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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
1章

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10/39

1章10節

毎日17:30投稿

二度目の習志野ダンジョン侵入。

ヤヒロは、無闇に前へは進まなかった。


一度目の潜入で、嫌というほど思い知らされた。

ここは、ただモンスターを倒せばいい場所ではない。


まずやったのは、

戦うことではなく、見ることだ。


通路の幅や分岐の位置、行き止まりの多さ。

壁の傷、床の削れ具合。

天井の高さと、湿気の溜まりやすい場所。


そして何より、人の動き。


冒険者は、モンスターよりも分かりやすい。


足音が重い者。

装備の擦れる音を隠そうともしない者。

あるいは、逆に気配が薄すぎる者。


どれも、ここのダンジョンに慣れた強者の動きだった。

迷いがない。

警戒が、習慣になっている。


近づいてはいけないサイン。

視界に入った時点で、もう距離が近すぎる。


「……潜るなら、ここじゃない」


小さく呟き、進路を変える。


ヤヒロは、浅層の中でも

あえて面倒な構造のエリアを選ぶことにした。


袋小路が多く、

通路も入り組んでいる。

宝箱の配置も悪く、

地図効率だけを考えれば誰も好まない場所だ。


企業時代なら、

真っ先に「ハズレ」と判断され、

ルート候補から外されていただろう。


だが。

だからこそ、人が少ない。


人が少ないというだけで、

このダンジョンでは何よりの価値になる。


戦うのは、音が吸われる場所だけにした。


スライムを見つけても、

すぐには仕掛けない。


こちらに気づかれない距離を保ち、

ゆっくりと誘導する。


天井の高さ。

壁の数。

曲がり角の角度。


反響が弱くなる地点まで引きつけてから、

盾を振る。


ゴン。


鈍い音が、

壁に吸い込まれるように消えた。


スライムが潰れ、

時折ドロップが転がる。


拾うのは、必要最低限。

素材一つ、武器一本でも、

袋が膨らめば、それだけで目立つ。


目立てば、

狙われる理由になる。


次に行ったのは、

人の通らないルートを覚えることだ。


人が通った痕跡は、すぐ分かる。


床の汚れ。

削れた石。

壊された罠。

倒されたモンスターの残滓。


どれも、

「誰かが先にここを通った」という明確な証拠だ。


ヤヒロは、

それを避ける側に回った。


人の匂いがする場所は、

遅かれ早かれ、また人が来る。


「宝箱がある=人が来る」


ならば、

宝箱がないルートを選ぶ。


レアは出ない。

効率も悪い。


だが、生きて帰れる。


それでいい。


今は、

“生き残る動線”を作る段階だ。


通路の先で、

別のソロ冒険者と鉢合わせた。


互いに、止まる。


距離、五メートル。


視線が交錯する。


相手の視線が、

ヤヒロの盾を見る。


一瞬。

ほんの一瞬だけ。


値踏みするような目。


そして、

興味を失ったように視線が逸れた。


コモン盾。

革装備。


特別なものは、何もない。


「旨味がない」


そう判断されたのが、

手に取るように分かった。


ヤヒロは、何も言わず後退した。


相手も、追ってこない。


緊張が、静かに解ける。


「それでいい」


胸の内で、そう繰り返す。


浅層で生き残るコツは、強さだけじゃない。


人間相手に、

価値を見せないこと。


派手な戦闘をしない。

レアを見せない。

長居しない。


そして――

「こいつを殺しても得るものがない」と

思わせること。


盾を構えながら、

ヤヒロは静かに確信する。


このダンジョンでは、

モンスターよりも、

冒険者のほうが、よほど狡猾だ。


そして、

自分もまた――

その一員になりつつある。


だからこそ――

この盾の価値を、

誰にも悟らせてはいけない。


慎重に、

慎重に。


そうして、

ヤヒロは初めての帰還を果たした。


バッグの中身は、

コモン素材と、数本の武器。


派手さはない。

だが、十分だ。


誰も、

自分の背中を見ていない。


ヤヒロは、無言で転移門へ向かった。


今日は、勝った。


ほかの冒険者から見れば、

大した稼ぎもない、

取るに足らない一日を過ごした初心者に見えるだろう。


だが――

生きて帰った。


それが、ヤヒロにとっては、

最初の大きな勝利だった。


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