

反動。


盾が相手を弾き、硬直が走る。


踏み込み、切断。


相手が倒れきる前に、次の一人へ。


ユイの矢が、逃げようとした背中を射抜く。


残った一人は、逃げることもできず、膝をついた。


ヤヒロは、

その喉元に盾を突き出す。


一瞬、目が合った。


恐怖。

懇願。


それでも、

ヤヒロは止まらなかった。


光。


ドロップ。


特に付加価値のない装備。


――また、これだけ。


だが、

その「虚無」に、

もう足を取られることはなかった。




夜の野営。


火を焚き、

周囲を警戒しながら、

短い休息を取る。


ツダが、

新たに得たレア装備を確認する。


「特性なし。

 ただし、素材は悪くない」


ヤヒロは黙って、盾を差し出す。


吸収。


また、防御値が上がる。


微増。

だが、積み重なる。


「……強くなったな」


ツダが、また言う。


しかし今度は、

ヤヒロは内心で肯定した。




中層後半。


敵の密度が、明らかに増える。


モンスター同士の争い。

人間同士の殺し合い。


そこに、

三人が割り込む。


戦う理由は、

もはや単純だ。


生き残るため。

先へ進むため。


盾は、

衝撃波を返し、

音を返し、

敵を硬直させ、

痛みを刻む。


ヤヒロの体は、

盾の動きに、完全に馴染んでいた。


攻撃を受けることを、

恐れなくなっている。


受けられる。

返せる。


だから、前に出る。




ある戦闘で、

レア装備が落ちる。


剣。

特性なし。


それでも、

ツダは頷いた。


「食わせていい」


吸収。


また一段、

盾が重くなる。


その重みが、

ヤヒロの心を、

逆に安定させていた。


――これで、いい。


強くなることに、

理由はいらない。




中層終盤。


森が、少しずつ、開け始める。


岩肌が見え、地面が硬くなる。

敵は、減らない。


だがもう、苦戦もしない。


人間の襲撃があっても、

ヤヒロは前に出る。


ユイは、

無言で援護する。


ツダは、

背後を守る。


役割が、

完全に固定されていた。


そして、

その形が、

一番効率的だと、

全員が理解していた。




最後の野営。


中層の出口は、近い。


ツダが言う。


「ここまで来たら、もう後戻りはできないな」


ヤヒロは、盾を見下ろす。


傷だらけで、重くて、けれど頼もしい。


「……戻るつもりはない」


それは、決意というより、事実だった。


ユイが、小さく頷く。


霧の向こうで、

誰かが、こちらを見ている気配がする。


だが、もう、気にしない。


中層は、もうすぐ越える。


この先で待つものが、何であれ。


ヤヒロは、盾を構え、前を向いた。


殺すと決めた、その先へ。


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