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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
1章:はじまり

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22/56

1章22節

毎日17:30投稿

ファミレスのドアが閉まった瞬間、

ダンジョン特有の重たい空気が、嘘のように消えた。


昼時を外しているせいか、店内は空いている。


油の匂いにどこか間延びしたBGMが、

先ほどまでの緊張とあまりにもかけ離れていた。



ヤヒロは、トレイに乗った定食を前にして、ようやく肩の力を抜いた。

向かいでは、ユイが無言でフォークを動かしている。


量は多め。

食べる速度は早い。


――生き残るための食事、という感じだった。


「地上、久しぶり?」


ヤヒロが聞くと、ユイは一瞬だけ考えてから、首を横に振る。


「……数週間ぶり」


「住み込み、だもんな」


肯定も否定もしない。

ただ、ハンバーグを一口で切り分ける。


しばらく、食器の音だけが続いた。


「これから、どうする?」


切り出したのは、ヤヒロだった。


会社は辞めた。

一人で潜る覚悟も決めた。

だが、ユイは違う。


政府に追われる身。

レジェンダリーを盗んだ張本人。


ユイは、フォークを止めた。


「……一人は、食料が不安定」


「つまり?」


「……しばらく、組むのが合理的」


相変わらず、感情の起伏が読めない。


「合理的、ね」


ヤヒロは苦笑した。


「その前にさ。さっきの測定――どうして大丈夫だった?」


ユイの目が、わずかに細くなる。


「……普通、アウト」


「だよな」


「……でも、誤魔化せる」


あっさりと言った。


ヤヒロの箸が止まる。


「そんな簡単に?」


「……簡単じゃない。でも、知ってる」


ユイは、水を一口飲んでから続けた。


「……測定器は、中で吸収された魔素を拾う」


「放出?」


「……戦闘、装備使用、スキル発動。全部、魔素を吸収する」


なるほど、とヤヒロは内心で頷いた。


「……だから測定前、魔素を放出する」


「放出?」


「……外に出てから、武器を使って、魔素を一度吐き切る」


理屈は単純だった。


ピークを下げる。

異常値を平坦にする。


「もちろん、完全には消えない」


「でも、管理対象ラインは下回れる」


ユイは、静かに頷いた。


「……やりすぎは、逆に怪しい」


「加減が必要、か」


「……経験が要る」


その瞬間だった。


いつの間にか席に座っていた男が、

ドリンクバーのコーヒーを啜りながら、

何の前触れもなく言った。


「あー、なるほどねえ」


軽い。

やけに軽い声だった。


「いやあ、ファミレスって落ち着くよね。

政府の食堂より、よっぽど人間らしい」


軽い声だった。

場違いなほど、気の抜けた調子。


二人が顔を上げると、

いつの間にかテーブルの端に椅子が一つ増えている。


若い男。

細身で、整った顔。

片眼には、妙に主張の強いモノクル。


「いやあ、静かにしてたつもりなんだけどさ。

どうしても聞こえちゃって」


肩をすくめる。


「魔素測定器の誤魔化し方さ」

「今どき、それ知ってる人、そう多くないんだよねえ」


「……誰?」


ユイの声が、わずかに低くなる。


「ん?ああ、ごめんごめん」


男は両手を上げる。


「怪しいよね。

自分でもそう思う」


一拍置いて、にやっと笑った。


「安心して。今日は捕まえに来たわけじゃないから」


「……仕事じゃない?」


「半分くらい?」


曖昧に言う。


「名乗るなら……まあ、公安の人間」

「役所勤めの、ただの社畜ですよ」


空気が、一段冷えた。


ユイの膝下で、かすかに動きがあった。


「うわ、怖い目で見ないで」


男は慌てたふりをする。


「大丈夫大丈夫。ここ、ファミレスだし」

「床に転がすとか、そういうの禁止されてるから」


そう言って、店内をぐるっと見回す。


「で、本題ね」


今度は、モノクル越しにユイを見る。


「――微睡の弓」


軽く言った。

だが、ユイの表情がわずかに揺れる。


「あ、いや」


男はすぐに続ける。


「取り返しに来た、とかじゃないよ。今日はほんとに確認だけ」


「……何の」


「誰が持ってるか。それだけ」


そして、視線をヤヒロに滑らせる。


「ついでにさ」


楽しそうに言う。


「その隣の人が、どこまで『普通じゃない側』なのかも」


ヤヒロの背中に、じわりと冷たいものが走る。


「誤解しないでほしいんだけど」


男は笑顔のまま、声を落とす。


「別に、敵に回したいわけじゃないんだよね。正直言うとさ――」


指でモノクルを軽く叩く。


「仲良くできた方が、俺の仕事が一番ラク」


胡散臭い。

だが、脅しの色はない。


「ここでの話はさ」


メニューを一枚引き寄せて、


「ぜーんぶ雑談扱い。

議事録にも残らない」


ぱら、とページをめくる。


「だから、安心して?」


まるで、

本当に最初からそこに座っていたかのように。


そう言いながら、

視線だけは――

ヤヒロの背中に向いている。


「で、君」


ストローをくるくる回しながら、


「その盾さ」


ヤヒロの指先が、わずかに強張る。


「……ちょっと、情報が多くない?」



ストックが2章に到達しました。

それを祝して、1章完結まで毎日2話投稿します。

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