成長型装備
「おやっさん、邪魔するぜ!」
「なんだヨーゼフ、忘れ物か?お前さっきこれから街に出るって言ってただろ」
「ハッハッハ、何と驚け!客を連れてきたぞ!しかも俺達の装備がカッコいいって絶賛してくれた駆け出し冒険者だ!愛想よく接客してやってくれよ!」
「ハァ!?」
「オーホッホッホ!親方、残念でしたわね〜?私達を慕ってくれる後輩が、この通り出来ましたの〜!名前はサンズくんでーす!ヤ・ク・ソ・ク、覚えてらっしゃいますわよね〜?」
親方の頬を人差し指でうりうりするユンリーさん。
ヨーゼフさんもテンション高いし、約束がどうとか言ってるから、この店はお客を紹介したら割り引きサービスがあるのかもしれない。
「おい!コイツらの言ってる事は本当か!?脅されてんじゃねーだろうな!?」
「大丈夫です!お二人の武器も防具も使い込まれてるのに手入れが行き届いてて、デザインもすっきりしててカッコいいと思います!装備出来るなら装備したいです!」
三人とも声が大きいから、つられて選手宣誓並みの大声で答えてしまった。
「かぁ~!嬉しいこと言ってくれるじゃねーか!よし!先ずは装備を出してみろ!性能を見てやろう!」
「大鎌なんですけど、ここで出して大丈夫ですか?」
「おう、じゃあ奥行くか!だっはっはっ!ワシにもファンが出来るタァ、アイツらにも自慢しねーといけねェーな!」
親方はドワーフなのかな?
髭がもじゃもじゃでがっちり体型、背丈は百三十センチくらい。
焦げ茶のつなぎのまくった袖から見える腕は、パンチ一つで壁が凹みそうなくらい太い。
通されたのは中庭だった。
中央に常緑樹が植えられており、レモンみたいな実がなっている。
十人は余裕でバーベキュー出来そうな広さで、井戸や小さめのテーブル、二人掛けのベンチもあり、ここでキャンプ気分を味わえそうだった。
寂れた外観とは違い、鍛冶場や作業場などもあるそうで、中はかなり広そうだ。
「じゃあ出しますね」
最初はステータス画面から取り出したけど、認識してからは思い浮かべるだけで取り出せるようになったのだ。
現れたのはゲームの死神が持ってそうな大鎌そのもの。
柄が身長くらいあって、草刈りもできそうなカーブの刃がついてて、重くはないけどある程度の広さがないと振り回せなさそう。
刃の色が腕輪と同じ赤銅色なのが気になるけど艶々煌めくので錆びてはいない。
「ほぉー、こりゃまた良いやつを貰ったじゃねーか」
「おやっさんが褒めるなんて珍しいな」
「サンズ、こりゃ成長型の武器だ。しかも持ち主を選ぶから、お前さん以外には扱えん。今は初心者用の武器と変わらんが、成長すれば鉄でも何でもスパッと切れるようになる。一生モンの武器だ。大切にしろよ。防具は何だ?ローブか?」
「はい、ローブです」
暗黒のローブ!
お願い!
全裸はイヤだ!
服の上から着たいんだ!
オレ願いは届いたようで、無事服の上にローブを装備出来た。
「──こっちも成長型か。……なあ、サンズ。答えたくなけりゃ別にいいんだけどよ、お前さん迷い人か?」
突然の鋭い指摘にびっくりする。
もしかして称号みたいに異世界がどうとか書いてたのかな?
「おやっさん!マナー違反だぞ!」
「んなこと分かっとるわ!だがな、ここまでの逸品見せられたァ黙ってらんねェーのよ!祝福付きの成長型装備だぞ!?血が騒いで仕方ねェ!」
ムキッと何故かポージングする親方は、まるでパンプアップしたかのように、一回り大きく見えた。
「祝福の効果は?」
ヒートアップしていく中庭に、冷静なルミエールの声。
「お、おう。この大鎌が軽量、スキル補助、不懐で、ローブが防御力上昇、寒暖耐性上昇、不懐だ。一つでもすげェーのに六つ、しかも成長すればもっと増えるかもしれん!興奮するだろ!なぁ!?サンズ!」
ちょっと冷静になったが再びマッスルポーズをする親方。
サイドチェストされても反応に困る。
ローブに寒暖耐性が付いたのは全裸ローブの前か後か気になるけど、祝福と付与魔法が似てると思うのはオレだけ?
