1章30節
1章完結まで毎日2話投稿中
……だったのですが、残り3話で1章完結のため、一気に投稿します。
毎日17:30投稿
ギルド本部一階、販売所。
依頼掲示板のざわめきから一歩奥へ入ると、空気が変わる。
ここに並ぶのは、
強いが、使われない装備。
性能が低いわけではない。
むしろ、数値だけ見れば優秀だ。
だが『現場』に合わない。
ガラスケースの中、レア等級の装備が静かに並んでいる。
「ここは、失敗作置き場じゃない」
ツダが、ぽつりと言った。
「現実に耐えられなかった理想の墓場だ」
モノクルのレンズが、淡く光る。
視線が、装備の列をなぞっていく。
「相変わらず、ロクなの残ってねえなぁ」
ツダが、楽しそうに言った。
最初に足を止めたのは、
小さな盾――バックラーだった。
直径二十センチほど。
軽量で、取り回しは良い。
【特性:被弾時、一定確率で攻撃対象を硬直させる】
ツダは、ケース越しに指を立てる。
「これ、性能だけなら悪くない」
ヤヒロも頷く。
「……小さすぎ」
ユイが答えた。
「半分正解」
ツダは即座に言った。
「そもそも、盾は武器扱いとしての持ち込みだ」
「だが、バックラーってのは、もう片手に別の武器を持って使う前提の盾だ」
「つまり、まともに戦えるようになるには、道中でのドロップを狙うしかない」
「それまでの武器として使うには、受け面積が足りないし、ドロップ任せなんてギャンブルもいいところだ」
次に、短剣。
【スキル:攻撃失敗時、次の一撃の威力上昇(CT:60秒)】
「これは?」
ヤヒロが聞く。
「単純」
ツダは笑った。
「失敗を前提に動ける奴がいない」
致命の一撃を外す。その一瞬の隙で、普通は終わる。
「効果は本物だ。でも使い手が、現実についてこれない」
次。
重たい籠手。
【特性:防御成功時、反動で装着者に微小ダメージ】
「……自傷?」
「そう」
ツダは肩をすくめる。
「防御性能は高い。でも長期戦になると、自分から死ぬ」
ヒーラー前提。
ソロ不可。
だから売れない。
さらに。
奇妙な形状の刃。
曲線を描く刀身。
だが――柄がない。
持つ場所が、どこにも存在しない。
【特性:継続微量回復】
ヤヒロは、思わず眉をひそめた。
「……刃、だけ?」
「そう」
ツダは、楽しそうに頷く。
「刃渡りは申し分ない。
切れ味も、耐久もレア相当」
モノクル越しに、情報をなぞる。
「しかも、回復付き。戦闘中、ずっと少しずつ体力が戻る」
「強いじゃん」
「使えればな」
ツダは、ケースを指で叩いた。
コン、と乾いた音。
「持った瞬間、手が切れる」
「……あ」
「柄がない。グリップも、鍔も、魔素保持部もない」
握れば怪我をする。
包帯で巻いても、装備扱いとならず力が伝わらない。
装着具を付けるなどの人工的な手を入れれば、特性は消失する。
「つまり――」
「戦闘に使えない回復アイテム」
攻撃できない。
防御にも使えない。
持っておくだけで効果はあるが、携行中に危険。
「回復性能は本物だ」
ツダは断言する。
「でも、現場で振れる奴がいない」
ユイが、ぽつりと言った。
「……置物」
「正解」
ツダは笑った。
「しかも、ダンジョン内で落としたら即アウトだ」
刃だけの剣。
拾い損ねれば、自分か仲間を傷つける。
「だから売れ残る」
理屈は単純だった。
性能は優秀だが、運用不能。
他の装備と同じだ。
ここにある装備は、
理屈上は強いが、現場では死ぬものばかりだ。
ユイは、少し離れた場所で黙って聞いていた。
「……普通の人は、選ばない」
「だろ?」
ツダは笑う。
「だから残ってる」
棚一列分。同じような理由で、すべて売れ残り。
ツダは、途中で足を止めない。
吟味しない。厳選もしない。
全部、見る。
「……なあ」
ヤヒロが言った。
「買うのは、さすがに――」
「全部だ」
即答。
「性能を使うんじゃない」
ツダは、レンズ越しにヤヒロを見る。
「“盾に載せる”ために買う」
販売員が、遠巻きに様子をうかがっている。
明らかに異常な客だ。
ツダは、手を上げた。
「すみませーん」
販売員が来る。
「この棚――」
一拍。
「全部、お願いします」
販売員の顔が、固まった。
「用途は……?」
「研究」
即答だった。
財布を取り出す動作に、迷いがない。
「政府の経費って、便利だよなあ」
その一言で、販売員はすべてを察した顔になる。
レジが、異様な速度で打ち出される。
――レア装備
――レア装備
――レア装備
レジが動き出す。
レア装備。
売れ残り。
曰く付き。
それらが、
まとめて“処理”されていく。
値段の桁が、明らかにおかしい。
高級車1台分はあるだろう。
ユイが、小さく言った。
「……目立つ」
「目立つねえ」
ツダは気にしない。
「でもな。
正規ルートで買ってる限り、文句は言わせない」
最後の一品を受け取り、ツダは振り返った。
「さて」
その視線が、ヤヒロの盾に向く。
「今日の実験台、頼むわ」
ヤヒロは、思わず盾を見下ろした。
――これまでだって十分おかしい。
――もう戻れないところまで来ている。
「……壊れないんだろうな」
「壊れたら?」
ツダは、悪戯っぽく笑った。
「その時は、もっと面白い」
その瞬間、ヤヒロは理解した。
この男は、盾を強くしたいんじゃない。
“限界”を見たいだけだ。




