1章13節
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その日は、最初から数が多かった。
通路を曲がるたび、
甲高い鳴き声が増えていく。
二体、三体と、気づけば、背後にも足音がする。
「……囲まれてるな」
右手に行けば逃げ道はある。
だが、わざわざ使う必要はなかった。
ヤヒロは、盾を構えた。
最初のコボルトが飛びかかる。
盾を振る。
切れる。
倒れる。
次。
踏み込んでくる個体には、
真正面から盾を叩きつける。
衝撃と同時に、盾の縁で裂く。
二体が、ほぼ同時に崩れ落ちた。
「……早い」
自分でも思う。
以前なら、一体倒すごとに息を整えていた。
今は違う。
盾を振る。
切る。
受ける。
返す。
その繰り返しだ。
コボルトたちは、明らかに混乱していた。
仲間が、近づくたびに倒れていく。
距離を取ろうとする個体。
無理に突っ込んでくる個体。
どれも、対応できる。
盾は、軽い。
いや、軽く感じられる。
実際には、何度もレア装備を食わせたことで、
確実に重くなっているはずなのに。
衝撃が、体に残らない。
「……次」
ヤヒロは、淡々と前へ出た。
数十体。
正確な数は、分からない。
ただ、通路に転がる死骸と、
消えていく光の数が、それを物語っていた。
戦闘が終わったとき、
息は乱れていなかった。
代わりに、
足元にはドロップが散らばっている。
レア装備の光が、
一つ、二つ――
いや。
「……五本以上か」
短剣。
槍。
斧。
そして、見慣れない形状の盾。
円形だが、
縁が厚く、
表面に浅い波紋のような模様が刻まれている。
ヤヒロは、それを手に取った。
重い。
だが、
嫌な重さではない。
鑑定は、帰還後だ。
だが、
直感が告げていた。
――これは当たりだ。
他のレア装備も、バックに収める。
数は十分。
これ以上、
長居する理由はなかった。
帰還。
ギルドで鑑定を行う。
レシート状の紙を受け取り、
人目を避けて確認する。
問題の盾。
記載されていたのは――
【スキル:衝撃波反転】
・盾で受けた打撃の衝撃を、一定割合で攻撃方向へ返す
(クールタイム30秒)
「……なるほど」
殴られて、
その力を返す。
盾らしい。
そして――
この盾に、食わせれば。
ヤヒロは、その夜、
迷いなく行動した。
自宅。
「使い捨てる盾」を床に置き、
レア盾を手に取る。
一瞬、
惜しいという感情がよぎる。
だが。
キン。
音は、いつもより重かった。
盾は、確かにそれを“食った”。
翌日。
再鑑定。
レシートに印字された文字を見て、
ヤヒロは、静かに息を吐いた。
【特性:切れ味上昇】
【スキル:衝撃波反転】
盾が、
完全に別物になっている。
受ければ、返る。
切れば、通る。
三十秒に一度とはいえ、
真正面から受けた一撃が、そのまま反撃になる。
数十体を相手にする戦場で、
これがどれほどの意味を持つか。
「……もう、前に立つだけの盾じゃないな」
これは、
戦うための盾だ。
数を屠り、
レアを集め、
そして――
ヤヒロは、ようやく理解する。
この盾は、
数で押される戦場ほど、真価を発揮する。
習志野駐屯地ダンジョン。
ここは、
彼にとって、
間違いなく“狩り場”になりつつあった。