「親方、祝福と付与魔法は違うんですか?」
「全く違う!先ず性能が段違いだ!デバフでも消えんし、付与魔法も妨げん!しかもマスクデータで表に出ない効果が無数にあるんだ!まさに逸品!」
親方は、溢れ出そうな思いをマッスルポーズで表しているのかな?
「マスクデータ?俺【商人】だけどそんなの聞いたことないよ?」
「先ずはマイスターになれ。ワシにはそれしか言えん」
「マイスター!?おじさん、マイスターなの!?ヤバっ!何でそんな存在がこんな所にいるわけ!?」
「隠居よ、隠居。終わらない弟子入り志願に嫌気が差して、こんな辺鄙な町に隠れ住んでるの」
「だからこの店は、おやっさんの装備に呼ばれるか、店の常連に紹介されなきゃ辿り着けないんだ。ちなみに俺はEランクになった時にこの剣に呼ばれたんだ!」
ヨーゼフさんが腰に下げた剣を自慢気に叩く。
愛着を持っているのがよく分かる。
「私はヨーゼフのオマケで来れたの。あれもこれもと勧められて、店を出る頃には財布がすっからかん。ヨーゼフなんかツケで買ったからしばらく休み返上で働いたのよ」
「その時におやっさんが言ったんだ。おやっさんのお眼鏡にかなう奴を連れてきたら、とっておきの装備をくれるって。な?ユンリー?」
「その通り!親方の装備の良さが分かって、購入意欲もあって、何より性格が良さそうなサンズくんなら文句ないでしょ!しかも成長型の装備持ちなんて引きの強い自分が怖いわ!」
それが悪い物も引き寄せちゃったんだな。
「しぁあねぇ!約束だ、何でも一つ持ってけ!」
「よっしゃー!サンズ!マジでありがとな!ユンリー行くぞ!」
「サンズくん、今度パーティー全員にご飯奢るわ!また後でね!」
風のように去っていったな。
せっかくだからオレも装備を整えよう。
「親方、このローブに合う装備ってありますか?胸当てとか、靴とか、武器の手入れ道具とかも見たいです」
「……なぁサンズ。アイツらの前では言わなかったが、その腕輪も成長型だ。しかも初期装備三つががっちり手を組んでいるから余計なもん──そうだな、服と靴以外は装備出来ないと思った方がいい。それと、武器は使った後にお疲れさんとでも労えば手入れの必要はないぞ。ローブも裾捌きに慣れたらそこらの鎧よりも遥かに性能がいい」
良かった。
服と靴が装備出来て、本当に良かった。
全裸ローブに裸足なんて、オレには絶対無理だ。
たとえこの三つが成長型の装備だとしても、オレは普通の服と靴を選ぶ。
「じゃあ親方、おすすめの服と靴を見せてもらえますか?」
「おう、じゃあ作業場に行くぞ」
常緑樹を通り過ぎがてらレモンみたいな実を一つもいで、つなぎのポケットに入れた親方。
焼酎に絞ると美味しいそうだ。
両親が晩酌で焼酎にレモンを絞って飲んでいたのを思い出す。
確かレモンサワーって言ってたかな。
二十歳になったらオレの生まれ年のワインを開けて飲もうって話してたのに、もう叶わないのがとても悲しい。
通されたのは、防具用の作業場らしく、トルソーが並び、大きな作業机にはデザイン画や型紙などが積み上がっていた。
この世界は食事情や雑貨などが日本とそこまで変わらないのかもしれない。
「サンズ、コレなんかどうだ?値段はちと高いが、素材はワイバーンの亜種だ。鎧を仕立てたあとの端材を闇の魔石で染めたら性能が上がってな、丈夫さも折り紙付きだぞ」
棚から一抱えもある箱──どう見ても段ボールを持ってきた親方が、黒いベストと黒いショートブーツを取り出した。
ベストは厚手の生地の要所要所に皮が使われていて、ポケットの入り口部分の刺繍がシンプルだけどオシャレな感じ。
ショートブーツは端材だからか切り替えの多いデザインだけど、色が黒だからシュッとしてカッコいい。
「すごくカッコいいです!気に入りました!おいくらですが?」
「金貨五十枚でどうだ?」
「えっ!?ワイバーンの亜種だよね?端材にしたって安すぎない!?」
ハッチの反応を見るに、かなりお得みたいだ。
でもオレ、この世界のお金持ってないんだよね。
あの状態のルミエール達に換金してとは言い出せなかった。
ぶーにゃと先に交換するのも何か悪い気がしたので相変わらずの一文無しだ。
「いいもん見せてもらったからな。初回限定サービスだ。まぁサイズが小さめだし、三十年前に作ったやつだからデザインも古めだし、素材にクセがあるから人を選ぶんだ」
「あの、親方。今手持ちがないんで、後で買いに来て良いですか?」
「手持ちがない?」
「ええ、まあ。異世界のお金しか持ってないんで……」
言った瞬間親方が目の前にいた。
いつ作業机を飛び越えたんだろう?
