1章21節
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転移の光が収束すると、
ヤヒロの視界に見慣れた景色が戻ってきた。
習志野駐屯地ダンジョン直結、
地上側ギルド分所。
コンクリート打ちっぱなしの壁。
転移門を囲うように設置された金属製のガードレール。
そして、その外側――
必ずいる者たち。
ギルド職員こと、自衛隊のダンジョン専門部隊員。
「帰還者二名、確認」
淡々とした声。
番号札が掲げられ、
魔素反応測定器が一斉に向けられる。
魔素。
ダンジョン内部に満ちる、正体不明のエネルギー。
生物、モンスター、装備品。
そして人間でさえ、
ダンジョンに長く関わるほど、体内や装備に魔素を蓄積していく。
その量と質は、
戦闘経験や装備の等級、
さらには――異常な力を持つ装備の有無によって、大きく変動する。
魔素反応測定器は、
それを数値として可視化する装置だ。
高すぎれば、危険視される。
低すぎれば、未熟者と見なされる。
そして何より――
規格外の反応は、即座に“管理対象”として記録される。
ヤヒロは、自然に盾を背負い直した。
ごく普通の動作。
何度も繰り返してきた、会社員時代の癖。
(……落ち着け)
装備品はドロップしない。
登録外の装備を所持していても、
即座に拘束されることはない。
だが――
見られる。
それだけで、危険だ。
視線の端で、
ユイの様子を窺う。
フードを深くかぶり、
弓は持っていない。
いや、
持っていないように見える。
魔素反応測定器が、
彼女の前で一瞬だけ数値を跳ね上げた。
「……?」
担当官が、眉をひそめる。
だが、数値はすぐに落ち着く。
基準値内。
「……誤差か」
そう判断され、
チェックは通過した。
ヤヒロは、内心で息を吐く。
(あれ、弓を出してなくても反応するのか)
(やっぱり、危険物だな)
ギルドカウンター前。
簡易的な仕切りと、
防弾ガラス越しの受付。
「本日の潜入ログ、提出お願いします」
ヤヒロは、
携帯端末を差し出す。
潜入時間。
階層。
討伐数。
意図的に薄くした記録。
レア装備の取得欄は、空白。
嘘ではない。
持ち帰っていないのだから。
「随分、浅いですね」
受付が言う。
「ソロですか?」
「はい」
一瞬だけ、
値踏みするような視線。
だが、盾を見ると、
興味を失ったように目を戻す。
「初心者の方は、あまり無理をなさらず」
「ありがとうございます」
形式的なやりとり。
横ではユイが受付をしている。
ギルド職員が、端末を操作する。
その間も、ユイは周囲を見ていない。
だが、すべてを把握しているように見えた。
監視カメラや隊員の立ち位置、出入口の数など。
まるで、地形を読むように。
「確認完了しました」
「……うん」
必要最低限。
それ以上、何も聞かれない。
――聞かれないように、
振る舞っている。
ギルドを出ると、
外はもう夕方だった。
フェンスの向こう。
一般人立ち入り禁止区域。
監視塔の上で、
誰かがこちらを見ている。
「多いね」
ヤヒロが呟く。
「……増えてる」
ユイも、同意した。
「……弓の反応。最近、消えたから」
ヤヒロは、足を止めた。
「消えた?」
「……追跡用の魔素標識」
淡々と。
「……ずっと、見られてた」
「今は?」
「……たぶん、混乱」
一度、完全に消失した信号。
再出現もしない。
それは、最悪の異常だ。
「……だから、しばらくは地上」
ユイは、そう言った。
「……ダンジョン、もう安全じゃない」
ヤヒロは、フェンス越しにダンジョンの入口を振り返る。
管理。
監視。
安全。
それらはすべて、
表向きの顔だ。
「ああ」
盾を背負い直し、
歩き出す。
「とりあえず飯だな」
ユイは、少しだけ間を置いて。
「……うん」
短く答えた。
だがその背中には、
はっきりとした警戒が残っていた。
地上は、ダンジョンとは違う危険に満ちている。
そして――
鋭く光る目は、確かに二人を追っていた。




