2章1節
2章開始です。
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翌週、ツダの提案で、三人は習志野を離れた。
理由は、聞かされていない。
正確には、深くは説明されていない、だ。
「まあまあ、細かいことは現地で」
新幹線の座席で、ツダはそんなことを言っていた。
「富士はいいぞ。広いし、静かだし、山はでかいし」
「ダンジョンの話をしてるのか?」
ヤヒロが聞くと、
「半分くらい」
と、曖昧な返事。
ユイは会話に入らず、窓の外を眺めていた。
だが、山影が近づくにつれ、表情がわずかに引き締まっていくのをヤヒロは気づいていた。
宿泊先は、駐屯地から少し離れた場所に建つ新しめのリゾートホテルだった。
全面ガラス張りのエントランス。
内装は木目と白を基調にした落ち着いたデザイン。
ダンジョン利用者向けであることは明らかで、
フロント脇には簡易的な装備ロッカーと魔素測定用のゲートが設置されている。
だが、雰囲気はあくまで穏やかだった。
「……ここ、いい」
ユイが珍しく率直に言った。
「だろ?」
ツダは得意げだ。
「新しいし、変な客も少ない。
あと、壁が厚い」
「……音、漏れない?」
「正解」
ヤヒロは、ようやく腑に落ちた。
――ここは、人に聞かれたくない話をするための場所でもある。
部屋は三人とも別。
どれもダンジョン帰還者を想定した造りで、シャワールームは広く、床には魔素を吸収する特殊素材が使われている。
チェックイン後、ラウンジに集まった。
外には、夜の富士の山並み。
人工の灯りが抑えられ、星がよく見える。
「……寒い」
ユイが小さく言う。
「山だからなあ」
ツダはコーヒーを啜った。
「その分、変な噂も集まりやすい」
「また、曖昧な言い方」
「曖昧にしとかないと、楽しくないだろ?」
ヤヒロは苦笑する。
この男は、意図的に説明を後ろに回している。
だが、悪意ではない。
むしろ――
ここから先に備えさせるためだ。
翌朝。
富士駐屯地ダンジョン併設のギルドは、習志野より一回り大きかった。
天井が高い。
壁も厚い。
――奥まで、戦う前提の建物だ。
「さて」
ツダは、売店コーナーに一直線に向かう。
「まずは装備だな」
並ぶのは、富士ダンジョン産のレア装備。
どれも実戦向けで、癖が強い。
ヤヒロが値札を見て、思わず息を呑む。
「……高くないか?」
「富士価格♪」
ツダは即答した。
「あと、富士は低層が少なく、すぐに中層になる。
「だから、ここで売ってるのは『死なないための装備』だ」
まず、ヤヒロ。
防御寄りのレア革装備一式。
動きやすさを残しつつ、刃と衝撃に強い構成。
ツダはそれをまとめてカウンターに置いた。
「はい、更新」
「……あの」
ヤヒロが言いかけると、
「おっと」
ツダが指を立てる。
「それ、盾に食わせないでね?」
「分かってる」
「いや、念押し!」
モノクル越しに、盾を見る。
「これから先、装備としての防御力も必要になる」
珍しく、冗談ではなかった。
次は、ユイ。
軽量レア革装備。
射線を邪魔しない設計。
ユイは一通り確認してから、短く言う。
「……悪くない」
「でしょ?」
ツダは満足そうだ。
「お前は、隠れて生き延びるタイプだ。目立たない装備が一番強い」
支払いは、やはりツダ。
レシートが、長く吐き出される。
ヤヒロは、それを見ながら思った。
――習志野とは、明らかに段階が違う。
「……なあ、ツダ」
「ん?」
「なんで、ここまで?」
ツダは、一瞬だけ言葉を選ぶ。
それから、いつもの軽い調子に戻った。
「提案したのは俺だし?」
そして、少しだけ声を落とす。
「富士はな」
そこで、言葉を切った。
「まあ、次の話だ」
ユイとヤヒロは、視線を交わす。
理由は分からない。
だが――
ここから先が、本番なのだという予感だけは、確かだった。
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ギルド公認 鑑定結果票
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鑑定ID:G-FJ-42G5-377
鑑定日時:20XX/??/?? 08:15
鑑定者:曳舟 八紘
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鑑定対象:
冒険者一式装備(全身)※武器を除く
装備者:
曳舟 八紘
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【装備一覧】
頭部:
静穏の革フード
等級:レア
特性:
・打撃耐性(小)
胴部:
耐衝の革鎧
等級:レア
特性:
・斬撃耐性(中)
腕部:
機動の革アームガード
等級:レア
特性:
・盾動作速度補正
脚部:
革製レギンス
等級:コモン
備考:特性なし
足部:
潜行者の革ブーツ
等級:レア
特性:足音軽減
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ギルド鑑定局
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ギルド公認 鑑定結果票
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鑑定ID:G-FJ-42G5-378
鑑定日時:20XX/??/?? 08:24
鑑定者:市川 有加利
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鑑定対象:
冒険者一式装備(全身)※武器を除く
装備者:
市川 有加利
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【装備一覧】
頭部:
隠匿のフード
等級:レア
特性:気配遮断(小)
胴部:
無音の革ベスト
等級:レア
特性:行動時の装備音無効化
腕部:
精密操作の革グローブ
等級:レア
特性:反動軽減
脚部:
早駆けの革ショートパンツ
等級:レア
特性:移動時音量低減
足部:
風抜けの革ブーツ
等級:レア
特性:回避行動補正
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ギルド鑑定局
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1000PV達成しました!
1章完結と同時に達成とは、なんとも嬉しい限りです。
現在、3章を執筆中です。
引き続きよろしくお願いいたします。