「──見せてみろ。いや!見せてくれ!何ならこの二つ、異世界の金と交換で構わねーぞ?な?どうだ?」
スピード系ドワーフ疑惑が急浮上した親方が猫なで声で言ってくる。
「サンズくん、僕との交換が先だよね?」
「俺も交換したい!商人だから金は持ってるぞ!」
「私も興味があるわ。ロック、あなたも交換したいって言ってたでしょ」
「ちょ、ちょっと近いです」
親方以外はオレより背が高いから、一斉に囲まれると圧がすごい。
「お、おお、すまねえ!つい興奮しちまった」
「ごめんね、サンズくん。皆、落ち着いて。少し離れよう」
「そこまで珍しいかはわかりませんけど、とりあえず並べてみますね」
作業机のスペースに、一万円札、五千円札、二千円札、千円札、五百円玉、百円玉、五十円玉、十円玉、五円玉、一円玉と順に並べていく。
わ〜とかほ〜とか反応があるかと思ったのに、並べ終わってもみんな無言だった。
ただし並べるにつれて輪が小さくなって、再び圧がすごい。
「……ぶーにゃ?何か毛のボリュームがすごいことになってるけど大丈夫?」
作業机の上の特等席で見ていたぶーにゃがピクリとも動かない。
大きな音を立てたりしたら尻尾が太くなると聞いたことがあるけど、全身の毛が逆立つのはどうしてだろう?
「だ、大丈夫にゃ。ちょっと驚いただけにゃ。……それよりご主人、どれが一番お高いのにゃ?」
「この一万円札だよ」
「こりゃすげー。透かしもあるのか。お前さんの世界は技術力が高いようだな」
「この絵はサンズくんの世界の景色なんだよね?」
「うん。世界というか、オレが生まれ育った国の景色。何十カ国も国があって、お金も国ごとに違うんだ」
「こんなのが作れる国がそんなにあんのか。サンズ、どうだ?この金、ワシに売ってくれねーか?」
「待ってください。僕が先ですよ」
そして始まったオークション──は、早々に中止した。
ルミエールが馬鹿みたいな値段をバンバン付けて、ぶーにゃと親方も負けじと釣り上げて収拾がつかなくなったのだ。
だから本日だけの限定サービスで、お札と硬貨のセットをお一人様二セットまで金貨百枚で交換する事にした。
オークションではこの千倍以上に跳ね上がったから、良心的だと思って欲しい。
「サンズくん!本当にこんなに安くていいの?僕、遠慮なく二セット買っちゃうよ?いいんだね?」
「うん、大丈夫だよ」
全員二セットずつ買ってくれたので、オレはあっという間に金貨千二百枚を手に入れ、そのお金でベストと靴、更に着替え用に丈夫な服を三セット購入した。
しめて金貨七十枚。
いい買い物が出来ましたとお礼を言うと、オマケだと親方が冒険者時代に使っていた野営セットを持ってきたので、流石にそれは貰えないと断ったら、眠らせておくより使ってもらった方がいいと言われ、最後にはありがたく受け取った。
ロックさんが盾、ナナさんが鏃、ハッチは投擲ナイフを購入したけど、ルミエールはセット効果が強いから今のままで大丈夫だと言われていた。
ぶーにゃには全裸ローブの時のお礼として、遅ればせながら素早さ上昇が付与された足輪をプレゼントしたら喜んでくれた。
皆が買い物を終え、オレも買ったばかりのベストに着替え、靴を履き替えたけどあの二人は戻って来ない。
