1章29節
1章完結まで毎日2話投稿中
前話を未読の方は、前話からご拝読願います。
今回は、ツダ目線の短章です。
毎日17:30投稿
端末の画面に、文字列が並んでいた。
【件名:習志野駐屯地ダンジョン/特異装備確認報告】
ツダは、椅子にもたれたまま、モノクルを外す。
目の奥が、じんと痛んだ。
「……やれやれ」
報告書の一次ドラフトは、すでに自動生成されている。
現場で取得した映像、魔素反応ログ、鑑定結果。
すべてが過不足なく、整然と。
――だからこそ、厄介だ。
ツダは、スクロールを止める。
【対象1:レジェンダリー装備《微睡の弓》
・魔素反応:国家管理基準を大幅に超過
・挙動:矢の遅延発射、必中特性を確認】
ここは、消さない。
いや、消せない。
弓はすでに“失われた国家資産”だ。
存在を伏せる余地はない。
ツダは、次の項目へ指を滑らせた。
【対象2:特異盾装備(レア等級相当)
・確認特性:複数(切断性能付与、衝撃反転、眷属召喚等)
・異常挙動:——】
カーソルが点滅する。
ツダは、しばらく画面を見つめた。
吸収。
破壊でも、合成でもない。
装備が、装備を取り込む現象。
理論的裏付けは皆無。
再現性も不明。
だが――
「……報告した瞬間、接収対象だな」
誰の、とは書かない。
だが、分かっている。
政府が動けば、
盾の持ち主は“保護”という名の隔離を受ける。
ツダは、静かに削除キーを叩いた。
【対象2:特異盾装備(レア等級相当)
・確認特性:複数
・異常挙動:不明】
淡々と。
嘘は書かない。
だが、書かないことはできる。
「特性が多いレア装備、で止めときゃ……
研究班も首かしげるだけだ」
次の行。
【備考:特性は装備固有のものと推察。
現時点で進化・変質・外部干渉の兆候なし】
これも、事実だ。
少なくとも、今見えている範囲では。
ツダは、保存ボタンの上で一瞬だけ指を止めた。
「……弓も盾も、
どっちも危ない」
だが。
「先に世界を壊すのは、
多分――盾のほうだ」
小さく息を吐き、保存する。
送信完了。
端末を閉じると、室内は静かだった。
ツダはモノクルを机に置き、
そのまま天井を見る。
「現場判断、っと」
それが正解かどうかは、分からない。
だが少なくとも――
今は、まだ見せる段階じゃない。
あの盾も、
あの男も。
そしてきっと、
あの二人が並んで立つ“形”も。
ツダは立ち上がり、ジャケットを羽織った。
次に潜るときは、
もう少し近くで見てやる。
削った行の“続き”が、
いつか書けなくなる日まで。




