1章1節
初投稿です。
20XX年、全世界で同時多発的にダンジョンが出現した。
発生地点は、なぜか各国の軍事拠点に集中していた。
日本でも例外ではなく、全国各地の自衛隊駐屯地にダンジョンが発生したのである。
事態を重く見た日本政府は、直ちに自衛隊を派遣し、内部調査を開始した。
――結果は、惨憺たるものだった。
第一次調査に投入された部隊は、侵入直後に壊滅。
ダンジョンから生還した隊員は、一人として存在しなかった。
しかし、その直後、不可解な事実が判明する。
ダンジョン内で死亡したはずの隊員たちが、例外なく、自身の寝室で目を覚ましたのだ。
以後も調査隊は繰り返し送り込まれ、その過程でダンジョンに関する以下の特性が明らかとなった。
・ダンジョン内で死亡した場合、侵入直前に三時間以上の睡眠を取っていた場所で復活する。
・持ち込める装備は各自一式のみ。
・ダンジョン内で死亡した場合、復活時の装備は持ち込み時と完全に同一の状態となる。
・ダンジョン産アイテムは、それを所持したままダンジョン外へ生還した場合にのみ持ち出せる。
これらの条件は各国間で速やかに共有され、
世界中のダンジョンが、すべて同一のルールに基づいていることが確認された。
つまり、現実世界に突如として出現したのは――
「死に戻り」を前提とした、ローグライト型ダンジョンだったのである。
なお、調査が進むにつれ、戦闘に関する奇妙な法則も判明していった。
ダンジョン内では、銃火器や爆薬といった重火器の効果が著しく低下する。
拳銃や小銃はもちろん、戦車砲やミサイルに至るまで、理論上の威力をほとんど発揮できなかった。
一方で、ナイフや剣、槍といった近接武器は、現実世界と同等程度の効果を示した。
この法則は、持ち込み装備の選択にも大きな影響を与えた。
理屈上は戦車や装甲車といった兵器も『装備』として持ち込み可能であるものの、
莫大な準備とリスクに見合う戦果は得られない。
現在では、そうした試みは研究目的の場合を除き、全く採用されなくなった。
ダンジョンは、圧倒的に近接戦闘者向けの戦場だったのである。
また、武器に対する価値観も大きく変わった。
現実世界で製造された武器よりも、
ダンジョン内で生成・入手される武器の方が、
ダンジョン内においては明らかに高い戦闘性能を示すことが確認されたのだ。
その結果、ダンジョン産武器は国家や企業、
そして冒険者たちにとって貴重な存在となり、
市場では高値で取引されるようになった。
ダンジョン発生から数十年を経た現在、
ダンジョンへの立ち入りは各国で管理されている。
日本においては免許制が導入され、
十八歳以上で適性審査を通過した者のみが、
合法的にダンジョンへ入ることを許されていた。
とはいえ、「死に戻り」というセーフティが存在する以上、
日本における免許取得の条件は、それほど厳格なものではない。
必要最低限の身体能力と、
一定の人格テストをクリアさえすれば、
誰でも免許を取得することができる。
こうして、ダンジョンに挑む者たちは、
いつしか明確に二つの層へと分かれていった。
ひとつは、生還を最優先とする者たち。
彼らは深層を目指さず、危険な敵とも極力戦わない。
近接武器と最低限の防具を携え、
異変を察知すれば即座に撤退する。
ダンジョンの特性上、無理をしなければ致命的な状況に追い込まれることは少ない。
そのためこの層は、死亡による「死に戻り」すら極力避け、
一度も死なずに帰還することを、最も重要な成果と考えていた。
主な目的は、調査データの収集や、
浅層で偶然得られるアイテムの持ち帰り。
大きな利益は望めないが、
安定して現実世界へ戻れることから、
初心者や副業目的の者、研究者らといった
長期的にダンジョンと付き合う者の多くが、この立場を選んでいる。
もうひとつが、稼ぎを目的とする者たちだ。
彼らはより深く、より危険な層へと進み、
強力なモンスターや希少なドロップを狙う。
当然、死亡のリスクは格段に高まる。
だが、死に戻りという救済措置が存在する以上、
彼らはそれを「必要経費」と割り切り、
何度も命を賭けて挑戦を繰り返す。
成功すれば、ダンジョン産装備や希少素材を持ち帰ることができる。
玉石混合とはいえ、その中には市場で高く評価される品も存在し、
それを目当てに、企業所属のチームや専業の冒険者たちがしのぎを削っていた。
もっとも、この二つの層は完全に断絶しているわけではない。
多くの冒険者はまず生還目的で経験を積み、
装備と知識、そして覚悟が整ってから、稼ぎ目的へと足を踏み入れる。
逆に、稼ぎ目的だった者が、
大きな損失や心身の限界を理由に、
生還重視へと方針を切り替えることも珍しくなかった。
ダンジョンとは、挑戦者の力量と欲望を如実に映し出す場所だ。
そして、どちらを選ぶかは、常に個人の判断に委ねられている。
――少なくとも、建前上は。
これは、ユニーク装備を手に入れてしまった僕が、
この不思議なダンジョンに挑むことになった――
その冒険の記録である。




