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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
2章:富士山ダンジョン編

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2章11節

毎日17:30投稿

焚き火は小さく抑えられていた。

富士中層の夜は、音が反響する。

火が大きすぎれば、それだけで位置を教えるようなものだった。


ヤヒロは盾を膝に置いたまま、黙って炎を見ていた。


吸収は、もう終わっている。


派手な演出はない。

盾は盾のまま、ただ“重み”だけが変わった。


「……確認終わり」


ツダが言った。


モノクル越しに、盾を一瞥しただけだ。


「防御値は、明確に上がってる」

「数値だけ見れば、さっきより一段階上だな」


淡々とした声。

事実だけを述べる口調。


ヤヒロは何も返さなかった。


「強くなったな」


その一言が、続いた。


軽い言い方だった。

褒め言葉として使われる、いつもの言葉。


だが、ヤヒロの胸には、重く沈んだ。


——強くなった。


それは、誰かが消えた結果だ。

光の粒になって、価値の低いドロップを残して。

その“価値のなさ”と引き換えに、盾は確かに強化された。


合理的だ。

正しい判断だ。


理解している。


それでも、ヤヒロは拳を握った。


「……」


ユイは何も言わない。

ただ、火の向こう側で、静かに周囲を見ていた。


その時だった。


——違和感。


風でも、獣でもない。


森の奥。

視線だけが、こちらに向いている。


音はない。

だが、見られている感覚。


ユイの視線が、ほんのわずかに動いた。

ツダも気づいたらしく、何気ない動作で体勢を変える。


「……いるな」


小さな声。


一人か、二人、いやそれ以上。


観測。

距離を測っている。


ヤヒロは、盾に手を置いた。


さっきより、頼もしい感触がある。

確実に、防げる。


——だからこそ。


逃げられない、と理解した。


強くなった以上、見られる以上、選ばれる以上。


もう、戻れない。


「……決めた」


ヤヒロが、低く言った。


二人が、視線を向ける。


「生きて、上に行く」

「そのために、必要なら……俺は、盾を使う」


誰も否定しなかった。


ツダは、口の端を上げる。


「そりゃいい」

「決めた奴は、迷わねえ」


ユイは、短く頷いた。


その瞬間だった。


——パキリ。


踏みしめられた枝の音。


同時に、空気が動く。


「来る!」


ツダの声と同時に、

闇の中から、人影が躍り出た。


夜襲。


迷いの切れ目を、正確に狙った一撃。


ヤヒロは、反射的に盾を構える。


——もう、躊躇しない。


夜の森に、衝突音が響いた。

闇が、割れた。


一人ではない。

左右、前後、木の上。

数は――十を超えている。


人間だ。


息遣い。

金属の擦れる音。

合図もなく、同時に踏み込んでくる。


「囲まれてる!」


ツダが叫ぶより早く、

ヤヒロは――前に出た。


逃げない。

退かない。


盾を、叩きつける。


最初の一撃。


刃が走る。

盾縁の切れ味が、予想以上に深く肉を裂いた。


「ぐっ——!?」


切れ味上昇。

斬れるはずのない動きが、確実に“切断”になる。


同時に、


——硬直。


当たった男の身体が、ピタリと止まる。

反応が、遅れる。


攻撃時・確率硬直。


次の瞬間、ヤヒロは迷わず突き込んだ。


盾が、鳩尾に叩き込まれる。


「が——っ!」


男が崩れ落ちる。


だが、ヤヒロは止まらない。


横から、

背後から、

複数の刃が迫る。


「ヤヒロ!」


ツダの声。

ユイの矢が、闇を切る。


それでも、間に合わない。


——来る。


その瞬間。


ヤヒロは、盾を構え、受けた。


剣撃。

鈍器。

同時着弾。


——衝撃。


次の瞬間、世界が裏返る。


衝撃波反転。

百パーセント。


吸収された衝撃が、

そのまま、前方へ押し返される。


「なっ——!?」


衝撃が、面で炸裂する。


人が、まとめて吹き飛んだ。


木に叩きつけられ、

地面を転がり、悲鳴が重なる。


止まらない。


今度は、音だ。


合図の笛。

怒号。

足音。


それらが、空間に溜まる。


ヤヒロは、盾を地面に叩きつけた。


——音衝撃波。


反転。


音が、刃になる。


「うあぁっ!」


耳を押さえた人間が、

膝をつく。

バランスを崩す。


その隙に、踏み込む。


盾を振る。


切れる。

止まる。

倒れる。


さらに——


幻痛。


盾で殴られた男が、

突然、腕を掴んで転げ回る。


「い、痛い! 腕が……あるのにない!?」


存在しない痛み。

逃げ場のない錯覚。


幻痛毒。


恐怖が、戦線を壊す。


——数は、まだ多い。


だが、もう連携がない。


ヤヒロは、息を整えることなく、前に出続ける。


受けて、

返して、

切って、

止める。


盾なのに、

盾で殴り切り殺していく。


最後の数人が、距離を取った。


逃げようとする。


「逃がすな!」


ツダが動く。

槌が唸り、確実に足を砕く。


ユイの矢が、

暗闇から、正確に関節を射抜く。


そして。


最後の一人。


刃を振り上げた瞬間、

ヤヒロは一歩、踏み込んだ。


盾が、胸を貫く。


硬直。

幻痛。

呼吸停止。


男は、崩れ落ちる。


——静寂。


次々と、

人の形が、

光の粒になって消えていく。


残るのは、

地面に転がる、

価値の低いドロップだけ。


鉄屑。

割れた刃。

売れば、数千円。


ヤヒロは、盾を下ろした。


息が荒い。


胸が、痛い。


——無双だった。


考える間もなく、

身体が、盾を使い切った。


ツダが、ゆっくり近づいてくる。


「……完璧だな」

「全部、使いこなしてやがる」


ユイは、何も言わない。

ただ、弓を戻しながら、ヤヒロを見ている。


ヤヒロは、

光の粒が消えた場所を見つめた。


(……慣れるのか)


(俺も)


(こうやって、何も感じなくなるのか)


盾は、静かだ。

何も語らない。


だが、確実に——

強くなっていた。


夜の森で、

また一歩、戻れない場所へ進んだことだけが、

はっきりと分かっていた。


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