1章24節
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沈黙を破ったのは、ユイだった。
「……ひとつ、聞いていい?」
声は低く、淡々としている。
だが、その視線は真っ直ぐツダを射抜いていた。
「……なぜ、没収しない」
言葉は短い。
だが、意味は重い。
レジェンダリー装備――しかも政府管理下の武器を盗んだ張本人だ。
本来なら、この場で拘束されていてもおかしくない。
ツダは、一瞬だけ目を瞬かせたあと、肩をすくめた。
「いい質問」
軽い調子だが、答えを誤魔化す気はなさそうだった。
「理由はシンプルだよ」
モノクル越しに、ユイを見る。
「微睡の弓の実践データが、圧倒的に足りない」
ユイの表情が、わずかに強張る。
「研究施設で研究員に撃たせるのと、
実戦で生き残るために使われるのとじゃ、
出てくる数字の意味が全然違う」
ツダは指でテーブルを叩いた。
「我々が欲しいのは、『安全な理論値』じゃない」
視線が鋭くなる。
「人が必死になっているその現場で振るわれた結果だ」
だからこそ。
「ダンジョンに住み着けるだけの技術をもつ君に使わせることは――」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「……正直、回収するより価値がある」
ユイは、何も言わなかった。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、その目が、ほんの少しだけ冷えた。
「……利用してる」
「お互いさま」
ツダは即答した。
「俺はデータが欲しい。
君はその弓が欲しい」
「利害は一致してる」
その空気を切ったのは、ヤヒロだった。
「なら、こっちからも条件を出す」
ツダの眉が上がる。
「ほう?」
「そのモノクル」
ヤヒロは、はっきりと言った。
「俺たちのためにも使わせてもらう」
店内の空気が、わずかに揺れた。
「鑑定結果は、隠すな」
「危険な特性やスキルがあれば、事前に共有する」
ヤヒロは、一拍置く。
「……俺たちが、知らないまま使われるのが一番困る」
ツダは、面白そうに口角を上げた。
「いいねえ」
だが、まだ笑っている。
「それだけ?」
ヤヒロは、首を横に振った。
「もうひとつ」
視線を逸らさない。
「俺たちには、絶対に嘘をつくな」
一瞬。
ツダの笑みが、止まった。
ほんの一瞬だけ。
だが、確かに。
「情報を伏せるのはいい」
「言えないことがあるのも、理解する」
ヤヒロは、言葉を選びながら続ける。
「でも、言ったことが嘘だった場合――」
盾の異常性に、ユイの弓に、自分たちの命に。
「その時点で、協力関係は終わりだ」
店内のBGMが、やけに間延びして聞こえた。
ツダは、しばらく黙っていた。
モノクルに触れ、
椅子にもたれ、
そして――。
「参ったな」
大げさにため息をついた。
「ほんと、扱いづらい二人だ」
だが、その声色は、どこか楽しそうだった。
「いいよ」
あっさりと言う。
「嘘はつかない」
「少なくとも、
君たちの命に関わる部分ではね」
片目を閉じる。
「モノクルも、必要なときは使う」
「鑑定結果も、共有する」
そして、指を鳴らした。
「これで、条件は対等だ」
ヤヒロは、息を吐いた。
ユイは、短く言う。
「……約束」
「約束」
ツダは、軽く手を上げた。
こうして。
盾の異常性を抱えた男。
レジェンダリーを盗んだ女。
胡散臭い公安。
歪な三人の、仮初めの協力関係が成立した。
そして、津田は楽しそうに付け足す。
「その代わり、面白いもん見せてよ」
ファミレスの照明は、相変わらず明るい。




