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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス


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1章4節

毎日17:30投稿

その週の休日。

僕は、久しぶりに目覚ましより先に目を覚ました。


本来なら、一日中眠って終わる日だ。

身体は重く、関節は軋み、頭も回らない。

それでも今日は、布団から出てしまった。


理由は一つ。


部屋の隅に立てかけてある盾――

《使い捨てる盾》。


昨日から、ずっと引っかかっている。


「……浅いところだけだ」


誰に聞かせるでもなく呟き、最低限の準備を整える。

今日は単独行動。

免許さえあれば、浅層への単独潜入は許可されている。


転移門をくぐる。


浅層。

視界は明るく、通路も広い。

危険度は最低ランク。


現れるのは、ほぼスライムだけ。


ぷるり、と床から這い出してくる半透明の塊。

動きは遅く、攻撃力も低い。

普段なら、盾で弾きつつ三発ほど叩いて、ようやく倒せる相手だ。


僕は距離を詰め、盾を構えた。


――シールドバッシュ。


盾の縁で、正面から叩く。


ぐしゃり、と嫌な音がして、

スライムが一撃で霧散した。


「……え?」


思わず声が漏れる。


今の感触は、明らかにおかしい。

手応えが、軽すぎる。


二体目が現れる。

同じように、盾を振る。


一撃。


また、潰れる。


「……一発?」


息を整え、盾を見下ろす。

外見に変化はない。

だが、衝撃の通り方が、確実に違う。


三体目。

四体目。


結果は、すべて同じだった。


「……やっぱりだ」


スライムを倒したあと、床に何かが転がった。


錆びた短剣。

浅層ではありふれた、コモンドロップだ。


普段なら、バッグの底に放り込んで終わりの品。

だが今日は、違った。


僕は短剣を拾い、

少しだけ迷ってから――盾の縁に叩きつけた。


鈍い音。


短剣が、根元から折れた。


その瞬間――

盾が、わずかに重くなる。


「……」


もう一体、スライムが現れる。


盾を構える。

バッシュ。


衝撃が、さらに軽い。


「……そういうことか」


口に出した瞬間、考えが整理された。


この盾は、

他の装備を壊すことで、何かを取り込んでいる。


試しに、もう一本。

ドロップしたばかりの短剣を、同じように砕く。


盾が、また変わる。


受けた衝撃が、ほとんど腕に残らない。


「……武器を、使い捨ててる」


呟きながら、苦笑する。


使い捨てられる装備を壊し、

その分だけ、盾が強くなる。


説明書にも、性能欄にも、そんなことは書いていなかった。

だからこそ、誰も気づかなかったのだろう。


この盾は――

使うほど強くなるのではない。


壊すほど、強くなる。


普段なら、もう眠っている時間だ。

だがこの日は、違った。


僕は盾を抱えたまま、

次に何を壊すかを考えていた。


この検証で得た確信こそが、

この日、唯一の休息だった。


社宅に戻った僕は、盾を床に置いた。


ダンジョン外。

ここでは、モンスターも罠もない。


それでも――

盾は、まだ“生きている”感触があった。


試しに、浅層で拾った錆びたロングソードを一本、床に転がす。


盾を持ち上げ、

ゆっくりと、叩きつけた。


鈍い音。


ロングソードが折れ、

同時に、盾がわずかに重くなる。


「……外でも、いける」


喉の奥が、ひくりと鳴った。


ダンジョンの中だけの特殊効果じゃない。

この盾は――

場所を選ばず、装備を“食う”。


そこまで考えて、

ようやく、ある事実に行き着いた。


「……待てよ」


強化に必要なのは、

希少装備でも、高価な武器でもない。


壊していい、

いや――壊すための装備だ。


しかも、質は問わない。


思い出す。


会社の購買所。

夜遅くまで開いている、社員専用の売店。


ギルドより一割安い。

その代わり、置いてあるのはコモン装備だけ。

刃こぼれした剣、歪んだ斧、

耐久値の低い、使い捨て前提の盾や武器。


誰もが言う。


「質が悪い」

「使い物にならない」

「どうせすぐ壊れる」


――そう。

どうせ、すぐ壊れる。


僕は、思わず笑っていた。


強化素材として見れば、

あそこは、これ以上ないほど都合がいい。


・安い

・量がある

・壊す前提

・ダンジョン外で処理できる


しかも――

会社の給料は安いが、

購買所の利用だけは、制限されていない。


「……誰も、気づかないわけだ」


あの盾の名前。


《使い捨てる盾》。


きっと誰もが、

「誤植だ」「紛らわしい」「ハズレ装備」

そう判断して、見向きもしなかった。


だが違う。


これは、

使い捨て“られる”盾じゃない。

使い捨て“る”盾だ。


装備を。

価値を。

そして――

この世界の常識を。


僕は盾を立てかけ、

明日の予定を思い浮かべた。


夜勤明け。

購買所に寄る理由なら、いくらでもある。


どうせ、また盾が壊れたと言えばいい。

どうせ、誰も気にしない。


ただの、消耗品係だ。


「……材料は、いくらでもある」


静かな部屋で、

盾だけが、わずかに光を返していた。





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