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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
2章:富士山ダンジョン編

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2章10節

毎日17:30投稿

「さて、どっち行く?」


ツダの問いは軽かった。

だが、その裏にある意味を、ヤヒロは理解してしまった。


安全そうな道は、人の通り道だ。

危険そうな道は、モンスターの縄張りだ。


どちらも、命を削る。


「……人が少ない方で」


そう答えた自分の声が、やけに遠く聞こえた。


「了解」


ツダは理由を聞かなかった。

ユイも、何も言わずに進行方向を変える。


それが、合意だった。


森は、すぐに口を閉ざした。


足音が吸い込まれる。

風の向きが読めない。

視界の端が、ずっと揺れている。


——見られている。


確証はない。

だが、否定もできない。


ヤヒロは盾を構え直した。

重くなったはずの盾が、今日はやけに軽く感じる。


それが、怖かった。


しかし、最初の攻撃は、モンスターのものではなかった。


「伏せろ!」


ツダの声と同時に、木の幹が爆ぜる。


木片が飛び、頬を掠めた。

痛みよりも先に、理解が来る。


——人間だ。


敵意を持った、同じ人間。


ユイはすでに姿を消している。

音もなく、気配もなく。


ツダは前に出たが、攻めない。

あくまで、位置を限定するための動きだ。


「二人だな」


小さな声。

まるで散歩中の独り言みたいに。


ヤヒロは、盾を前に出した。


躊躇が、指先に絡みつく。


人を殴る。

刃を振るう。

それは、これまで考えないようにしてきたことだ。


だが、次の瞬間。


相手の斬撃波による衝撃を受ける。


盾が鳴り、反動が腕に返る。

微かな痛みが、逆に頭を冷やした。


——やらなきゃ、殺される。


自分が。

それとも、ユイが。


相手の男が、踏み込んでくる。


刃の軌道が、はっきり見えた。


ヤヒロは、わざと外した。


空振り。


心臓が跳ねる。


——来る。


次の一撃。


盾が唸る。

溜め込まれた力が、反転する。


音が、潰れた。


男の身体が木に叩きつけられ、動かなくなる。


光の粒になって、崩れた。


残った一人は、逃げようとした。


だが、逃げ切れない。


ユイの矢が、頭を射抜く。


ツダが近づき、槌を肩に担ぐ。


「……今日は運が悪かったな」


男の身体は、抵抗することなく崩れた。


悲鳴もない。

血もない。


ただ、輪郭がほどけるように、光の粒へと分解されていく。


ヤヒロは、その過程を、目を逸らさずに見ていた。


——終わった。


そう理解した瞬間、足元に残されたものがあった。


盾。


無骨で、装飾もない。

だが、厚みがあり、縁の処理も丁寧だ。


「……レアだな」


ツダが淡々と言った。


モノクル越しに一瞥しただけで、鑑定は終わっている。


「特性なし。スキルもなし」

「その代わり、素材がいい。数値は上等だ」


ユイも、それを見ていた。

表情は変わらない。


「……ヤヒロの盾、強くなるね」


その一言が、ヤヒロの胸に刺さった。


盾が、強くなる。


それはつまり——


ヤヒロは、視線を落とした。


さっきまで、そこにいた人間。

武器を持ち、こちらを襲ってきたとはいえ、同じ人だった存在。


その命が、

今はただの強化素材として、足元に転がっている。


「……」


喉が、鳴った。


盾を見れば、理解してしまう。

吸収すれば、確実に防御力は上がる。


数値だけの強化。

戦いを有利にする、純粋な報酬。


——だからこそ、逃げ場がない。


特性があるなら、言い訳ができた。

危険だから。

制御が難しいから。


だが、これは違う。


ただ、強くなるだけだ。


「……吸わせればいい」


ツダの声は軽い。


「感情論抜きで言えば、正解だぜ」

「向こうは殺す気だった。こっちは生き残った」

「その差が、これだ」


正論だった。


だからこそ、ヤヒロは何も言えなかった。


ユイは、少しだけ間を置いてから口を開く。


「……ヤヒロが背負うなら」

「私は、止めない」


その言葉は、優しかった。

だが、同時に突き放してもいた。


選ぶのは、自分だ。


ヤヒロは、盾に手を伸ばした。


指先が、微かに震える。


盾が強くなる。

次は、もっと上手く守れる。

次は、誰かを死なせずに済むかもしれない。


——そう思いたい。


だが、同時に理解している。


これは、殺した結果だ。


逃げられない因果だ。


「……行くぞ」


低く言って、盾を構える。


吸収が始まる。

静かに、確実に。


レア装備は、抵抗もなく溶けていった。


何も語らず、

何も残さず。


数値だけを残して。


ヤヒロは、歯を食いしばった。


——俺は、これに慣れてしまうのか。


それとも、

慣れなきゃ、上には行けないのか。


ツダも、ユイも、もう慣れている。

判断が早い。

感情を挟まない。


自分も、そうなるのだろうか。


そうでなければ、生き残れないのだろうか。


「今日はこれで終いにしよう」


ツダが言った。


軽い口調の裏で、目は冷えている。


ヤヒロは、黙って頷いた。


盾の重さが、今度ははっきりと腕に残っていた。


それは、守るための重さではなく。


——選んでしまった重さだった。


いつもありがとうございます。


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