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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
2章:富士山ダンジョン編

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2章9節

毎日17:30投稿

木々の間で、異様な光沢が見えた。


朝靄に濡れた糸。

幾重にも重なり、絡まり合い、

森の一角を丸ごと覆い尽くしている。


——巣だ。


それも、ただの蜘蛛ではない。


糸の太さ、張り方、範囲。

どれを取っても、明らかに『巨大』の二文字がつく。


「おお……」


沈黙を破ったのは、ツダだった。


声色が、わざとらしいほど明るい。


「いいねえ、これ。見てみろよこの巣」

「芸術点、高いぞ?」


ヤヒロは、反射的に盾を握り直す。


胃の奥が、まだ重い。

さっきの光景が、完全には消えていない。


それを、ツダは気づいていた。


だからこそ、わざと軽口を叩く。


「巨大毒クモだな、間違いない」

「運が良けりゃ、毒系のレアが出る」


ちらりと、ヤヒロを見る。


「……今は、そういうの欲しいだろ?」


欲しい、というより——

必要だった。


盾を、さらに強くするために。


「狩るのか」


ヤヒロが言うと、ツダは即答する。


「狩りに行く」


断言。


「ただし、正面突破は無理だな」


その瞬間。


巣が、わずかに震えた。


枝の向こうから、

“それ”が現れる。


甲殻。


黒光りする、多層の外殻。

丸太のような脚が、八本。


巨大毒クモ。


その動きは、鈍重に見えて——

だが、威圧感だけで足が止まりそうになる。


「……硬そう」


ユイが呟く。


「硬いどころじゃねえな」


ツダが槌を構え、

思い切り振り下ろす。


ガンッ!


嫌な金属音。


衝撃が、腕に返ってくる。


甲殻は、びくともしない。


「……ダメだ、通らねえ」


ヤヒロも、盾で打ち込む。


ゴンッ!


手応えは、同じ。


まるで、岩を叩いているようだ。


「予想通りだな」


ツダは、すぐに切り替える。


「ユイ」


視線を送る。


ユイは、すでに理解していた。


「……隙間」


「そう。甲殻と甲殻の継ぎ目だ」


巨大毒クモが、脚を持ち上げる。

その一瞬、腹部の下にわずかな割れ目が見えた。


「俺とヤヒロで引きつける!」


ツダが前に出る。


わざと、音を立てる。


槌を振り、盾がぶつかる。


派手に、大きく。


クモの複眼が、二人に向く。


ヤヒロも、覚悟を決めて前に出た。


脚の一撃を、盾で受ける。


ズンッ——


重い。


毒が、甲殻の隙間から滴る。


「……今」


その声は、小さかった。


だが。


空気が、わずかに歪む。


ユイの矢が、放たれた。


撃った直後、

矢はその場で、静止する。


次の瞬間。


矢が、滑るように動き出す。


甲殻の継ぎ目へ。


——正確に。


深く、深く、突き刺さる。


クモが、悲鳴のような音を上げた。


二射目。


三射目。


関節、腹部、脚の付け根。


ユイは、躊躇なく撃ち続ける。


やがて。


巨大毒クモの動きが、止まった。


脚が、崩れ落ちる。


巨体が、巣の上に沈み込み——

光の粒へと、分解されていった。


残ったのは、

一本の、黒紫色の針。


ツダが拾い上げ、モノクルをかける。


「……おお」


思わず、声が漏れる。


「レアだな。毒針」

「しかも、変わり種だ」


ヤヒロに見せる。


「**痛覚付与毒**」

「攻撃した相手に、一定確率で幻痛を発生させる」


「……幻痛?」


「存在しないはずの部位が、痛むやつだ」

「厄介だぞ。精神に来る」


ツダは、少しだけ真面目な顔になる。


「いいドロップだ」

「盾に食わせるか?」


ヤヒロは、頷いた。


巨大毒クモの巣は、まだ生きているかのように、風に揺れていた。


粘つく糸が視界を遮り、

森の奥からこちらを窺う視線を、完全に遮断している。


「……ここ、いいな」


ツダが周囲を見回しながら言う。


「巣が目隠しになってる」

「少なくとも、外からは見えねえ」


ヤヒロも、気づく。


音も、匂いも、

この場所は“包まれている”。


「だったらさ」


ツダが、思い出したように続けた。


「トロルのドロップも、まだだろ?」


ヤヒロは、はっとする。


確かに。

あの激戦のあと、余裕がなかった。


「……忘れてた」


「まあ、そうなるよな」


責める様子はない。


ツダは、腰袋からもう一つのドロップを取り出す。


重く、鈍い光を放つ、歪んだ角。


トロルの咆哮角——

音を増幅し、衝撃波を生む、あの異常な器官。


「本来なら、音系の装備者に回すやつだが」


モノクル越しに、覗き込む。


「盾に食わせても、悪くねえ」

「衝撃に反応する系と、相性がいい」


ヤヒロは、盾を地面に立てる。


まだ、温もりが残っているような感覚。


「……まとめて、やるか」


「だな」


まず、巨大毒クモの毒針。


次に、トロルの角。


ツダが、静かに合図する。


「いくぞ」


盾が、それらを飲み込む。


——一度目。


キン。


——二度目。


キン。


盾の表面に、

わずかに波紋のような紋様が浮かび、消える。


ヤヒロは、息を詰めていた。


「……どうだ」


ツダが、再びモノクルをかける。


少しだけ、口角が上がった。


「いいぞ」

「音撃時の反射が乗った」

「衝撃波反転時に音撃時の反射を乗せて増幅してやれば、威力も増すぞ」

「そこに、接触時・痛覚毒付与(低確率)だ」


「やりすぎじゃないか?」


「使い捨てる盾だぞ?」


ツダは肩をすくめる。


「生き残るためなら、これくらいでちょうどいい」


ヤヒロは、盾を握る。


重さは、変わらない。


だが。


中に、

確かな“何か”が積み重なった感触があった。


「……ありがとう」


ぽつりと、そう言う。


ツダは、わざと聞こえなかったふりをして、明るく言った。


「さて」

「これで、次に来る連中には、ちょっとした地獄を見せてやれるな」



「……なあ」


ツダが、また明るい声に戻る。


「こういうのがあるからさ」

「ダンジョンは、やめられねえんだよ」


ヤヒロは、答えなかった。


でも。


さっきより、

少しだけ、胸の重さが軽くなっていた。


クモの巣の向こう側では、

何も、動いていなかった。


だが。


この静けさが、

長く続かないことだけは、全員が分かっていた。


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