「……ヨーゼフさん達戻ってきませんね」
「何だ?アイツらに用があんのか?」
「……ええと、信じてもらえないかもしれませんが、ヨーゼフさん達が、命の危機に陥るような事件に巻き込まれそうなんです。でもそれがどういう危険なのか分からなくて、助けたいけどオレ達に何が出来るか分からないですし、こんなぼんやりした警告を伝えていいのか迷っていて」
「他にも冒険者は居るだろ?何でアイツらが危険だと思うんだ?」
「オレのスキルに寿命が見れるものがあるんです。レベルが低くて勝手に発動した時、たまたまヨーゼフさん達の寿命が見えて、このままじゃ二日後に死ぬかもしれなくて……」
「──二日後か。狩り場に到着後に何か起きやがるのかもしんねーな。……よし分かった!ワシが何とか同行出来るようにしてやる。アイツらが死ぬのは見過ごせんからな」
「ありがとうございます!」
程なく戻ってきたヨーゼフさんは、真新しい額当てを、ユンリーさんは篭手を選んだようだった。
「ほぉ~、一丁前に目利きが出来るようになったか。ヨーゼフの額当ては一度だけ一撃死を防ぐ効果で、ユンリーの篭手は魔法の威力上昇効果だ」
「……おやっさん、値段を言うなよ?ビビって使えなくなるからな」
「やーねー、もうすぐBランクなんだから俺に相応しい装備だ!くらい言いなさいよ。それより親方、少しは倉庫を片付けてよね!埃っぽいし雑多だし、探すのが大変だったんだから!」
「ガッハッハ!お前らは変わらんな!──所でヨーゼフ、お前闇の魔石の納品依頼を受けたんだよな?」
「ああ、おやっさんの分も取ってこようか?」
「いや、その近くに光苔が採れるだろ?ワシが譲った野営セットのランタンにも使えるから、サンズのパーティーに頼もうと思ってな。サンズ、光苔を十個、ついでに何個か闇の魔石を持ってきてくれ。報酬はお前さんの仲間の装備のメンテナンスでどうだ?」
「は、はい!引き受けます!」
「おいおい、ちょっと待て。サンズ以外のパーティーメンバーが実力者でも、この辺には疎いんだろ?光苔は結構奥地にあるし、いきなりは危なくないか?」
「敵はアンデッド系でしょう?問題ありません。僕は光魔法が得意なので」
「ヨーゼフ、ユンリー、Bランク目指すなら駆け出しの教育や護衛依頼もこなせなきゃならん。心配なら同行して色々教えてやれ。無事帰ってきたらお前らの装備のメンテナンスもしてやる」
「マジで!?よし、サンズ!あの辺は俺達には庭みたいなもんだ!護衛は任せてくれ!」
「光苔の採取にはちょっとコツがいるから私が教えるわ。どう?お昼ご飯がてら作戦会議しない?サンズくんも親方の野営セットがあるから、簡単な買い出しだけで今日中に出発しても問題ないでしょ?」
「はい、大丈夫です」
「サンズ、気負うなよ。冒険者は引く勇気も必要だ」
「親方、ありがとうございます。頑張ります」
親方の御蔭でヨーゼフさん達に同行するという目標は達成した。
後は二人の死を防いで、全員五体無事に帰ってくるだけだ。
いつもなら危険回避をモットーにしてるけど、今回はルミエール達を巻き込んだ責任があるから後ろで見ているつもりはない。
武者震いするオレの肩にぶーにゃが飛び乗ってきた。
本当に頼りになるサポートアニマルだと思う。




